9-03 続報とウラワザ、自由行動
戦いを始める前にここニル・フレイニアについて詳しく解説しよう。
この土地は世界に3つあるライトエルフの国のうちの1つ、その仇敵は我々と同じくエルキア王国となっている。
またフレイニアのもう1つの隣国がサンクランドという名前で、ヒューマンの国なのだがこことは非公式に不戦協定を結んでいるそうだ。
サンクランドとエルキア王国は宗教解釈の些細でつまらん違いにより、これが破局的に仲が悪い。……敵の敵は味方というどこにでもある構図だ。
次に状況だ。
フレイニア北部国境を越えてエルキアの大軍が侵攻して来た。今頃はライトエルフの要塞ユーミルの目前に到達している可能性が高い。
この要塞を突破されたらゲームオーバーだ。
その先から王都まで広い平野が続いているため、大軍を相手に守り切れるものではないのだ。
エルキア軍の具体的な兵力は不明だ。
今のところ5万という概算が出ている。
数がやたら多いので行軍速度が鈍く、さらにはその斥候部隊を何度も叩き潰してやったので時間稼ぎにはなった。……と有角種ゼファーからの報告が入っていた。
隣国サンクランドは国境に牽制の兵をまとめてくれている。
ただし秘密の協力関係にあたるので、戦いに直接加わってくれるかどうかはわからない。ヒューマンがエルフに味方するのは何かとまずいのだ。
……とまあ以上の報告が王都に届いた。
さあなら俺たちはどうするべきか、それを考えなければならない。
これより軍議その2といったところだ。
・
「ゼファーなら今ごろ威力偵察を終わらせてそのユーミル要塞に入ってるだろうな。それからそちらの姫君方がこんな状況で湯を浴びていたのは、そのサンクランドに使者として出向くつもりだったわけだ、場合によっては援軍要請という名の落ち延びとも取れる」
「まあその通りじゃよ。我が娘らは貴重なハイエルフ種、それを絶やすわけにはいかぬ。念のため補足するが、ワシの方はただのライトエルフじゃ」
彼らにも何か事情があるようだ。だが今回の戦いとは全く関係無い。
「次にニブルヘルからの援軍だが……どんなに急いでも4日はかかるな。それまでは俺たちで守り切らなければならないわけだ。よって、姫たちは急いでサンクランドに向かうといい。ダメ元だが」
「わかったぞー、まかせておけー、アウサール~」
会見より数時間が経ち、情報が入ったのでこうしてまた集まることになった。
姫君らは身なりを整えすっかり出立の準備がまとまっていた。
「うむ! で、何かウラワザがあるのだろうっ?!」
「ウラ、ワザ? 何だかおかしな言葉を使うのね……」
最近、異界の言葉がラジールらに浸透しつつある。
俺の影響でもあるが、たまにルイゼにあっちの本を読んでやるのでそこ経由によるのもあるようだ。……これもどうでもいいか。
「うむっ、裏を使った技だッ!」
「ああ、奇策のことね……ニブルヘルではそういう言葉が流行ってるんだ……。ふーん、ウラワザ……変な言葉ね」
訂正やツッコミを入れたい気もする。
しかし黙っておこう、また脱線してしまう。
「ワシらは残りの兵を取りまとめて、全軍で要塞の防衛に向かおう」
「……守備兵は残さないのですか陛下? 迂回されたらひとたまりもないでしょう」
「そこは大丈夫よ。西には結界があるの、ヒューマンだけを拒み惑わす森がね」
最後のパルフェヴィア姫の言葉に驚かされた。
こちら側にも迷いの森という防衛装置があったということにだ。
「うむ、森という盾があったからこそ今日までこの国は続いてきたのじゃ。……しかしここまでなりふり構わずエルキアが攻めてくることなど一度も無かったよ。おかしなことじゃな……」
隣国関係を無視した無謀な侵攻……。
考えてみればニブルヘル攻めも妙なタイミングだった。
こちらの手の内を読んでいるようで、しかし完全には読み切れてはおらず……。
それともやつらの本国で何か起きているのか……?
「わかった、ならば俺は今より単独行動する、前線はアンタたちに任せた」
「ちょっ、ちょっと待て同志アウサール! 我を連れてゆかぬつもりかっ、それではつまらんぞっ!」
将軍や軍師のマネなど俺に出来る気がしない。
色々と考えたが現場に出るのが1番だと思う。
「アンタとゼファーは前線にいてこそ輝く。俺の日陰仕事に付き合わせても戦力と才能の無駄づかいだ」
「ダメだ! スコルピオのオカマ野郎に捕まって、ボロボロのグッサグサにされておいてっ、それで我が納得すると思うなっ! 貴様はな、危なっかしいのだ同志よっ、せめて、何をするか言えッ!」
そこまで気づかって貰えるとは、まるで姫君になったような気分だよラジール。
最初から隠す気などなかったので、思い付きの算段をそのまま告げることにした。
「まずは先に要塞に向かって状況を確認する。それからモグラはモグラらしく地に潜り、可能な限りの支援をする。目当てのものが見つかれば、俺の方からアンタに協力を頼みに行くだろう」
「目当てのものだとぉ?」
「アウサルくん、どうもよくわからないのだけど。貴方は何を探すつもりなのかしら……シッカリ、説明して」
青髪の姫君と桃毛ラジールが身を乗り出して問い詰めてきた。
それに対してこちらは落ち着き払った応対で返す。
ユランのくれたこの力を正攻法に使うなどバカらしい。自重無しの全力で有効活用するべきだ。
「それはな、兵糧庫、それと敵本陣だ」




