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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
ライトエルフの国フレイニア編 それは、分かたれた種族を一つに紡ぎ直す物語
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9-02 トンネルの先は争乱の地、白き王国に迫る人の軍勢 1/2

 驚いたことにあのラジールがちゃんと後始末をしてくれた。

 迅速にニル・フレイニア国王との会談が組まれ、俺と彼女はそれに出席することになったのだ。

 ……なにせ砂利と粉塵まみれなので、ご厚意で風呂と貴人の服を1着借してもらった後に。


「ワハハッ、意外に似合うではないかアウサールッ! うむっ、では行くぞ!」

「誉めるなら次は素直に頼む、アンタはいつだって一言余計だ」


 ラジールが脱衣所をノックもせず押し掛ける。

 どうやらここは地下にあたるらしく、小ぎれいに整えられた階段を登ってゆけばそこは――屋敷ではなく白亜の城だった。ならまさかさっきの女性たちは……。さすがにこの流れは焦る……。


 玉座の置かれた謁見の間を素通りし、さらに上へ上へと登ってゆくと小さな食堂に通された。

 そこに略冠をかけたライトエルフの老人が腰掛けていた。


 さらに悪い部分を付け足すならば、あの風呂場で遭遇した二方も同席していたと加えよう……。

 居心地か? 最悪に決まっている。



 ・



「客人よ、そこの油を取ってくれんか?」

「え、あ、ああ……どうぞ、陛下……」


 謁見の間を使わず、食堂の鉄板を取り囲む。

 ニル・フレイニア国王ヴィズ氏がその鉄板の上で肉と野菜を使った粉物を焼き、焦げ付いてきたからと俺の手元にあった油を所望した……。


「陛下などと呼ぶな仰々しい。そうだな、ワシのことはヴィズ殿とでも呼べば良い」

「田舎者の俺であってもそれはどうかと思うのだが……ヴィズ陛下」


 意外と世俗的な方らしい。

 俺の返事に対して、ライトエルフの老人は穏和な微笑を浮かべてくれる。


「なーにすぐ慣れる! この爺はな、王様のふりをしているがただのスケベだっ、なにせ我のおっぱいを見る目に遠慮ってものが無いからなっ!」

「……アウサルくん、うちのラジールが迷惑をかけたな。この通りの……まあちと、癖の強い娘であるからな……今後とも友達でいてやってくれ」

「ああ、そこはもう諦めた上で割り切っている。こちらこそラジールが失礼した」


 どうもおかしな共感が生まれてヴィズ陛下との距離が少し縮まった気がする。

 ……だがこれでは話が進まん。


「父上、今は悠長にしている場合ではありません。予定だって押しています、シッカリ、して下さい」


 風呂場で出会ったあの青髪のライトエルフがそこに割って入った。

 まるでそれが姫君のような身なりをしているからなおさらに困る。滑舌の悪い小さな妹もその隣にいた。


「うむ、そうじゃったな……。ふむぅ……ゼファー殿とラジールから話は聞いておったよ。だが悪いが本気にはしていなかった。今でも、そんなバカな……といった気持ちが先だっておる。ああそうじゃった、この2人はワシの娘じゃ、アウサル殿にご挨拶なさい」


 ところが姉の方は俺に目を合わせなかった。だから目線をそらしたまま薄い唇を開く。


「パルフェヴィアです。こちらは妹のバロルバルロア、よろしくお願いしますアウサル……くん」

「バロルバルロアだよー、覚えにくいからー、ババロアで、いいよぉーお兄ちゃん♪」


 姉と妹で好感度に大きな格差がある。

 出会いが出会いだったのだから仕方ない。まさか、この国の姫君だとは思わなかったし今も信じたくない話なのだが……現実だ。ああ酷い現実もあったものだ……。


「……先ほどは失礼した。どうかお許し下さい姫様方」

「べつにぃー、いいよぉー? えへへぇー……ねぇねぇ、もっとみたいぃー?」

「はしたないですよ、シッカリ、しなさいバロル」


 こうなっては仕方ない、紳士のふりを続けよう。


「いや遠慮しておこう。まぶしさのあまり目がつぶれそうになったからな」

「おぉぉ……ほんとかぁ? ほんとに、ほんとかー? えへへー、うれしいなぁうれしいなぁー♪」


 ニコニコと肩を揺する青髪の幼女。

 それに対して姉は邪険。唇だけとがらせてこちらを睨んでいる……。

 どうもおかしなことになっているな……。俺は一体どこで間違えたんだ……。


「ラジール……アンタを頼ったのが俺の間違いだったよ……。というか、ゼファーはどうしたんだゼファーは……。なんで、アンタがソレを持っている……アンタの手にある限り、最悪の展開になると約束されたようなものだぞ!」


 いやゼファーもゼファーだ、なぜコイツにオーブを渡した……。

 おかげで俺は城の地下風呂場に風穴を開けるとかいう、とんでもない非常識をさらすはめになったのだぞ……。

 戦略的に見れば……これはこれで有用かもしれんが順序くらい守れ……。パルフェヴィア姫が怒るのも当然だ……。


「それなのじゃがなアウサル殿、すまんがラジールを許してやってくれ」

「……なんと。陛下のお望みならもちろんそれで構いませんが……」


 しかしどうも何か事情があるらしい。

 やさしい王様がラジールをかばい、それから俺に向けるには真剣過ぎる眼差しをこちらに向けた。

 ……鉄板の上を動かしながら。そろそろ食べ頃か、良い~匂いだ。


「ハッハッハッ、感謝するぞエロジジィ。さ~てアウサール、実を言うとだな。あーー……これは大げさでも何でもない話だからな?」

「……ゼファー様は出払っています」


 こちらに目を合わせようともせずに、ライトエルフの姫君パルフェヴィアが話を付け足してくれた。

 麗しいライトエルフのお姫様にここまで嫌われると、1人の読書家として傷つく。姫というだけでそれは憧れの存在なのだ。


「……ああ、威力偵察といったところだ。本当は我が行きたかったんだがなぁ……ここの将とあってはなかなかそうもいかなくてなっ!」


 そこで思考のレールを真剣な方向に移した。

 ゼファーの不在、威力偵察――どうやら俺たちの計画に無い思わぬ予定外が起きて、それがかなりまずい事態になっているのだと察することが出来る。


「詳しく教えてくれ。こっちで何が起きた」

「ああっ、実は憎きヒューマンどもが国境を越えて来た! しかし我はこの地の者だから軍を率いねばならんでな……そこでしょうがない、ゼファーに超最前線を任せたというわけだっ!」

「……相手はエルキア王国です」


 エルキアは傘下の諸侯を多数持つ超大国だ。サウスのスコルピオ侯爵もその一角に過ぎない。

 確かにこれはとんでもない。とんでもないことになってしまっていた。

 トンネルの先には騒乱と滅亡の危機が待ち構えていたのだ。


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