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8-03 スコップと忘れられたハンマー

 といってもな、何世代前かもわからんのでは探すのも一苦労どころではない。

 なにせ代々のどいつもこいつもが何かしらの好事家だ。

 時代時代のアウサルが必要の無いものを処分してきたとはいえ、うちはガラクタというガラクタで溢れている。


「はぁ……」


 倉庫という名の墓標を巡っていた……。

 宝石、石像、壷、皿、本、模型、玩具、香木からただの石ころにしか見えないものまで。ここはガラクタの墓標だ……。

 かれこれ探し回ってどれくらいが経っただろうか、もう夕方近いことだけはわかっている。


 早く戻らなければ晩飯を食い逃すか、ルイゼとユランが俺を待って腹を減らす。


「金槌、金槌、金槌なんてないぞ……せめて整理くらいしておけ先祖ども……」


 ・


 ……そこからさらに時が流れた。

 元々岩窟の中にあるのでカンテラの明かり頼りだが、さっき外を確認したら真っ暗だ。どうりで肌寒い。


「何をしているんだ俺は……はぁ……。金槌なんてやっぱいいか……どうせ使い物になんか――」


 もう帰りたい。疲れた、不毛だ、もう処分してしまったに違いない。

 ……そう結論付けたその時だった。


「せっかくここまで来やがったつーのに! 帰るってのはどういう了見だ説明しろやゴラァッ!」

「…………」


 幻聴だろうか、もう疲れた、帰ろう……。


「ま、待てっ! おいテメェッ、待ちやがれここだここっ!!」

「……どこだ」


 呪われた地に俺ではない人の声だ。

 となれば間違いなく目当てのものなのだろう。先祖が話し相手に使っていたくらいだ。


「景気の悪ぃ声出すんじゃねぇよ! ここだそこの右っ! 違う左だっ、俺から見て右だから左だっての!」

「どっちだよ……。ああ、ああこれか……」


 うろうろと周囲を見合わせば、さあ回収しろと言わんばかりに光る金槌があった。


「最初からそうやって自己主張してくれていたらいいものを……。もしかして放置された仕返しか」

「あったりめぇだこのバッキャロゥッ、散々ッ、人を都合の良いお喋りの相手にしておいてっ、飽きたらそれっきりでポイとかクズ過ぎんだろがおいっ!!」


 酷い話だ。だがボケていないようで一安心だ。

 いささかガテン系過ぎるというか、そもそもガテン系とは何ぞやと言うか……もーわからん。


「悪かったな。……だがソイツは俺じゃない」

「しらばっくれんなよテメェ! ああそうだったっテメェはそういうマイペースなヤツだったなぁっ!」


 しかし先祖のツケを払わされることになろうとは……。

 お怒りはもっともだが、悪いがツケを払う気などこっちにはない。俺は俺だからだ。


「違う。俺は53代目アウサル、アンタがボケていないようで安心したよ。……すねてすねてすね切ってるようだがな」

「ああっ?! 何だ、おめぇ、孫……いや曾孫……いやその曾孫の曾孫か?」


 ガンコかもしれんが話は通じるようだ。

 光るハンマーの態度が少しだけ軟化する。……時間の感覚が狂うほど放置されていたのだな。


「正確には判りかねるがそんなところだ。アンタは、鍛冶師の魂を持った金槌だな?」

「おうっ! だが言っとくぜ。テメェのお喋りに付き合うのだけは勘弁だっ、俺はオメェと話すために存在してんじゃねぇっ!」


 だいたい想像できる。

 アウサルは変人で趣味人だからな……親が死ねばこの死の荒野に独りぼっちだ。

 ……きっと当時のアウサルに子供でも産まれて、一方のコイツは要らなくなったのでしまわれてしまった。といったところか。


「わかっている、先祖が貴方にご迷惑をかけた。……代わりに同じ顔をした俺が謝罪しよう。さて先祖が大変な迷惑をかけておいてぶしつけだが頼みがある」

「オメェ話のテンポ早ぇなぁ……。頼みか、悪いがそりゃ事と場合によるぜっ!」


 こちらの要求を断るとは思えないが少し慎重にいこう。

 何せ相手は職人様だ、へそを曲げたら面倒な人種……という思い込みでいく。


「なに、アンタに打って欲しい物があるんだ」

「……そ、ソレ、ソレおめぇ……! まさか、まさかテメェ! お、おおお俺にテメェッ、か、鍛冶の仕事を手伝えとかよぉっ、言うんじゃねぇだろうなぁオイィッ!!」


 鍛冶師が好きそうなセリフを一言使っただけなのだが、これが全力で釣られに来た。

 思ったよりあっさり片付きそうだ。


「そうだ。迷惑をかけたのは承知しているが、しかしそもそも先祖がアンタを掘り当てなければ、アンタはそのままずっと――」

「たっ……頼むっやぁぁらせてくれぇぇぇぇーッッ!! うぉぉぉぉぉぉっ、ま、また鋼を打てる日が来ようとはッッ……ウォォォォォォーッッ!! 感無量だよオイラァァァァーッッ!!」


 ……まさかの自称オイラかよ。

 これがべらんめぇ調のうるさい男だった。

 どうも興奮すると魂が実体化するようで、目の前にむさ苦しい無精ヒゲのおっさんが現れる。


 少しくらい手入れしろよってくらい見苦しい。

 ソイツが大地に膝を突き、天を仰ぎ両手を掲げてむせび泣いていた。やたらに大げさだ。


 ・


「とにかく話がまとまって良かった」


 俺はそのわけわからん金槌あらため鍛冶ハンマーを肩に背負って、暗闇の地下道をヤツと語り合いながら進んだ。

 刀の美しさ、大剣の雄々しさ、細剣のはかなさを意気投合して話した。


「へぇ……ならアンタ好きでそんな姿になったんじゃないのか」

「あたぼうよ! どこのバカが好き好んでこうなるってんだっ! あのクソたちの悪いあんにゃろがっ言ったのさ! おまえを最高の鍛冶師にしてやろう! ってよぉ!」


 で、今度は彼の身の上話になった。


「ああそりゃ嬉しいねぇ、既に最高の鍛冶師であるところ悪いんだが……ワハハッやれるならやってみやがれバーカッッ!! ……てぇ答えたらよぉぉぉ……こんな姿に……ふざけんなよあの野郎ッッ!!」


 どこの神話でもありそうな話だった。

 どこにでもいるものだな、願いを歪める悪神というものは。

 まあここではない異界の話なのだから今さらどうしようもないが。


「ん、そういやテメェに雰囲気が似てる気がするな……?」

「そんなわけないだろ。それにここはアンタからすれば異世界だ。そのアンタに教えてやろう。……ここの神様はもっとたちが悪い。なにせ自分の身勝手で、種族ごと滅ぼそうとするヤツが創造主だ」


 そのサマエルさえしっかりしていれば誰も苦しまなかったというのに、救いようのない神様だ。


「ソイツを出し抜く仕事を手伝ってくれないか」

「おおそりゃあの野郎に似たムカつくバカじゃねぇか! いいぜっ、テメェの剣を鍛えてやろうじゃねぇか! あ、それとも刀がいいか? ああ槍も良いぞ、道具が十分にそろったら鎧だって作ってやんよっ!」


 ああ、そうか。ついにそこに触れるか。触れて、しまうか。

 トンネルを抜けてア・ジールに入った。こっちにも繋げておいたのだ。

 人工太陽は発光を極小まで弱め、つまりア・ジールは蒼い夜に包まれている。


「それなんだが。……作ってもらうのは剣でも槍でもない」


 まあここまで運んでしまえばこっちのものだ。

 彼の好みに合わなくともゴネて押し通せばいい。


「はっはぁ~? そうなるとアレだろ、アレだ、俺にはわかんぜ。剣でも槍でも刀でもねぇってなると……なると……んん、なんだ? 斧かっ?」


 ……早く帰らないと。

 ルイゼもユランもきっと腹を空かせている。

 美しきア・ジールの小麦畑がそよぎ、あちこちから暖かな夕飯の香りや笑い声が響く。


「いや、スコップだ。アンタには俺のスコップを鍛えてもらう。ちなみに炉はまだ無い、全部最初から教えてくれ」


 すると、話が違うとソイツが叫んだ。


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