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7-03 手当たり次第そこにある道具で、地下隧道を作る

 おかしな話だが、それからの生活というものが呪われた地のアウサルらしい形に戻っていった。

 まず朝日が出たらルイゼと共に家を出て、夕方までがむらしゃらにトンネルを掘り進める。そして家に帰って寝る、そんな生活だ。


 ただ[アウサルの所領-ニブルヘル砦]の地下道の時とは少し事情が異なった。

 あれは小さな荷台1つ分だけ通れれば良かったのだ。


 ところがこっちは交易路、後から広げるにしてもせめて荷台2つ分は楽に行き来できるだけの幅が必要だった。

 高さも運搬物の大きさを考えるとそれなりを確保したい。

 でなければ途中で人と荷物という循環が引っかかって、なにかとんでもないことになりかねない……。恐いのは渋滞だ。


「今度は根本から折れてしまったか……金物屋め、中途半端な修理だ、プロ意識が無いな」

「アウサル様、もうスコップは全部壊れちゃいましたよ……?」


 2時間ほどに1本、新品や修理済みのスコップが台無しになった。

 物が力と岩盤に耐えられないのだ。


 なのでスコップが無くなったら代わりにクワで削り込んだ。

 そうなのだ……。

 この前試してみたら……驚いた……知らなかった……。誰か言ってくれ……。

 まさか別にスコップじゃなくても、穴掘り能力が発揮されるなんて……そんなの知らなかったぞ……。


 で、そのクワもオシャカになったらシャベルの出番だ。

 さすがにシャベル程度ではいくら手数を増やしても切りがない。なのでトンネルの壁を整える作業に使った。

 これはゼファーの意見だ。今はいないがこう言っていた。


「アウサル殿、この岩盤の削り肌丸出しの壁は、いささか怖いでござる……。地下世界であることを実感させる上に、落盤の危険に震えると申すか……もう少しどうにかしておくでござるよ……」


 開通して本格的な運用が始まったら、壁に飾り気も加えたいとも言っていた。

 それで多少はマシになると。



 ・



 夕方になるとグフェンら仲間の元に立ち寄る。

 セイクリットベル及び砦奪還計画の打ち合わせや、その他もろもろの連絡だ。

 それで工事開始から5日目になると、ついに彼らに問いつめられることになった。


 アンタ最近姿が見えないが何をしているんだ、と。

 だから見せてやったのだ。俺が掘り進める夢のトンネルを。グフェンとフェンリエッダに。


 ・


「ハハハハハ……嘘、だろ……アウサル、お前という男はどこまで……ぁぁ……信じられない……」

「まさに救世主ユランが遣わした奇跡の男というわけだ。まさか、こんな発想が……すごいな」

「ずっと秘密にしていてすみません……。アウサル様ったら、後戻り出来ないところまで進めた方が説得しやすいからって……すみません」


 ルイゼの頭を撫でて協力と沈黙に感謝する。

 二人とも驚いていた。平たい表現で恐縮だが、頭がまだ追いついていないらしい。


「5日というその割によく整っているな……。そうか、これが金物屋泣かせていたカラクリというわけだな。ん、これは何だアウサル?」


 しばらく進むとフェンリエッダがある壁に駆け寄った。

 そこだけ岩盤の材質がまるで違うのだ。


「ああ、硬い金属の鉱床だ。鉄のスコップがすぐにダメになるあたりメチャクチャに硬い、既に大自然の嫌がらせを超えている」


 だから避けて通るはめになった。

 出来るだけ鉱床を避けてみようと試行錯誤した結果、そこだけ広い部屋と、鉱床という石柱群になったわけだ。


「鉄より硬い金属か。取り出して精錬すれば使えるが……生憎我らダークエルフにはその技術がないな。ア・ジールの空気を汚すのもいただけない」

「ああ、やるとしたら地上を取り戻してからだな」


 ここは地下世界だ、どうしてもその辺りには気を使う。

 ア・ジールという遺跡群そのものが、不可思議な力で空気を浄化してくれているようだが……。

 よくわからない以上は無理なことなどしたくない、というのが俺とグフェンの共通見解だ。


「せめて宝石の鉱床を当ててくれたなら良かったのだがな。……いや、それはそれで交易路として不都合があるか。しかしすごい……」


 フェンリエッダがまた黒い鉱床を撫でる。

 彼女も武人だ、硬い金属と聞けば憧れてしまうのだろう。それがあれば敵の剣を叩き潰せる。


「フッ……まさか地上を介さず直接味方の国と繋げようとするとはな……つくづく常識の無い男だ、お前は」

「俺はただそれが必要で、出来るかもしれないと思っただけだ。その期待を裏切らないようにしよう」


 無意識かフェンリエッダが嬉しそうに笑った。

 ユランのくれた力が、いやスコップが人々に夢を与えている。

 ブロンドの彼女は興奮気味に辺りを見回し、それから黒い鉱床がやはり気に入ってるらしくそれをまた撫でる。


「せめて言ってくれればいいものを……しかしアウサル殿、方角の方は大丈夫なのか?」


 グフェンの質問に対して、少女ルイゼが駆け寄ってある物を見せつけた。


「グフェン様、こんなものをゼファーさんが貸してくれたんです。これがあればだいたい大丈夫だって」

「……方位磁針か」


 これがあれば方角が狂うこともない。

 ……磁性をもった金属の鉱床がどこかに隠れていない限り。


「ああ、ゼファーたちに測量に向かってもらっている。大まかな方角がわかったら戻ってきてくれる。あとはそこから微調整する予定だ」

「測量とは懐かしい言葉だ。……まだ世界が平和だった頃はそんな言葉もまだ身近だったな……ゼファー殿がこうして味方になってくれて良かったものだ」


 彼はユランのことを知っている。

 そうなるとどれだけ長生きしてきたんだろうか。

 つい聞いてみたくなるが、グフェンも多忙だ、なかなかその機会がない。


「まあそういうことだな。そんなわけで、そちら側の仕込みが終わるまで俺はこうやって暇を潰していよう。考えるより掘っていた方が落ち着く」


 ・


 こうしてア・ジール政府の支援で工事が少し円滑になった。

 とはいえさすがのユランの使徒であってもこれは難しい。完成はまだまだ先のことになる。

 けれどひとたび開通すれば、細いが交易路として画期的な利益をもたらすだろう。


 流通だけではない。

 もし片方が攻め滅ぼされそうになったら、このトンネルが秘密の援軍ルートになる。

 人知れず兵員を輸送することが出来る。その価値は無限大だ。大げさに言えば繋げば繋ぐほど虐げられし種族たちが強くなる。


 そんな日を夢見て穴を掘り続けよう。

 策略を練るよりこういった単純作業が俺にはお似合いだ。俺はしがない発掘屋だからな。

 狙いは東のライトエルフ、古き縁をここに発掘して見せよう。


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