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7-02 スコップ一つで作る反逆の地下帝国:プラン2

 こうして計画が大がかりな方向に軌道修正された。

 砦をその機会に奪う、ラジールの直感に任せた意見は間違ってなどいなかったからだ。


 しかしそうなると1つ困ったことになった。

 そうなると、またやることが無くなりかけていた。

 いくらスコップを返してもらったからといって、楽しい開拓作業を奪うわけにもいかない。


 かといってアウサルの財宝をどこかに売り付けようにも、今のニブルヘルには難しい。

 流通元を隠さなければならないため、売れ行きがダブ付いていた。

 諜報などの暗部の仕事も、目立つ外見の俺に出来るわけもなく……だからとにかく暇で暇だったのだ。



 ・



「なるほど荒野の向こう側に目を付けたでござるか。それで武器防具や財宝の商取引をするならどこが良いのかと、拙者に聞くのでござるな」


 それとなく商売の質問を剣豪商人ゼファーに持ちかけた。


「アンタ本業は商人だって言ってただろ。だから白き死の荒野に引きこもっていた、不勉強な俺に、教えてくれ」

「ははは、へりくだるでござるなぁ~……。しかしそれを知ってそなたはどうするつもりなのでござるか? 取引関連は文官や拙者ら商売人に任せておられたではござらんか。まさかアウサル殿が口をはさんで来るとは夢にも思わなかったでござる」


 口調はまるで物語の中の武士風だが、知的に一角と銀髪のゼファーが笑う。

 コツコツと自分の一角を小突いて、これがどうやら俺の真意をうかがっていた。


「わけは後払いで頼む。先に情報をくれ」

「ほうそうこられたか。んーー……そうでござるな。その死の荒野と山岳があるゆえ、最初から西側への道は大きな迂回を余儀なくされているでござる」


 西はダメと。まあ実は何も問題ないのだが。

 ……いや死の荒野の地下となればヒューマンですら即死か。


「北はエルキア本国やらヒューマンの勢力圏でござる。それこそ不都合ばかり、それにヒューマンどもと取り引きしたところで向こうも富ませることになるゆえ……それこそ拙者はお断りでござる」

「となれば東と南となるのか」


 荒野は耕作に適さない。

 さらには動植物が極端に少なく不毛だ。


「荒野を南に抜けた先には獣人の国。東にはライトエルフの国があるでござる。ただし、どちらも間にヒューマンの国が陣取ってるゆえ、取引も行き来も簡単ではござらん。各種族たちは世界中で孤立し、劣勢を強いられている。そんな中、拙者ら有角種だけが結界の中に逃げ込んで戦わない。……ということでござるな」


 やはり変わり種の彼女はその辺りが気に入らないらしい。

 何とかセイクリットベルを奪い取って、俺たちが直々に押し掛ければ向こうの見解も変わるのかもしれないが……。

 まあ今は関係ない。手に入れてから考えることだ。


「取り引きして美味しいのはどっちだ?」

「東でござるな、ライトエルフは優秀でござる。ダークエルフと互いに弱点を補い合って生きてきた種族ゆえ、元より友好的でござるよ」


 即答だった、獣人とライトエルフでは取引相手としての価値に歴然の差があるようだ。


「逆にケモ人の方は……ふぅ……。まあ、薬作りには天賦の才があるかもしれんでござる。が、商売の相手として見れば規模も性質も今1つ、身体は飛び抜けて強いのでござるが……勤勉ではないでござるな、いい加減でまいるでござる……」


 確かユランの話だと巨人の身体能力に温厚な性質を持たせたのだったか。

 俗称はケモ人と呼ぶのか。


「まあ魅力があるとすればリスクの低さでござる。間にあるヒューマンの国がエルキアを警戒しているためか、まだあっちよりは話が通じるゆえ」

「そうか、とても参考になった。そうなると東が良さそうだな」


 彼女はその身で世界を渡り歩いてた人だ、間違いないだろう。

 ところで今いるここは高台から少し下りた新しい町にあたる。

 つまりダークエルフたちが自分たちで築いた、汗と苦労による間に合わせの町だ。下町とか掘っ建て小屋とも呼ぶ。

 荷台に手をかけて空を見上げ、その地より東の方角を確認した。


「アウサル殿、ところでその荷台はなんでござろうか?」

「ああこれか。道具だ、手当たり次第集めた」


 荷台の布を少しだけめくってみせる。

 ……これを俺が持ち歩いていると知れると、少しばかしまずいからチラっとだけだ。

 ありったけのスコップに、シャベル、クワ、とにかく掘る作業に使えそうなものを手当たり次第用意した。


「な……なにをするつもりでござろうかアウサル殿……。まさかとは思うござるが……話の前後関係を考慮するに……いやまさかそんな……」

「そのライトエルフの国は具体的に東のどっち側にあるんだ?」


 そんなの信じれない! といった顔をされた。

 一方の俺は真顔だ。悪いが何が悪いのかわからない。


「アウサル殿……ちょっと待つでござるよ……。どっちって……正確には東南東でござるが……それより先に説明するでござる。……何をするつもりでござるかッ?!!」


 驚きに対して豪快な笑顔を向ける。

 こっちには迷いなどない、暇なのだから仕方ないのだ。やれることをやるしかない。


「本当は俺がそのライトエルフの国に行けばいいんだが、生憎お尋ね者だからな。この見た目もある、外をうろつくとなるとこれが不便極まらん。……ならばここア・ジールから全てを完結させるしかないだろう」


 それにこれは必要なこと。

 ここを本当の意味での地下帝国にするためにも、邪神ユランの願いのためにもやるしかない。


「いや常識で考えるでござるよっ!? まさかとは思うでござるがっ、まさか地下道で繋げようだなんて考えてるなら……そんなの無理でござるよっ?!! ここからどれだけ距離があると思ってるでありますかっ、荒野を抜けるキャラバンを組んで、6日もかかる距離でござる!」


 正解だゼファーさん、ならいっそ地下道で国と国を繋げてしまおうと思う。

 これで流通の問題が一挙解決する。


 家宝のスコップを侯爵に奪われてしまったので、いつ完成するかはよくわからないが、しかし地道にやっていればどこかに繋がる。間違ったら埋め固めればいい。


「ここア・ジールを完全に閉ざされた世界にしておく必要などない。いっそ繋げてしまおう。本格的な可能性が見えてたらグフェンに協力を願うとして、まずは試してみようではないか」


 セイクリットベルを奪い、砦を取り戻したところで状況は変わらない。

 エルキア本国と侯爵は俺たちの包囲を強める。それを地下道で出し抜いてやろう。


「世界中に分散した種族たちを、かつてユランに従った仲間たちを、ここア・ジール地下帝国に繋げるのだ。それこそ、この地を本当の意味での反逆の地下帝国に育て上げることになる」

「アウサル殿……拙者、そなたのことを誤解してたでござる……。一見クールなようで実のところそなたは……熱い夢想家でござるな……」


 銀髪のゼファーさんが荷台の後ろに立った。

 それで何をするかと思えば押してくれるのだ。それから東の方角を指さす。


「暇ではござらんが付き合うでござる。せめてやれるかどうかこの目で見定めさせてもらうでござるよ」

「そうか、アンタが力を貸してくれるなら方角の方は何とかなりそうだ。率直に言えば、今は感謝の気持ちでいっぱいだ」


 勝利の鍵は敵国横断トンネルだ。

 全ての種族圏を地下トンネルで繋ぎ、俺はユランの願いをここに実現してみせよう。

 全ての虐げられし種族を救う。それこそが創造主に弓引いた邪竜の願いなのだから。


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