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7-01 裏技封じ:セイクリットベル奪取計画1/2


前章のあらすじ


 拷問の傷は深く、療養に1ヶ月が必要になった。

 楽園アジールでの、退屈ながらも平穏な生活が続いてゆく。


 療養を始めて半月が経ったあくる日、アウサルは己を庇い矢に倒れた青年アベルハムと再開した。

 アベルハムは謙虚だったが誠実で利発、そこで恩返しもかねてアウサルは人材不足に悩むニブルヘル上層に彼を紹介する。

 またその際に有角種ゼファーの話を聞いた。


 そのゼファーの足取りを追って、ある遺跡にて彼女の真意を聞き出す。

 戦いを放棄して、結界の中に閉じこもった仲間たちが許せない。

 しかし遺跡から技術を盗み、勝算を示せば同族たちも考えを変えるかもしれない。


 だがアジールで発見されたその遺跡の機能は、ただ湯を雨のように天井から降らせるだけの、意味不明の施設だった。


――――――――――――――――

 奪還劇 地下帝国反逆の夜明け

――――――――――――――――


7-01 裏技封じ:セイクリットベル奪取計画


「さて集まったな。ところでアウサル殿、いきなり横道にそれるが身体の方はもう平気なのだな?」


 グフェンの召集に応じて邸宅政務所に集まった。

 といっても結局は民家なのであまり広いとは言えない、4人掛けのテーブルに座った俺たちはアットホームなその距離間を確認し合った。


「医者もアンタも大げさだ、何ともないと言っているだろう。それにスコップを返してくれたのはアンタじゃないか」

「うむうむ! また共に戦場に立てるとは嬉しいものよっ、いいや我はもうお前がいなきゃいやだ! アウサールよ、次に負傷するときは3日で治る傷までにしろっいいなーっ!」


 お茶――もとい柑橘の果汁を水で薄めたものをすする。

 仕方ない、ア・ジールの大地に茶畑などまだないのだから。


「ではアウサル殿、立案者は貴殿だ。作戦の解説進行をお願いしよう」

「そりゃ呼び出しておいていきなりだな、まあいい。今回の目当てはセイクリットベルだ」


 ここはリーダーのグフェン、客将ラジール、それと新人のアベルハムと俺だけだ。

 肩ひじ張らずゆっくり柑橘水で喉を潤してから言葉を続ける。……どうでもいいが後味が渋い。


「質問ですアウサル様、そのセイクリットベルとは具体的にどういったものなのですか?」

「うむっまずはそこから頼もう。我は細かいことなど3歩歩いたら忘れるのだ、ワハハッ!」


 物語のリーダー格ならここで、良い質問だ、などと言うのだろうか。いやそれこそどうでもいい。

 それとラジール、それだとアンタに説明する意味が無くなる。


「俺たち本来の拠点、ニブルヘルの隠し砦が襲われる発端になったものだ。スコルピオ侯爵によると、これで迷いの森の力を無効化することが出来る。……まさに俺たちにとって最低最悪の存在だ」


 ラジールも軍人だ。アベルハムも元一平卒なのもあって言葉を真摯に受け止めてくれる。

 それとなく戦略上の意味合いも理解してくれただろう。


「つまりそれが向こうの手の中にある限り、いくら砦を取り戻しても意味がないということだな。それをするくらいなら、ここア・ジールに引きこもっていた方が良い。……あそこの主としては悲しくやるせない話だ」


 俺たちはまだ侯爵の兵を正面から押し返す力がない。

 迷いの森という絶対の盾がない限り、ニブルヘル砦は存在することそのものが許されないのだ。


「うむわかったわかりやすいぞ、ならそれをぶっ壊せば良いのだなっ!」

「こ、壊してしまうんですかっ?!」


 再び奪い返されることになるくらいなら壊した方が良い。ラジールの手早い結論も正しい。


「それも考えたが壊すのは止めておこう。調べたら欠点がわかるかもしれない。それと、引きこもりの有角種の結界を破るのにも使える。こちらから押しかけてやれば震え上がることだろう」

「む、それはちょっと面白そうだから賛成だなっ、よしならば壊さずに奪い取ろう!」


 それと今急いで奪い返すには理由がある。

 ここア・ジールには弱点があるのだ。ここは秘密の土地、しかも地下世界だ。

 工業や商取引などを行うには地上施設が必要だ。


 ここでは秘密裏に外から物資を持ち込むだけで大変なのだ。

 だからこうして風味付けをしただけの水をすすっている。


「質問です。その……セイクリットベルの場所はわかっているのでしょうか」


 なんて模範的で進行をやさしくフォローしてくれる質問だ、ああアベルハムは聡く良いやつだ。


「うむっ、在り処も問題だが警備も厄介だろうな! どうせあのオカマ侯爵の屋敷にあるとして、忍び込もうにも待ち伏せされてしまってはかなわん!」


 つまり地下経由という同じ手に、相手が2度も3度も引っかかるかという話だろう。


「そのあたりはグフェンの育てた諜報網がある。上手いこと隙を突くしかないな。期待していいのだなグフェン?」


 俺たちの目が青肌のでかいダークエルフに集まる。

 その口元が穏やかに微笑み、さらには鼻を鳴らして笑った。


「これならいつ俺が死んでも心配いらなそうだ。若者が育つ姿は実に良い」

「グフェン様。そういった発言はフラグとやらだから止めろと、自分はたびたびアウサル様に注意されます。縁起でもないですよ」


 そういうわけだ、心配になるから止めてくれグフェン。


「それで、実際のところ向こうの様子はどうなんだ、アンタもう調べてあるんだろう?」

「それは話が早いっ、ぜひ聞かせてくれっ!」


 グフェンの様子は穏やかだった。

 頼もしいその思慮と体格が本当にリーダーらしい。……サボり癖が少しひどいが。


「その例のベルの所在だが、どうやら侯爵が肌身離さず持ち歩いているようだ」


 しかし朗報とは言い難い。

 せめてどこかにしまい込んでくれれば良いのに、そう来たかスコルピオ侯爵よ。


「厄介ですね……」

「むむむむむー……つくづくちっちゃい男めッ、我のかわいいアウサールをボロボロに虐めたあげくっ、あ~~気に入らん根性だッッ!」


 やつから直接奪うくらいならむしろそのまま暗殺してしまえるという話だ。もちろんそれが出来たら苦労はしない。


「……あの男はバカではないからな、そうやって俺に奥の手を見せたことを後悔しているのだろう。ベルはエルキア本国がヤツによこした切り札だ、奪われたとあればヤツの立場もただでは済まない」


 そもそもそのエルキア本国がどこからセイクリットベルなんて裏技アイテム見つけてきたのか、という疑問もいまだ晴れていない。


「またその肝心かなめの侯爵の居場所だが、どうも完全に守りに入っているようだ。厳重な警備の中、亀のように屋敷に引きこもって出てこない」


 それまた厄介な状況になっている。


「ワハハッ、傾いた屋敷で言葉通り斜めになってるというわけだなっ、ざまぁみろだなっ!」


 ラジールは前向きだ、けして暗く考えず豪快に笑う。

 ざまぁみろか、その通りだとも。いつかヤツに全てのツケを支払わせてやる。


「屋敷周辺にはスコルピオ侯爵の近衛兵が巡回している。一般人には近づくこともかなわない状況だ、中も恐らく同様だろう。……もちろん間者を入れてはいるが連絡だけでも難しい」


 そうだった。エルキア本国からの大軍だが、どうも何かあったのか予定をさらに早めて撤退していった。

 王直属の精鋭だけがそこに残り、この精鋭たちの存在が状況をさらにややっこしくしているのだ。


「いっそそれだけ厳重なら何もせこせこしく盗むのを止めてはどうだっ?! アウサルの地下道から直接全軍で侯爵邸宅に流れ込みっ、一気にヤツを叩き潰す! いくら国の支配者でも内部から直接本丸を攻められてはどうにもならなかろうっ!」

「ら、ラジールさん……ラジールさんって……。意外と考えてるんですね……意外だ……」


 こらこらアベルハム、本音が出ているぞ。

 確かに強引だが、俺の力とア・ジールの力を最大まで有効活用した正攻法とも言える。だがそれはダメだ。


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