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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
脱走劇 スコップを奪われたモグラ男 雷鳥と共に錆びたスコップを握る
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5-5 楽園への帰還、反逆の地下帝国のはじまり 2/2(挿絵あり

 兵の姿は無い。

 苦労の果てに俺たちは迷いの森へとついに到達した。


 当然その奥のニブルヘル砦にも軍が駐屯しているだろう。

 なのであえて森の南外れを選んで回り込み、そこへと馬車と仲間を隠した。あとは……。


「アウサル殿、それで……その方の仲間はどこにいるのでござるか?」

「こっちだよ……」


 質問に対して地を指さした。

 錆びてないスコップを3本も調達してもらった、あとはただここを掘るだけだ。


「掘るのでござるか? しかしその身体では……さすがに少し休むべきでござろう」

「そうですアウサル! 我々をここまで導いてくれただけでも、あなたには感謝し切れません。見張りは我らがしますので、少しだけ休みましょう……」


 銀髪のゼファーだけではなくダークエルフの仲間たちも気づかってくれた。

 彼らを見ていると不思議な感じがする。

 本の中の冒険物語に自分自身が迷い込んでしまっているかのような、実に妙な感覚だった。


「そうはいかないな、もう夜が明けてしまったのだ……。これ以上明るくなる前に……あそこへと繋げなくてはならない……」

「アウサル殿っ、無茶でござるよ……っ。英雄にでもなったつもりでござるかっ、1人が、そこまでがんばらなくてもいいのでござるっ!」


 そうは言うがそうもいかんだろう。

 今活路を開けるのは俺しかいない、それに繋げてさえしまえばやっと……俺はあの場所に帰れるのだから。


 スコップを杖にして無理やり立ち上がる。

 気力を込めてそれを振るい、大地を数度えぐった。

 たったそれだけで深い穴が開く。大丈夫、十分これならいける……。


「……アウサル殿、すまんがそこで止まるでござるッ。こんな時に何でござるが、敵に、敵に気づかれたでござる……ッ」

「なんだと……」


 ゼファーさんの視線を追って後ろに振り返った。

 すると確かにヒューマンの兵たちがそこにいて、俺たちをうかがい……いや俺に向けて弓を構えていた!


「ウグッッ……?!!」


 ……避ける間もなかった。

 スコップを身構え戦いを決意した頃にはもう……。目の前に俺を庇って崩れるダークエルフの姿があった。


「な、何をやってるんだアンタッ!」

「ガハッ……ご、ご無事で何より、です、アウサル様……」


 見ればさっき俺をいたわってくれた、あの若い青年だった。

 その彼が背中に矢を5つも突き刺されているというのに、なぜか安堵の笑みを浮かべている。


「応戦する! 武器になる物があれば、その者は拙者に続けッ!」


 相手は8、だがこちらは手ぶらの負傷者だらけだ。

 かろうじて地下牢の見張りから奪った剣が3つ、スコップが3つ。

 ……そうなれば俺もその数に加わるのが当然の成り行きだ。


 勇敢な有角種ゼファーの背中を追って、俺は敵へと突撃した。


「アウサルを殺せ! これは侯爵閣下の命令だ、ヤツらは弱っている皆殺しにしてしまえっ!」


 こっちは監禁と拷問による消耗状態、あちらは疲労0の準正規軍、侯爵が動かした追っ手のようだ。

 そこに不十分以下のこの装備となれば、下手すれば戦いにもならずに全滅する。


「ギャッッ?!」


 ところが思わぬ誤算が起こった。

 そのユニコーンみたいな銀色の一角女、ゼファーは確か剣豪と自ら名乗っていたではないか。


「義を忘れた者など拙者の敵ではござらん、さあかかって来るがよい……」


 先陣の彼女が初撃で1人を片付けた。

 俺が追いつく頃にはさらに2人が地に倒れる。

 ……商人とも言っていたがきっと剣豪の方が本業だ。

 鞘より剣が一瞬で飛び出してはそれが戻ってゆく。


「アウサルは手負いだ、ヤツを殺せ!」


 弓兵が再びこちらを狙い定める。

 すぐに容赦無く矢が撃ち込まれ、俺はただのスコップでそれらを弾き飛ばした。


「ウッ……!」


 しかし一発分の矢尻が二の腕をかすめていた。


「アウサル殿ッ、自分が死なないと思っているならそれは思い上がりでござるっ! しからば失礼ッ!」

「んなっ……! あ、アンタ……ッ!」


 それだけならまだ良い。

 麗しき一角の剣豪様がこちらに反転し、俺を草むらの中へと迷わず蹴り飛ばした。

 そうして足手まといの怪我人を片付けると、敵兵へと再度果敢に突撃する。


 それに後続のダークエルフたちが続いた。

 俺は指と全身をやられているのだ。だから1度倒れると消耗も重なってなかなか立てない。


「つ、強いッ!? な、なんだこの角女はっ、ギャッ!」


 激しい撃ち合いが鳴り響き、それから俺が何とか再び立つことに成功した頃にはもう全部が終わっていた。

 抗戦に加わったダークエルフ1人が刀傷を負ったが、敵部隊の全てが地へと倒れている。


「アウサル殿、ここはひとまず場所を移すでござる。もし援軍を呼ばれていたら……どちらにしろ急いで離れるべきだ」

「わかった……」


 ならば負傷兵の救助に回ろう。

 そう思い1歩を踏み出すと、今度は後方より声が上がった。……敵襲と。


「――!」


 さっきの部隊の伏兵か。

 素早い身のこなしでゼファーが救援に走る。

 せっかく助けた仲間たちをここでやられたら、最悪だ、それだけは許されない。


「武器を持たぬ者に何てことを! 貴様ら卑怯でござろうっ、だから嫌いでござるお前たちはっ!」


 しかし後方は彼女がいれば大丈夫だ。

 問題は……。

 俺の正面に、さらなる敵増援(・・・)が現れてしまった点だろうな……。


「いたぞアウサルだッ! アウサルは殺せッ、侯爵の屋敷を傾かせた張本人だ!」

「ハハ、そりゃ元から地盤が緩かったんじゃないかな……。ああ、そういやあそこも、だいぶ前に宝物庫荒らししてやったんだったか……」


 また弓だ……。

 敵軍の弓兵が俺を狙い、凶弾を撃ち込む。


 それをどうにか避け、飛び込むように木陰へと隠れたが……これじゃそのうち追撃を受ける。

 逃げようにも退路が無い、走り出せば背中を撃たれてしまうのも明白だった。


「はぁっはぁっ……く、あと1歩だというのに……。侯爵め……ついに俺を殺す気になったか……」


 どうする、穴を掘って隠れるか?

 いやそんな時間などない、掘っているところを撃たれてしまうのがオチだ!

 逃げれない! 動けない! 詰んでいる!


「殺せ! アウサルは危険だ、あの呪われた怪物を殺せ!」


 俺はヒューマンだ、怪物じゃない!

 そうだ、何としてもこの場を切り抜けて、俺はこのサウスの全てをひっくり返してやるのだ!


「回り込め! 一網打尽にす――」


 …………矢の音がした。その言葉が止まる寸前に。

 てっきり自分に撃ち込まれたのかと思い込み、俺もその場へと倒れ伏せたのだが――こっちには1発も飛んでこなかったのだ。


 ヒュンヒュンとさらに複数の矢音が空を切り裂き、敵軍の悲鳴が上がってゆく。

 続いて無数の足音がとどろき始めると、どうもそれがこちらに突っ込んできた。


「アウサル! どこにいる私だっ、フェンリエッダだ! ……あっ、あぁっ?! ああやっと見つけたっ、アウサルッッ!!」


 まさかそんな……。まさか、あそこから自力で地上に抜け出していただなんて――。

 絶体絶命のそこに、ニブルヘルからの援軍部隊が来た。


「アンタか……は、はぁぁぁ……。つまらん言い回しだがな、さすがに……もう死ぬかと思った……、ありがとう……はぁ、はぁぁ、ぅ、ぅぁ……」


 味方増援が後方の敵軍を駆逐してゆく。

 そんな中悪いのだが緊張と体力の限界に達した俺を、ブロンドのダークエルフ・フェンリエッダが抱きかかえてくれた。


挿絵(By みてみん)


「何だこの身体は……そんな、指もッ……! アウサルお前っ、お前っ……。でも……でも生きてて良かった……。本当に、本当に心配したんだ、私は……私たちはお前に死なれたら……ッ」


 エッダの涙が降り注ぎ、それが傷に流れてまたしみた。

 待て、塩気はヤバい勘弁してくれ。


 だが彼女はそこで感極まったまま、こちらに気を使える状態ではなかったようだ。

 感動のシーンらしいのでそこは我慢しろということだな。し、しみる……。


「アンタ、何でここにいる……。いや、そんなの決まってるか……。あのまま閉じこもってれば良かったのに……自分たちで、あそこから地上に繋ぐだなんて……」

「ああ……何度も落盤して大変だった……。でもそのかいあったよ……おかげで、私達の手でお前をあそこへ連れ帰れる……」


 後続の方も片付いたのか、向こうでも喜びの歓声が上がっていた。

 銀角ゼファーの麗しき武勇を誉め称え、賑やかで希望に満ちたやりとりが遠く繰り返されている。


 ……もう疲れて死にそうだが、ここに長居するのはまずいだろう。

 彼女もその意図を察してくれた。


「帰ろうアウサル……。お前が私たちにくれた楽園……その名も、ア・ジールにだ! 私たちはずっと待っていた! お前が帰る日を!」



 ・



 こうして俺たちは傷だらけの凱旋を果たした。

 あの花と果実と小麦の楽園、邪神ユランにさえわからない不思議な地下世界に。

 ……誰が勝手に決めてしまったのか、その名をア・ジールと呼ぶ。


 いやしかしその名前、やはりどうにかならないものだろうか。

 元々の王国名、フィンブルで良いではないか。


 なのによりにもよってア・ジールだなんて……。

 客将ラジールと、昨晩出会った変人の顔が頭に浮かんで……。

 無事に帰れたのは良いんだが、やっぱりどうもスッキリしない名前だ……。


 地下ではもうそのア・ジールの名で新天地が盛り上がっていると考えると、今さら訂正を訴えるわけにもいかない。

 だが……。

 だが実物の地下帝国ア・ジールに帰り着くと、もはや全部どうでも良くなっていた。


 これでもう時を待つだけで良い。

 この平和な楽園で、今は静かにこの傷を癒そう。

 本国からのあの大軍勢が侯爵たちを疲弊させ、おいおいはサウスより撤退してゆくのならば……。


 その時は、その時こそ大反攻の始まりだ。

 穴を掘る力と地下帝国、この2つさえそろえばあらゆる敵の喉元に剣を突き付けたも同然なのだ。



 正式章名:楽園への凱旋 終わり



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