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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
脱走劇 スコップを奪われたモグラ男 雷鳥と共に錆びたスコップを握る
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5-5 楽園への帰還、反逆の地下帝国のはじまり 1/2

「おいそこの馬車止まれ、こんな時間にどこに行く」

「へぃ、あっしら侯爵閣下の手の者でさ。中は見せられやせんがちゃんと書状の方はここに……」


 荷馬車の確保が済み、俺たちは真夜中の町を進んでいた。

 30数名のダークエルフとゼファーを荷台に隠し、俺たちヒューマン側は深いローブをかぶり込んで暗闇の往来を歩いた。

 それを夜警中の小隊に見とがめられてしまった。


「確かに印章もあるな。……しかしお前たち、なぜそんなものを揃いも揃ってかぶっている?」

「フフ……世の中、知らない方が良いことなんていくらでもございましょう?」


 俺の姿を見られたら1発でアウトだ。

 そこで用心棒のスケさんと密偵シルバがその素顔を身代わりにさらしてくれた。


「まあそういうことでさ。あっしらはアレでさ、いわゆる後ろめたいお達しを果たすために動いておりまして……。あまり関わると気分を害することになりやすぜ?」

「兵隊さんはこの町の人間ではありませんね。面倒な方なのですよ、あの侯爵様は……」


 しかしだ。スコルピオ侯爵家の印章付きの書簡なんて、一体いつの間にガメてきたんだコイツら。

 ……やはりどうも底知れないな、偽名の何とかかんとかさん一行は。


「ああ、そこはこの町に来た時点で察しが付いたよ、こりゃ酷いなとな……。わかったもう行っていいぞ」

「すみやせんねぇ、では失礼いたしやす」


 それとスケとシルバの取り巻きコンビだが、この2人かなりこなれている。

 こういった窮地を何度も切り抜けてきたと言われれば、そのまま信じてしまうほど場離れしていた。


「いや待て。そこの人……もしかして体調悪いんじゃないか?」

「……ッ!」


 ところがあと1歩のところで呼び止められてしまった。

 すまん、だがしょうがないだろう……足の爪もやられた、身体中傷だらけだ。

 さらにあの泥汚れが患部にジンジンとしみて、もう歩くだけで難儀な状態だった。


「おい大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ……」


 ダメだ……なぜこんな時に声が出ない……。

 まずい、下手すればバレてしまう……。


「ん、何だお前、その手……なんか、変に白いぞ……?」


 言われてとっさに自分の腕を隠した。

 幸い夜の闇もあって兵士たちも色彩感覚が狂っている。


「これは……う、生まれつき……いや、どうか見ないでくれ……」


 早く休みたい、なのにごまかすための頭まで鈍ってきている……。


「ソイツは皮膚病にかかってるんだ。あまりかかわらない方がいいよ兵隊さん」

「げっ?! ……ああいや、そうか、そら悪いことをした……。ん、んん? そう言うあんた、どこかで見たような顔してないか……?」


 助かった、自称サンダーバード様がフォローしてくれた。

 彼は己に注意を引かせるためにフードを下ろし、ニコリとそのしつこい笑顔を浮かべる。


「え、もしかして兵隊さんの女房にでも似てたかいっ♪」

「……。何を言ってんだあんた? ああもういい、行ってくれ。でもそこのヤツはさ、ほどほどで休ませた方がいいからな」


 長い黒髪の美男だ、確かに化粧次第では女に見えなくもない。

 だがそれを自分から冗談に引き出せるその神経が、俺を含む常人には理解不能だった。



 ・



 そこからは何事もなくやり過ごすことに成功し、やがてサウス郊外に出た。

 郊外にも軍の野営があったりしたが、都市部を通るよりずっとずっとまばらだ。


 気の抜けることを言ってしまえばもう安全圏と言っても良かった。

 さらにそこから農園地帯を進み、やがて大地の枯れた南の荒野にたどり着く。


「ここで別れよう」


 もう十分だ、自称サンダーバードあるいはイエローゲートにそう切り出した。


「えーー大丈夫なの~? まあ君らがそれで良いなら別にいいけどねぇー」

「十分だ。……ありがとう、アンタたちは俺たちの恩人だ」


 それから筋を通す。

 すっかり身体が消耗していたが、これだけは言わなければならなかった。


「ほぉ~~、人に感謝されると気持ち良いものだなぁ~! なーにルイゼを助けてくれた礼もある、気にするなア・ジール」

「そこはアウサルで統一してくれ……ややっこしい。いやともかく、もし何かあったらこちらに連絡してくれ。そのときは俺たちが今日の恩義を返しに行こう。短いがアンタと話せて楽しかった」


 そうこちらの意図を伝えると、なぜか黒ずくめのサンダーバード様が背中を向けた。

 ……急に何だ?


「ハハハハハッ、あーそうかそうか~ふぅぅ~ん……それは嬉しいねぇ~! ア、アハハッ、アハハハハッ……!」


 いや、だから何だ……?

 今の笑うところあったか? どうも様子がおかしいぞ……?


「あ~~、アウサル様。若はこの通りのウザキャラなんで……ぶっちゃけちまうと友達ちょ~少ないんでさ。まっ、なんで良ければこの先も仲良くしてやってくだせぇよ」


 つまり……要するに……照れているのかコイツ?

 いや嘘だろ、そんなわけ……あ、チラッと期待込めてこっち見てきた。


「すまん、それは何となく同意しにくいな……」

「うわっひどいなぁ君らぁ~?! あー傷ついた! ああーーっ傷ついたなぁぁーっ?!」


 良い男なんだが、恩義もあるんだが、性格的にやたらしつこいというか……とにかくこの流れでは同意しにくい。

 ……そもそも、友達付き合いというのはどうやればいいんだ?


「そういうところがウザいんですよ、閣下」

「そーそー、そういうことですよ若。いい歳なんですからさ、そろそろ自重ってやつを覚えやしょうや」


 しかし俺が同意をひかえていると、よりにもよって取り巻きの2人が主人のハートをボコボコにした。


「ひっでぇぇ~~っ、主人にウザいとか言うなよなーっお前らさーっ?!」

「……実際ウザいでござるよ。それで、まあ、そのぉ……拙者からもしっかり言っておく……。おかげで、助かった。必要あらば拙者も、拙者もはせ参じよう……」


 話を聞きつけてゼファーが馬車より姿を現した。

 ……この鋭い一角、狭い車の中にどう収まっていたんだろう。


 ニブルヘルの仲間たちに刺さったりしてないよな……?


「それではアウサル様、南の方をどうかよろしくお願いいたします。若、もう帰りますよ」


 そのやり取りを密偵シルバさんが幕切れにさせた。

 空気読まないとも言えるが、ゆっくりしていられる状況ではない。

 東の空がほんの少しだけ明るくなりかけている。


「アウサル。ルイゼのことをよろしく頼んだ。アレはやさしい子だが頼りない、さぞや面倒をかけていると思うが、すまん。……どうか俺の代わりに守ってやってくれ。頼む」


 この時ばかりは彼も真面目だった。

 端正な顔を真っ直ぐこちらに向けて、これぞ兄の鑑と呼べる姿を見せてくれる。


「もちろんだ。また会おう。……ア・ジールあらためサンダーバードあるいはミッド・イエローゲートよ」

「ハハハッ、もういっそ義兄ちゃ~ん♪ とか呼んでもらうことにしようかなぁぁ~♪ なぁなぁっ、どうなんだよルイゼとはさぁ~? 自分で言うのもなんだけどうちのはさぁ~、やっぱ俺に似てそれなりの~、美少――」


 その悪ノリを発する口を、シルバさんの手のひらがしっかり固く塞いだ。

 ……あ、鼻もだな。


「はいはい帰りますよ閣下」

「そういうことで、そんじゃぁよろしくお願いしますや」


 従者2人に引っ張られて、呼吸困難気味のサンダーバード氏が町の方角へと去っていった。

 さて時間を取られた、やるべきことをやってからぶっ倒れることにしよう。


「変なやつらでござったな……」

「ああ……。そうだな……」


 後ろ姿を見送っているとまた疲れがのしかかってきた。

 そのせいで声がかすれて、今の不調をゼファーさんに悟られてしまった。


「その方……。よし、ここからは拙者が馬車の御者をしよう。中で少し休むといいでござるよ」

「……それはダメだ、アンタの角は美しいがそれだけやたらに目立つ。……馬車は俺が出す、さあ行くぞ」


 あと1歩だ、荷馬車の御者席に登り手綱を引く。


「強情でござるなぁ……」


 するとゼファーさんも折れて中へとかけ戻ってくれた。


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