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1-3 取引から始めるレジスタンス探し

 郊外を抜けて町に入れば人々が賑やかに往来を行き交っていた。


「あれは、呪われた地の……」

「アウサル……この時間には現れないはずでしょ……」

「気味が悪い……」


 だがアウサルの姿を見ると誰もが恐れ、避けて通る。

 彼らは信じているのだ、近付けば毒が自分たちにも伝染ると。


 しかしもう慣れているのでどうでもいい。

 さてここのダークエルフには3種類がいる。


 1.生まれながらに奴隷としてヒューマンに飼われて育った者

 2.何とか独立してここの社会に順応した者

 3.いまだ抵抗を続けるレジスタンス


 3に接触したい。

 そしてそれを密かに支援しているのが2だ。この辺りじゃ俺ですら知っている暗黙の常識だが。



 ・



「アンタがここの店主か?」


 よって今回はダークエルフの宝石店におもむいた。

 個人経営にしてはなかなかに大きな店だ。


「ア、アウサル……」

「すまん、営業妨害する気はないのだが仕事で来た」


 この手の反応も慣れている。

 店主は驚いていたが、けれど思ったよりずっと復帰が早かった。

 むしろ品の良い微笑みを浮かべてこちらの顔をのぞき込んできた。


「大丈夫です、ただ久しぶりなので驚いてしまっただけで……。私、貴方のお父さんとも商売をしていたんですよ」

「そうか、なら話が早そうだ。まずはこれを見てくれ」


 カウンターの前に紫水晶の剣を置いた。


「スコルピオ侯爵にではなく、ダークエルフのアンタらにこれを売りたい」


 布を解くと店主が息を飲む。

 褐色の肌と若い容姿、ダークエルフはつくづく年齢のわからない種族だった。

 ヒゲを伸ばしていたので年輩のようにも見える。


「これは見事な品ですね……。しかしこんな高価な物となると、うちの資金じゃ逆立ちしたって買えませんよ」

「それもわかっている。だからもっと上の人間に会わせてくれ。……たとえば、レジスタンスのリーダーあたりに」


 俺の言葉にヒゲの店主が周囲をめざとく見回した。

 客はいなかったが、もし誰かに聞かれれば大変な話だったろう。


「どういうつもりですかアウサル……。特に貴方は、お父さんと違ってそういう方には見えませんでしたが」

「ヤツではなくアンタたちに売りたい。これをダークエルフの技術で魔法剣として復活させれば、売るにしても使うにしても莫大な価値が生まれる。……少なくともヒューマン側に渡して得をする物ではないだろう」



 ・



 店主はこちらの要求に応じてくれた。

 殺された親父の信用が助けてくれた部分もあるんだろう。

 急ぎ連絡を入れるので、段取りが整うまで夕飯でも食べて待っていてくれ。……だそうだ。


 店主の家族と共に早い夕飯をごちそうになった。

 店を経営しているだけあって、パンがありスープがあり多少の肉もある恵まれた食事だ。

 ……店持ちにしてはだいぶ質素だったがそこは色々とあるのだろう。例えばレジスタンスに資金援助したりとか。


「ご馳走になった、団らんの邪魔をするのも悪い、少し出かけてくる」


 すっかり日も陰ってもう夕方と言えない時刻になっていた。

 特にすることもないが何となく町をブラついてみている。

 ……俺が歩いてるだけではた迷惑かもしれない。まあだからといってこちらの知ったことではなかった。


「こんにちは……目、すごく、きれいだね」


 一通り見物するとなおさらする事が無くなった。

 そうしたらヒューマンの女の子が駆け寄っていて、あどけなくも俺の蛇眼を褒めてくれた。

 どう返事したらいいのやら、俺としたことが言葉を詰まらせてしまう。とてもいい子だ。


「ッッ?! その人に近づいちゃダメッ! こっち来なさいっ早くっ! はっ、はぁぁぁぁ……怖い毒が伝染るから、もう二度とアレに話しかけちゃダメよ……?」

「ええ……でもママ、すごく綺麗な目だったよー?」


 ふいにユランの姿を思い浮かべて笑ってしまう。

 あの邪竜も、ずいぶん厄介な人間に頼みごとをしたものだと。


 しょうがないので店に戻った。

 顔の隠れるローブを借りて、今度は酒場に入って安酒をあおることにした。

 そこもダークエルフの男が経営する店だ。


 薄暗い店だったこともあって、カウンターにかけていても俺がアウサルだと気づかれることもなかった。

 穏やかにゆっくりと酒に浸ることが出来た。

 しかしまたもや騒動が起きた。念のため言うが今回は俺が原因じゃない。


「やっと見つけたぜこの脱走者が!」

「おう逃げ道なんてないぜ、見りゃわかるだろうけどよ」


 奥の席に顔立ち整ったダークエルフの女がいた。

 それが今、おかしなゴロツキ5人組に囲まれている。


「おい……」

「ああ、ありゃやべぇな……」


 ざわざわと酒場全体がささやき合った。

 客層はダークエルフが7、ヒューマンが3といった感じで仲良く平和にやっていたが、誰も彼もが急に逃げ出し始めた。


 ふと気づけば俺とここのマスターとあの女の子、それと招かれざるゴロツキ5人組のみになっていた。

 彼女と奴らはまだもめているようだ。


「お客さん。酒はまたサービスするので今は逃げた方が良い。アイツらエルフを狙った賞金稼ぎですよ……」

「なるほどそういうことか」


 深いフードからして俺までエルフ族だと深読みされていた。

 その店主と目が合う。


「の、呪われた地のアウサル……」

「言っておくが毒はないぞ、まき散らしたりもしないから安心してくれ」


 カウンターについたまま、横目で騒動に注意を向けなおした。

 さっきからずっと彼女は無視を決め込んでいた。


「何とか言いやがれ! ああもうめんどくせぇ、てめぇは5年前に侯爵様のところから逃げた、奴隷のフェンリエッダだよな? よぉしフェンリなんとかで決まりだ連行だぁ!」


 やつらはどいつも軽装ながら剣と皮鎧で武装していた。

 一方のフェンリエッダという名のダークエルフは、ローブを身にまといフードだけを下ろしていた。

 褐色の肌に珍しい組み合わせのブロンド、身体付きは細身でたぶん気位が高そうだ。……少なくとも奴隷には見えない。


「あいつら……!」


 それと悔しそうにマスターがやつらを睨んだ。

 あのフェンリエッダって女と知り合いなのだろうか。


「……触るな」


 その金色のダークエルフがリーダー格のハゲ男の腕を突っぱねた。


「いいからついて来いよ、身の潔白は調べ上げてから聞くからよぉ!」

「断る」


 とにかくこれはまずい。

 だが安心しろ、彼女を助けるか助けないかなどもう決まっている。

 ユランは俺に願った、虐げられし種族を救ってくれと。

 ならば契約は契約だ、あとはどう助けるかの算段しかそこにはない。


 ……なによりあのスコルピオ侯爵の元から脱走したという部分からして、もう他人事とは思えない。


「侯爵に伝えるといい。……いずれ貴様を殺しに行くと」

「ギャハハッ、何だよこの女! まさか侯爵様相手にそんな口を……ギャッッ?!!」


 もう1人が金髪と褐色のフェンリエッダに腕を伸ばした。

 彼女が突っぱねるのをわかった上で、相手の腕を掌握してしまおうと考えたらしい。


 だが、次の瞬間にはソイツの指が逆向きにへし折られていた。……あの女、とんでもなく凶暴だ、己の暴力に顔色一つ変えていない。


「いっ、イダダダダダダダッッ、うわ折れてる折れてるぅぅぅぅーっ?! テメェェェェーッッ!!」

「アウサルさんっ、あなたまで巻き込んだら余計こじれる! 今すぐ逃げて下さいっ!」


 酒場のマスターが警告してくれた。

 ちょうど良いので俺もカウンター席から立ち上がる。


「断る。それは出来ない」

「私の話聞いてました?! 迷惑だから今すぐ帰って下さいっ、そもそもなぜこんな危険な場所に留ろうとするのです!」


 愛用のスコップを握って俺はきびすを返す。


「それはそういう契約だからだ」


 出口にではなく店の奥、一触即発の超修羅場へと。

 大丈夫だ、ぼんやりだが算段はちゃんと見えている。


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