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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
脱走劇 スコップを奪われたモグラ男 雷鳥と共に錆びたスコップを握る
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5-3 招かれざる訪問者ア・ジールあらためサンダーバードあるいはイエローゲート 1/2

 あれからどれだけ経ったかわからない。

 闇と湿気の支配する地下牢獄で長い長い日々を過ごした。


 それとよっぽど本国駐屯軍が金食いなのだろう。

 侯爵はついに困り果てて態度を軟化させた。

 親父の殺害を謝るふりをしたり、美食と本で懐柔を試みたり、アウサルに緑の領地をよこすとまで言い出した。


 それら全てをのらりくらりとかわしてゆくと、また拷問と尋問の日々が始まった。

 だが今の俺にはユランの加護がある。

 その痛みは丸っきり半減し、眠れば不思議な治癒の力が体力を少しだけ戻してくれた。


 剥がされた爪の方も回復してきている。

 ユランのおかげだ、こうしてまだ生きていられるのは。



 ・



 そんなある日、見覚えのないやつらが牢内に現れた。

 張り付けにされた俺の足元で、黒髪の若く美しい男がひざまづいて何気なくこちらを見上げていたのだ。


「…………」


 ヤツは言葉を発しなかった。

 ただでさえ暗い牢獄だ、長い黒髪が闇に溶けて、その端正な顔立ちばかりが浮かび上がっている。


「やあ、アウサル」

「何だ……新しい拷問屋には見えないな……」


 穏やかで親しげな声色に少し驚く。

 ……ここではあまりに場違い過ぎたからだ。


 それとソイツは配下を2人引き連れていた。

 胸の大きい女の密偵が1人、精悍な顔立ちをした用心棒らしき男が1人だ。


「といってもその蛇眼が何よりもの証明だね。君はアウサルだ」

「アンタは……?」


 身なりからして身分の高そうな男だった。

 そんな男が、場違いな好青年がこんな牢獄に何をしに来たのか。

 つい興味を覚えて疲れていた首を上げた。


「私はア・ジールだ」

「おい……。アンタいきなり嘘吐くなよ……」


 ア・ジールの片割れ当人に何を言ってるんだコイツは……。


「ハハハッ、バレてしまったか♪」


 ……いや待て。

 もしかしてこれは誘導尋問なのではないか……?

 これではア・ジールの正体を俺が知っていると取られても仕方ない。……油断したか。


「ならサンダーバードと呼んでくれ」


 警戒の目を向けたが、そこでまた突拍子もない偽名をソイツが口走る。

 全身黒ずくめの厨二な身なりに反して、何というか……やたらに無邪気な男だった。


「なんだそれは……。アンタ……偽名のセンスが無いんじゃないか……?」


 突っ込んでやると後ろの方から密かな笑いが響いた。

 その用心棒男と密偵女がコイツのお側付きだとすると、どうも良い線いってるツッコミらしい。


「お前ら笑うなよなぁー!」

「で、ですけど若……ブッブホッ、クククッ……! いくらなんでもサンダーバードは無いでしょうや」


 用心棒の方は親しみのある人柄だった。

 打ち解けているのか、あるいは権力に媚びないタイプのようだ。


「ええ……閣下、あまり人前に、ご自身のそのアホっぷりをさらすのはどうかと思われます。またそれより、何のためにここへと忍び込んだのか、一つ思い出されてはどうでしょう」


 女の方も笑っていた。こっちは丁寧だがなんか容赦ない。

 ……というよりだ、忍び込んだ、だと?


「おいおい、ここでソレをバラしたらつまらないじゃぁないか」

「はぁ……どう考えても本題の方が貴方には大事でしょう……。すみませんアウサル様、この方はおふざけが過ぎるのです、ご了承下さい」


 おかげで緊張がほぐれた。

 コイツらはどうも敵って雰囲気じゃない。

 敵だったら忍び込むなんて手続き踏まない、という簡単明快な理屈だ。


「いや、まともな話し相手もいなくて困っていたところだ。……それで用件というのは何なのだ?」

「ああ、そうそう、それね。実はだねアウサル……折り入って君に聞きたいことがある」


 その自称サンダーバードが豹変した。

 よっぽど重大な用件があったのだろう、真面目で、不思議な気品が現れる。


「ポコイコーナンの宝物庫を荒らしたのは君だね? ……ア・ジールよ」


 妙なところに切り込んでくるな……。

 しかし食えない男だ、最初にア・ジールと名乗ったのはこれに繋げるが狙いがあったのか。


「さて何のことか。いやどちらにしろ偽名の男に答えることはないだろう」

「む……やはり変か? なら別のにしよう。うーん……そうだな、私は……ミッド・イエローゲートだ」


 あったはずの気品が消えて、ミッドなんとかさんがまたただのひょうきん者に逆戻りだ。


「だからなアンタ……。俺は、アンタが、侯爵の手の者ではないかと警戒しているんだ、その疑いをまず解け」

「なるほどね、よしじゃあこうしよう」


 するとたった一瞬のことだ。

 暗闇もあったし体力が落ちて鈍っていたせいもある。と言い訳しよう。


 左右の腕に激しい衝撃が走り、かと思えば俺は正面に投げ出され、あろうことかヤツに抱きかかえられることになった。

 さらにもう一撃ヤツが刃を振るい、足かせの鎖を寸断する。


「これが代価だよ、ア・ジール」


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