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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
脱走劇 スコップを奪われたモグラ男 雷鳥と共に錆びたスコップを握る
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5-1 怪物と、その飼い主スコルピオ侯爵 1/2


前章のあらすじ


 迷いの森に守られたニブルヘル砦に、あるはずのない敵軍が襲来する。

 ラジールの武勇とフェンリエッダのそつのない統率力、アウサルの落とし穴に優勢が続くが敵の増援はいつまでも絶えない。

 窮地を悟りニブルヘル全軍は籠城を選んだ。


 敵スコルピオ侯爵より降伏勧告が下る。

 ダークエルフを生かすため、ニブルヘルの首領グフェンはそれに従う見解を示すがアウサルらは従わない。


 一体この世のどこにダークエルフの逃げ場がある。

 グフェンの叫びに対してアウサルはただ足下を指さした。地下道を造って無傷で砦から撤退する。


 しかしニブルヘル砦の地底には思わぬ世界があった。

 太陽と小麦そよぐ楽園がアウサルを迎え、彼はそこで悟ることになった。

 この素晴らしい世界をヒューマンに対抗する反逆の地下帝国にしよう。


 アウサルはその楽園へとニブルヘルの仲間たちを逃がすと、楽園とそこへ繋がる地下道を隠蔽する為に、たった1人で地上へ戻った。

 己が裏切ったスコルピオ侯爵への投降。それこそが彼の出した最適解だった。



 ・



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 脱走劇 スコップを奪われたモグラ男

     雷鳥と共に錆びたスコップを握る

―――――――――――――――――――――


5-1 怪物と、その飼い主スコルピオ侯爵 1/2


 まともな扱いを受けられるとは思っていなかったが、実際のところ想定以上に残虐な処遇が待っていた。

 予想通り侯爵は俺の裏切りに叫び声を上げて怒り狂い、ただちに己が屋敷の地下牢にアウサルを監禁した。


 座敷牢ではない、正真正銘の地下牢獄だ。

 冗談抜きで病気になりかねないほどの、暗闇と湿気に満ちた石と鉄の世界だった。

 そこで俺はヤツらからの尋問と、それに繋がる過酷な拷問を受けるはめになっていた。


「これはこれは、スコルピオ侯爵閣下……」


 この拷問の執行人というのがまた情け容赦ない……。

 俺の爪に1つ1つ焼き針を射し込み、それでも目的が果たされないと悟るとその全てを剥がしてきた。


 それからは殴打と鞭打ちが俺の日常だ。


「挨拶はいいわ、アアタのはジメジメしてて鬱陶しいものぉ~。……それで、何か吐いたのかしら?」

「いえ……それが特にまだ何も……。申し訳ございません閣下」


 傲慢な執行人もこの侯爵の前では臆病者だ。

 いや、付き合いがある人間なら恐怖せずにはいられない。

 スコルピオ侯爵はそういった手合いの人間だった。


「こんにちはアウサル。アアタという人は全くもう……はぁぁぁ……。生かしておいてやった恩を、よくも仇で返してくれたわね」


 オカマみたいな口調だがオカマではない。

 この地方の一部有力者はなぜかこういった口調を好むのだ。

 ……何度聞いてもオカマでしかないので笑ってしまうがな、はははは!!


「笑うな!」

「あぐっ?!!」


 執行人の拳が血で張り付いた腹部に突き刺さった。

 苦しい……だが、笑ってしまうではないか……。

 ヤツらの焦りが、苦悩が、俺にはひしひしと伝わってくる……。


「ぅっ、ぅぅ……。それは……こっちのセリフだ、侯爵……。せっかく美味しい思いを……させてやっていたのに……よくも、親父を殺してくれたな……」

「えぇぇ~なによぉ、アアタ恨んでたのぉ~? 全く、そうは見えなかったわよぉ~?」


 侯爵は40過ぎの痩せ男だ。

 ソイツが女々しい言葉で長いカイゼル髭を撫で伸ばし、悪びれもせず心底意外そうな顔をした。


「普通に考えろ……。確かに俺は発掘狂いだが……、親を殺されて……恨まない人間が、いるわけないだろう……」


 するとその臭い口元が赤く汚れた俺の鼻先に近づいてくる。


「危険では閣下……」

「だまらっしゃい! アアタが喋ると余計鬱陶しいのよォッ!」


 残念だが鼻に噛みついてやる体力も無かった。


「ウフフフ……もぅ~、おかしなことを言ってアタシを笑わせないでちょーだいな♪ ならオバカなアアタに、教えてあげるわぁ~。アウサルは……人ではないの……」


 だがその言葉に直情的な怒りが沸いた。

 鋭くヤツを睨み付け、やはりどうにか喰らい付けないものかと歯ぎしりする。


「俺はヒューマンだ……」

「いいえ、それは大いなる勘違いね、ウフフフフ……。アアタは人ではない。エルフでも、獣人でも、もちろんヒューマンでもないわ……」


 スコルピオ侯爵の臭い息に鼻が曲がる。

 ヤツの顔が嗜虐心に笑み、だが次第に冷たい真顔に変わっていった。


「呪われた地で生きられる……ただ1つの不可解な種族……。いいえ違うわねぇ、アアタたちは種族ですらない。ただの……。怪物よ」

「……冗談は止めてくれ。俺たちは……ヒューマンだ……」


 力強く否定するつもりが弱々しい返事に変わっていた。

 俺たちはヒューマンだ、親父からもそう教わって今日まで生きてきた。

 俺はヒューマンだ、怪物じゃない。


「アアタのお父さんね……アタシ、幼い頃から知ってるの。そうねぇ~……アタシも子供の頃は……あの男のことを哀れんだりもしたわ。ああ、なんて、可哀想な一族なのかしら……なぁんてね、ウフフッ♪」

「貴様……ッ」


 ならなぜ殺した!

 なんて傲慢で独善的な男だ! これがこの地の支配者だと?!

 絶対にそんなことは認められない!


「でも……大人になって気づいたわ……。その蛇の目……白い腕……白髪まみれの頭。呪われた地に住む異形の者ども。それがアウサルという名を継ぐ、代々同じ顔をした怪物たちだってね……」

「ふざけるな侯爵……。俺たちは、姿と、性質と暮らしが……少しだけアンタらと違うだけだ……」


 なぜ見た目の違いでこんな不遇を受けなければならない。

 ダークエルフたちもだ、なぜもっと彼らに寛容になれない!


「あらあら、それは違うわアウサル。……人間はね、みんな怖いの。エルフたちの長い長い寿命、獣人たちの強い身体、有角種たちの知恵と魔力……」


 侯爵がやっと鼻先から離れてくれた。

 膝を突かされたまま鎖で張り付けにされる俺を、冷たい目で見下ろし、言葉通りの恐怖の感情すら見せた。


 我が物顔で辺りを歩き回り、そうしてまた俺の前に戻ってくる。

 余計な能書きがまとまったのだ。


「仮に共存すれば、ヒューマンの方が彼らの奴隷にされてしまう。だからもう飼うか滅ぼすしかないの……、人間の寿命と能力では……もうそうするしかないのよ、わかる? アタシの、為政者の苦労が……」

「わかるかバカ。だから滅ぼすとかアンタらな……その結果こうしてエルフの恨みを買って、果てのない戦いが続いてるんじゃないか……!」


 言い合うつもりは無いとスコルピオ侯爵が俺からまた離れた。

 それから拷問執行人とゴソゴソと言葉を交わす。


 ……それから俺をまた見た。

 ただそれだけで捕虜の俺にはとんでもない威圧そのものだ……。


「そんなことよりアウサル、アアタいい加減答えるべきよ。ねぇアアタ……アアタはヤツらを、一体どこに消したのかしら……?」


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