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4-5 反逆の地下帝国へと至る為の、避けられぬ最終手続き(改訂版

「よくやってくれたなアウサル殿! 俺たちが最後だ、さあ行こう! ……まさかこの首が繋がるとはなっ、ハハハッもう笑ってしまうよ!」

「ああさすが我のアウサルだ! こうして捕まりさえしなければ再起はあるっ、エッダたちに追いつくぞっ!」


 最後に残ったのはラジールとグフェンだった。

 苛立った侯爵軍らが牽制攻撃をしかけて来たそうだが、それをグフェンとラジールがそれぞれ単騎で迎撃したとか。


 グフェンが見晴らし台よりサンダーストームを断続的に撃ち込み、ラジールはよりにもよって砦の外に飛び込んで獅子奮闘、愛用の大剣を大地に突き刺し、それを足場にして何とか逃げ戻って来たとか何とか……。


 いやどんなだよ……。

 どっちも化け物そのものじゃないか……特にラジール、やはりこの女おかしい。


「しんがりは俺がやる、アンタたちが前を行ってくれ」

「いやそれなら我がやろう! 我はこの通り最強だからなっ! 痛っ……て、手傷は負ったがまだ余裕だぞっ!」


 さすがに無傷はあり得ない。

 全身のあちこちに血をにじませていたが、まだまだ戦えると豪語していた。


「土中なら負傷したアンタより俺の方が上手だ。早く行ってくれ」

「む……だが、だが何というか……。何となくそれはイヤだ」


 カンの鋭いヤツだ。

 この直感が戦場では頼もしいのだが、今だけはうざったい、いいから早く行け。


「アウサル殿の意見ももっともだ、行こうラジール殿。あれだけ暴れた俺たちがいなくなったのだ、もう敵が来る、急ごう」

「そういうことだ、いくぞ」

「わかった、気をつけろよアウサル!」


 納得してくれた。

 彼らの背中を追って俺もトンネルを下った。


 それから頃合いを見て俺は立ち止まる。

 さすがはラジール、すぐに俺の足音が消えたことに気づいた。


「おい、何を休んでいるのだアウサル、急ごうっ!」

「どうしたアウサル殿……?」


 返事をすぐに返せなかった。

 少し考えた後に、俺は彼らに背中を向けてみせる。


「グフェン、後は任せた。ラジール、この先には本物の楽園が広がっている、冗談みたいな光景がある。……アンタの好きな土いじりが山ほど出来るぞ」


 それがそのまま意思表示になった。


「アウサルどういうつもりだっ?! 何を考えているこっちに来い!!」

「説明してくれるかアウサル殿」


 まさかという思いが彼らの顔色から見えた。

 その2人から目をそらして、俺は今やるべきことを優先しようともう1度決意した。


「俺は一緒に行けない。この先を知られるわけにはいかないのだ、だから埋める、埋める役割の人間が必要だ」

「アウサル殿、バレたところで何も問題ない。君を失うことこそニブルヘルの損失だ」

「ああそうだとも何を言っているのかわからんぞ! 穴底に楽園などあるわけがなかろうっ!」


 アレを見ていないからそう言える。

 あれをヒューマンに見られてはならない。

 あれだけの広い豊かな大地が、よもやヤツらの足下に眠っているなどと、知られてはならないのだ。


「見ればわかる。あそこは楽園だ、そこにニブルヘルが逃げ込んだと知られるわけにはいかない。よって俺がここを塞ぐ、他に選択肢は無い、これがただ1つの正解だ」


 スコップで目前のトンネルを軽く崩す。

 たったそれだけで通路が半分埋まった、もう彼らの顔くらいしかろくに見えない。


「ふざけるなアウサルっ!! 止めろ死ぬぞっ、我をっ、この我を置いてゆくというのかっ?!! 絶対にそんなこと許さんぞッッ!!」

「早まるなっ、そんなことをする価値がどこにっ、待て、アウサル殿っ!!」


 つくづくラジールは大げさなやつだ。

 涙で瞳を潤ませて、まるで死に別れるみたいな悲壮な叫びを上げた。


「俺は侯爵の金づるだ。山ほど恨みを買ったが殺されることは無い。さらばだ、また必ず会おう!」

「ふざけるなっ、アウサ――」


 もう一突きすれば何も見えなくなった。

 音もふさがれ、ラジールの糾弾もそこで沈黙へと変わった。


「さて……後片付けをしないとな」


 俺はトンネルを固めながら上に戻った。

 大事な仲間が簡単に戻って来れないように、出来るだけミッチリとだ。


 そうやって地上まで戻ってくると、後は自慢のスコップさばきで跡形もなく土をならしてやった。

 これで誰も、この先に地下道があっただなんて気づかない。

 痕跡の消去。こればかりは穴の出口側からやらなければとうてい隠蔽出来るものではなかった。


「すごいな……さすが俺だ、歴代の中でも俺が1番の天才に違いない」


 ヤツら大軍の前から標的ニブルヘルを消してやったのだ。

 ……良い気分だ。

 破城槌の轟音が暴力的に鳴り響いている。


 後は降伏だ、残念だが別の穴を掘ってももう逃げられそうにない。いいや逃げて地下世界の確証をやつらに与える気などない。今のニブルヘルにこの大軍勢を迎撃する力もまた無かった。

 仕方ないのだ。いつの日かこの絶望的な劣勢からダークエルフが勝利をつかむためにも、今この場であの地下世界をヒューマンどもに見せるわけにはいかない。


 スコップを担いで俺は見晴らし台に立つ。

 それからすぐに叫んだ、ここで矢を射られたらたまらん。


「俺の姿が見えるか侯爵!! ほら、アンタのかわいいアウサルが投降してやる!! 俺だけは無傷で手に入れたいんだろっ、何せあの呪われた地の、財宝がかかっているからなっ!!」


 下の方で激しい命令の行き交いが確認できた。

 慌ただしい騒ぎの後に、俺へと向けられていた矢尻が下がってゆく。


「感謝する!! よしせっかくだから特別サービスで、俺がここを無血開城してやろう、ちょっと待っていな!! アンタらに、かつて無い驚きというものをくれてやろう!!」


 ヤツらは驚愕するだろう。

 奇術のように空にされたニブルヘル砦に。


 あれだけのレジスタンスが、本国からの援軍を使ってまで追いつめた敵軍が、綺麗さっぱり消えているだなんて……。

 普通じゃあり得ない。まさに神の奇跡だ。……まあそれは邪神なのだが。


 それにグフェンだって命を張ろうとしたのだ。

 正直、スコルピオ侯爵の怒りが恐ろしかったが……それ以上に今はその苦悩を見てやりたい気持ちでいっぱいだった。


 さあ悩め、苦しめ、大軍を動かして空振りしたツケを支払え!

 その間に俺のニブルヘルは、反逆の地下帝国はあの楽園で新たな力を蓄えてゆくだろう!!

 それをいつの日かこの目にするためにも、今だけは降ってやる! これが最適解だ!


ご指摘を受け、説明不足な面や少し作りの甘い部分があったのでプチ改訂いたしました。

後半部分、アウサルが投降する理由周りをよりわかりやすく修正し、解説を加えた修正になります。



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