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End- 2 天獄への突破口 華散らす運命の子

・邪神ユラン


 天獄への道は我が輩の推測通り、神代の時代の悪意、ケルヴィムアーマーと機械仕掛けの天使たちが塞いでいた。

 我が輩は知っている、この宮殿を。この緩やかな下り廊下を。

 贅を尽くしたプラチナとクリスタルを基礎建材に、ありとあらゆる富と虚栄を散りばめた愚か者の道を。


「皆の者、このだだ長い廊下を抜けた先が天獄だ。容易には通してもらえそうもないがな……」

「これがサマエルの宮殿か……。凄まじい場所だな」


 フェンリエッダが物欲しそうに壁に並ぶの各種美術品にちらりと目を向けた。

 居城を持たない女王には、その虚栄の結実たちも輝いて見えるらしい。


「ほうけてる余裕はないでござるっ、来るでござるよッ!」


 ゼファーの警告より遥かに早く、ラジールが怪物どもに向けて突出していた。

 それをフォローするべく銀角の女もただちに駆け、フェンリエッダも状況を思い出して部隊の指揮に入る。

 我が輩もその突出に加わることにした。


 といっても竜にはならぬ。ケルヴィムアーマーや機械天使は高い魔法耐性と、鎧の肉体を持っている。

 要するに間接や急所を突く戦法が最も有効だ。

 こやつらに竜の巨体で挑むのは、攻撃力を自らの手で放棄するようなものであった。


「総員陣形を固めろ! ユラン様やラジールのまねはしなくていい、確実に動きを止めるんだ!」


 対抗策はエルキア遠征が決まった時点で既に出来上がっておった。

 初遭遇の時はいざ知らず、ア・ジール地下帝国の軍勢は対ケルヴィムアーマー戦を想定した高度な訓練を修めていた。


 パワーと防御能力こそ高いが敵は鈍重で、一撃一撃をどうにかやり過ごせれば攻撃のチャンスがやってくる。

 女王フェンリエッダのカリスマと指揮力が、ゆっくりとだが確実に悪夢の鎧をほふっていった。


 我が輩も負けてはおられん。

 機械仕掛けの天使たちの一撃一撃をかわし、受け止め、鎧の隙間に長い爪を突き刺して胸を突き、手足をもいだ。


「ええい、我が輩の邪魔をするな傀儡ども!」

「優勢でござるが、この硬さはやはり厄介極まらんでござるな……!」


 敵を押し返そうと奮戦した。ところがだ、遅々として前進できぬ。

 腕をもいだところで鎧は動きを止めず、倒しても倒しても増援がこちらに現れる。


 このままでは天獄にたどり着けるのはいつになるのか、そもそも戦い抜けるのかも怪しくなってきた。

 それとやられた、白公爵とあの小姓の姿がない。車椅子での移動のためすぐに彼らを置いて先に進むことになったが、一向に後方より現れぬ。

 我が輩たちはやつらの盾にされたのやもしれん。


 しかしこんなところでもたついていたら、アウサルに追い付かれる。それは我が輩のプライドが許さん。

 我が輩もラジールを追って突出し、今日まで温存してきた力を放出した。


 ケルヴィムアーマーを鎧ごと力ずくで真っ二つに破壊する。

 消耗することになるが致し方あるまい、サマエルの復活を阻止出来なければ意味がないのだ。

 これにより我が輩たちの撃破数が敵増援数に勝り、じりじりとした前進が始まった。

 それからほどなくして廊下が二股に別れ、格好の迂回路がそこに生じていたのだった。


「なんじゃラジール、己の持ち場を守れ!」

「そう言うな、我らの精神的支柱ユランよ。なーに、ちとこのままではままならんと思ってな、ここは相談だ」


 大剣が鮮やかに天使兵の鋼の腕を、足を吹き飛ばす。

 ラジールのその人間離れした武勇は、我が輩に何度も何度も既視感を与えてきた。

 太刀筋、顔立ち、その豪快さに見覚えがあるのだ。


「ユラン、ここは我に任せて先に行け。狂った創造主が復活する前に、天獄とやらにたどり着くべきだ。ならば我が、この足止めの足止めとなろう!」

「気でも狂ったでござるかラジール殿っ?! いくらそのムチャクチャな武勇でも、無理がござろう!」


 ラジールは恐怖などせぬ。恐怖を喜びに変え、ただ勝利のために剣を振る。

 昔から(・・・)、ライトエルフにしておくにはあまりに惜しい器だった。


「わははっ、大丈夫だ! 我は追いつめられれば追いつめられるほど……熱くなるたちだ!!」


 その時、ラジールの豪剣がケルヴィムアーマーの胴を一文字に両断した。

 本来どうあがいても破壊できぬ鋼を、人間の身で、ぶった斬りおった!


「う、嘘だろ……」

「ラジール、そなた本当にエルフか?」

「何を言う我は修羅よッ、修羅を種族でくくるなど無価値ッ無意味ッ! さあゆけッ、天獄へ!!」


 アホだ。この女は最強にしてアホだ。戦うために生まれてきた正しくそのもの修羅だ。

 そのアホが言う、この場の敵全てを己が受け持つのでさっさと進めと。


「ラジール殿……。そなたもしや、覚悟の上で……」

「くっ……どこまであなたという人は、もうメチャクチャだ……」


 何かがラジールの中ではじけおった。

 ただのエルフとしての殻を、ラジールという名の鬼が内側から食い破った。

 ア・ジール地下帝国最強の戦士は、豪撃を繰りだしては機械仕掛けの天使を、悪夢の鎧をいともたやすく破壊してゆく。


「クククッ、そんな顔するな。ここは最高の舞台だ。最高に血わき肉踊る、天上の戦いに連れてきてくれたことを我は感謝しよう! ユランッ、来世があったらまた会おう、アウサルにもよろしくな!」


 我が輩はラジールのそのムチャクチャな強さに、前々から小さな疑惑を持っていた。

 それは先ほど見せた人を超えた武勇で確信となった。

 我が輩は知っている、この桁違いの超戦士を。


「ならばこれは死地に身を置くそなたへの餞別(せんべつ)だ。……その昔、アウサルに我が輩がそうしたように、我が輩、邪神ユランが才能を引き出した戦士がいた。それが貴殿の先祖にあたる」


 そやつもムチャクチャな戦いをする女だった。

 ただ一人、我が輩と共に肩を並べて戦い続けることの出来た、たった一人のエルフだった。

 生まれ変わりという言葉を信じたくなるほどに、太刀筋があまりに似ていた。


「ユランよ、我が輩はご先祖を超えただろうか……?」

「クククッ……さてな、それは生き抜いて直接我が輩の口から聞くがよい。ここは任せたぞ、ラジール」


「任せよっ! なに、アウサルもそのうち来る、我とアウサルが並べば天上世界といえど、敵など存在せんっ! さあゆけ!」


 我が輩たちはラジールに背中を任せ、迂回路に身を投じた。

 ラジールという超戦士が道を塞ぎ、追撃を断つことで天獄へと駆け抜けた。

 最強の戦士を捨て石にしてでも、我が輩はサマエルの復活を阻止しなければならなかったのだ……。


 すまん、ラジール……。急いでくれアウサル。



 ・



 多少の邪魔こそ入ったが後方からの追撃はなかった。

 我が輩たちはかつてこの世界の神々の物だった宮殿を抜け、その奥地に隠された秘所、天獄の目前まで行軍した。


「あれが天獄でござるか。何とも禍々しい……美しき天界にあること事態が、不自然に見えてくるでござるな……」

「ユラン様、あそこにこの世界の主が、おられるのですか?」

「ああ、あれこそがサマエルの墓穴、神に逆らいし罪人の監獄、天獄エールヘブンじゃ」


 それは地底に沈んだ塔だ。白き世界に天の獄舎だけが幻のような濃紺に淡く光る。

 だが記憶の物とはいささか異なった。サマエルの我が輩への呪詛がそうさせたのか、純粋なる悪意とでも呼べる気配が近づく者の背筋を凍らせる。


「よし、ここでケルヴィムアーマーの数を減らすぞ。減らせば減らしただけ、サマエルの復活が遠ざかるはずだ。わざわざ獄中に向かう必要もあるまい」

「ふむ……もしもサマエル本体が既に復活しているならば、ただちにユラン様の前に現れて決戦を望む。という理屈でござろうか」


「うむそうだ。つまり現時点において、サマエルはまだ復活していないか、長い封印により疲弊している可能性がある。あの獄門に陣取れ、悪夢の鎧の侵入を防ぎ、復活を阻止せよ!」


 我が輩の命により、勇者たちが天獄の門へと突撃した。

 再び力を解放して突破口を切り開くと、その後は門を盾にしての防戦だ。

 迫り来る敵を迎え撃ちながら我が輩たちは待った。


「前列後退! 傷の浅い負傷兵は前に出る準備をしておいてくれ!」


 アウサルが必ず来てくれる。いつものようにあの白銀のスコップで全てを覆してくれる。

 我が輩の使徒、我らの帝王を信じて、サマエルの獄の鍵たる傀儡を、ただただ仲間の命を掛け金に蹴散らし続けた。


「ぇ……何が起きて……」

「ふむ……あやつ、やりおったか」


 ところがだ、悪夢の鎧と、命無き機械仕掛けの天使に異変が起きた。

 ……止まったのだ。うんともすんとも動かなくなり、殺戮兵器が鋼の彫像と化した。

 それは我が輩の使徒、アウサルが偽りのサマエルに勝利した証でもあった。


※ご報告

 先日が更新日でしたが勘違いにより、1日投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 そこで本日から完結まで毎日投稿いたします。その後入れ替わりで新作をリリースいたしますのでお気が向きましたらどうか応援のほどをよろしくお願いいたします。

 感想ありがとうございます、環境が落ち着いたらがんばってお返します。

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