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4-4 掘り当てられた忘れ物

 下へ下へと穴を掘っていった。

 とにかく敵が動くまでに目的を果たさなくてはならない、プランを考えながらもとにかく地下へと下る。


 逃げる。いや逃げるにしてもどこへと逃げるべきだろうか。

 ここから逃げても行き先などない。

 だが敵兵力は圧倒的だ。


 南は不毛の荒野、西は人の住めぬアウサルの所領、北はヒューマンの勢力圏、なら東は……東の荒野の先にはライトエルフの領土があるが、あまりにここからでは遠過ぎる。


 逃げてどうする?

 食べ物はどうするのだ?

 どこで暮らせばいいのだ?

 ライトエルフの国はこれだけの敗残兵を受け入れてくれるのだろうか?


 穴を掘る。逃げるための穴を掘る。

 深ければ深いほど良い。それだけで突破が困難になるのだから。


「いや……」


 そこで別の選択肢が頭に浮かんだ。

 逃げない。だが今はやり過ごす。

 あれが本国からの援軍だとすれば、長期戦を想定しているとはとても思えない。


 だから今だけやり過ごして、また手薄になったところで奪い返せば良いではないか。

 やつらは消えたレジスタンスに苦悩するだろう。消滅した手柄に、責任問題が生じるだろう。


 ならば取り急ぎ必要なのは、人が避難出来る空間と空気孔だ。

 待避が完了したら西の山中に繋げて物資を調達しよう。


 あそこなら食べ物を狩れる。水もある。

 そうして今しばらく我慢すればきっと……。


「ぬあっ、なっうわあぁっ?!!」


 考えに没頭し過ぎて、さすがに深く掘り過ぎてしまったかもしれない。

 ふとそう思い浮かべたところで俺の足下が無くなった。


 いや訂正しよう。

 穴を掘り進めて一歩を踏み込めば、スコップの手応えがなくなって俺は落ちたのだ。

 ……謎の地下空洞に。


「痛たた……こんな時になんて間の悪い展開だ……。長年穴を掘ってきたがこんなこと1度だって――なっ、何だここはっ?!!」


 もう1度訂正する。

 そこは地下空洞と呼ぶよりも、遺跡に近い外観をしていた。


 石造りの床があり、見渡せば自分が小部屋に中にいることに気づく。

 なぜ、何でこんなものが地底に眠っている……。


 いや、だが、ここならばレジスタンスの潜伏先にちょうど良いのではないか。

 わざわざ掘る手間がはぶけたのだ、時間が無いこの状況からするとかなり俺たちはついている。


「だが……なんだ、地下にしては明るいな……」


 カンテラの明かりだと思っていたがどうも違う。

 油の赤い光ではなく、白い光が地底の遺跡小部屋を照らしている。


 光がぼんやりと石壁を青白く浮かび上がらせている。その光源がどこにあるのかグルリと周囲を探してみれば……。

 ……俺はあまりのまぶしさに顔をしかめることになった。


「何だ……あれは門なのか? 何なのだあの先は、恐ろしく明るいぞ……?!」


 そこに巨大な門があった。

 それこそあのユランでも暮らせそうなほど、常識はずれにバカでかい鉄門が。


「いや、光があるならなおさらいい。使えるぞこの遺跡!」


 扉の向こうはどうなっているのだろう。

 少し押したらここがもっと明るくなったりしないだろうか。どちらにしろ兵を隠すにはここだけでは狭過ぎる。


 門に走り寄り、めいっぱいの力で押し開こうとした。

 ところがやっぱり無理か、でか過ぎる、重過ぎる、サビているのかピクリともしない。


「権限ガ、有マセン」

「……なに? お、おおおーっ?!」


 それだけなら良かった。

 いきなり無感情を通り越した声がして、扉そのものが赤い光を放つではないか! 心臓に悪い!


「な、何だコレは……何なのだこの場所は……すごいぞ、まるで、冒険物語の中のようではないか!」

「再認証、手続キヲ、イタシマスカ?」


「よくわからんがそうしてくれ! この先に行きたい! 急いでくれ!」


 まさかこの扉が喋ってるとでもいうのだろうか。

 ……本当に異界の本みたいだ、ああワクワクがこみ上げて止まらない、この先に何があるのだ?!


 いやとにかくこの光があれば、俺たちレジスタンスも隠れ住みやすくなる。

 ここはやはり使える! あとは広さの確認だ!


「遺伝データ99.9998%適合……本人ト断定。……オカエリナサイ、アウサル。捜シ物ハ、見ツカリマシタカ?」


 扉の聞き取りにくい言葉を頭が読解するよりも、俺は目前の光景に心まで意識を奪われることになった。

 あれほど揺るがなかった巨門が轟音を立てて開かれてゆく。


 問題はそれではない、その先にあったものなのだ。

 ここは地底、ここは遺跡、なのに在るはずのないものがそこに現れて、俺は驚き、驚きと同時に絶望が熱い希望へと変わってゆくのを理解した。


「な、何だこれは……なぜこんなものが、地下に……。いや……」


 扉の先に大地が広がっていた。

 水と太陽と、小麦のそよぐ黄金の大地が。


 広く、豊かで、地上よりも遥かに輝いて見えるこの世の楽園。

 風は夏のように暖かく湿気を持ち、花と果実の実りで大地が満たされ、麦穂がサラサラとどこまでも果てしなくそよいでゆく。


 なぜこんなものが地下に……?

 そんな当然の疑問よりも先に、熱い思いが胸を貫いた。

 気づいたのだ。

 ……ここならば再起をはかれるということに。


 ここを、ヒューマンたちに対抗するための反逆の地下帝国に育てよう。

 ここは楽園だ。

 絶体絶命の俺たちの前に現れた、起死回生の当たり目!

 ついに救いの地が俺たちの前に現れたのだ!


 もはや理屈などどうでもいい!

 今から少しでも多く! 砦に残された仲間たちをここに呼び込む!

 それから地上を固め……。


「……ああ。そうか」


 地上を固め……そして……。

 ユランとの盟約に従いダークエルフたちを、俺の仲間たちを救うのだ……。

 その為なら俺は……恐怖にだって打ち勝てる。


 ……残念だが他に方法がない。そのことに気づいた。


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