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27-5 インドラの矢 ソドムの炎 バベルの雷

・殺戮者


 とんでもなく手間取らされた。だがもうこれで終わりだ。

 下等種の王朝ニル・フレイニアはこれより終焉を迎える。

 要塞の陥落は目前となった今、やつらを守る盾は無いに等しい。要塞の陥落は今日明日中となるはずだ。

 これを期に、エルキアを裏切った諸侯どもも一度浄化してやるべきだ。

 これは別に私が忠言しなくとも、自動的に実行されるだろうが。


「団長閣下、聖堂本部より伝令が……」

「ほう、本国は何と言っている?」


「今日中に攻め落とせ、と」

「わかった、全軍に突撃を命じろ。全軍にだぞ」


 死体の山を築くことになったがこれで亜種が滅びる。争いのない平和な時代が来る。


「よろしいので……? こちらにかなりの被害が出るかと思いますが……」

「神の命令は絶対だ、実行させろ」


 ついに勝った、神の理想が成就するときがついにきたのだ。

 亜種の存在しない、ヒューマンだけの世界が!



 ・



・ラーズ


 卑怯だ……こんなの卑怯だ……。アウサルさんどうか無事でいて下さい。

 アウサルさんとユラン様さえ生きていればいくらでも、あの地下帝国で耐え抜くことが出来る。

 まさかあいつらが、あんな奥の手を隠し持っていただなんて、卑怯だ!


 要塞での防戦はあるきっかけを契機に崩壊した。

 俺はそれでも仲間を守らなければならない。

 聖堂騎士団に正面を囲まれながらも、俺は要塞通路を塞ぎ、後方に布陣させた弓手に援護させた。


「ぬぬぬ……なぜこちらの攻撃が当たらない。こんなまぐれが、何度も何度も訳もなく続くわけが……この小僧、化け物か……」

「俺はラーズ、今日この日のために生を受けた! この要塞は渡さない、この命にかけても!」


 どうしてこうなってしまったのだろう……。

 何であんなことに……。卑怯だ、こんなのあんまりだ、アウサルさんどうかただ、生きて帰ってきて下さい……。



 ・



・天使フィン


「急いでみんな、お願い急いで! もっと速く!!」


 奥の大きなお城に炎と黒煙がいくつも上がっていた。

 パフェママとバロアちゃんの国、フレイニアの大切なお城が焼けている。

 古の時代を知る天使ではなく、パパとママたちの娘としてフィンは叫んでた。

 ラーズはこっちのお城にいるってグフェンが言っていたから……。


「まあそうキンキン言うな。ちゃんと見よ、あの要塞はまだ落ちてはおらん。急げば十分に間に合うぞ」


 すっかり聞き慣れた女の人の声がフィンを少し落ち着かせてくれた。

 荒野で干からびかけていたフィンを助けてくれて、信じてくれた人が。


「ぁ……まだ戦ってるんだ……なら!」

「だがあちらを驚かせてしまうに違いない。そなたの翼が一番速い、我々に代わり先行して伝えてきてくれ、こちら側の存在を」


「それもそうだね! フィン行ってくるよ、ありがとうゲルタ!」

「なに気にするな、麗しき予言の天使よ」


 フィンは()を飛び出した。ア・ジールの軍勢めがけて空を駆けた。

 古の天使ではなく、天駆ける剣ティルフィンとして。


「アベル!」

「え……フィンちゃん?」


 フィンを育ててくれたパパの一人、やさしいお兄さんアベルハムも戦っていた。

 要塞の後ろで兵を再編成して、フレイニア国内への敵軍の突破を防いでる。


「驚いた……無事に帰ってきてくれて良かった。でもそうか、巨人は、ユランの民は見つからなかったんだな……」

「えっ、ちょっと何言ってるの、敵に夢中でアベルは後ろが見えないの?!」


 落胆するアベルを背にフィンは指さした。空を。


「あっちの空を見てよ! フィン、約束守ったよ、連れてきたよ、南の果てからユランの民を! 巨人と有角種を!」

「ぇ……。な、なんだ、アレは……」


 アベルが見上げた南の空に船が浮かんでいた。

 信じられないその光景にアベルは驚愕に固まっていた。

 21代目ゲルタが言ってた。神の毒は人の知能すら鈍らせる。

 南の果てに至った自分たちの頭は、霧が消えたように冴えたんだって。


「夢でも見てるのか俺……。まさかあれは、味方なのか?!」

「当然じゃない、ユランの民がユランを裏切るわけないでしょ!」


 巨人と角のある民を乗せた飛空挺がもう目前に近づいていた。

 船の上から弓と魔法を放ち、突撃した数隻から巨人族が城郭最上部に飛び降り、敵兵を踏みつぶし、至上最も肉体の優れた種として蹴散らし始めた。


 彼らはずっとこの日を待っていた。

 予言者ゲルタの末裔はフィンという案内人が現れる日を知っていた。

 空飛ぶ船を造って、反撃に出る日を。


「それよりパパは?! ユランママは?! あと、ついでに、ラーズは……?」

「ラーズはまだ要塞の中で奮戦している。彼は不死身だ、きっと大丈夫だろう。だが、アウサル様と、ユラン様は……」


 こんなの予定してない。

 フィンが連れてきた援軍で逆転が始まったのに、アベルが苦しそうにそんな顔で唇を噛んだ。


「え……うそ、な、なにかあったの……?」

「今から7日ほど前になる……。ある日、北の、エルキア王都側の上空から白い光の柱が、落ちた……。まばゆい閃光が世界を駆け回り、それから、轟音と巨大な噴煙、地響きがはるか彼方からここまで届いてきた」


 なにそれ、そんなのゲルタの予言にないよ……?


「それっきりエルザス王子とは連絡が取れていない……。ユラン様、アウサル様、フェンリエッダさん、ラジールさんとも……。フレイニア王ヴィト殿下は言っていた、アレは神の雷、ユラン様の千年王国アガルタを滅ぼした、破滅の焔だと」

「そんな……パパとママたちが、嘘でしょ……そんなの、そんなの卑怯だよ!!」


 サマエル、どうしてサマエルはおかしくなってしまったの……。

 あんなにも仲良しだった二人がどうして……こんなことに……。


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