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27-1 決戦の地エルキア


前章のあらすじ


  ユランの追想。知恵無き者サマエルとの思い出。ユランの正体は次元を渡る竜。

 その世界の創造主が生み出す演劇を、観客として見届けることが役割。

 その傷ついた翼が癒えたら、異界に旅立とうと二人は約束していた。


 ・


 フィンブル王国の独立に対応してエルキアの大軍が北部ローズベル要塞に攻め寄せてきた。

 敵は無謀な人海戦術による大渓谷の突破を目指したが、アウサルの突貫工事を含む完璧な防備に跳ね返される。

 それから半月の膠着が続くと、要塞内にて反乱が起こった。兵士たちが何者かに操られ、同士討ちが始まったのだ。


 者を操り人形にするサマエルの力、それを封じる万象の杖を用いるとこの予期せぬ反乱が止まった。

 同時にそれはチャンスでもある。ユランに導かれてアウサルら精鋭は追撃に出る。

 敵はサマエルの()、創造主のパーツを持つ奇怪な翁を彼らは大渓谷にて追いつめ、神殺しの刃を用いて神のイカサマを滅ぼした。

 残るパーツは目、心臓。


 その後、フィンブル国境の防衛が完璧なこともあり、主戦場が西方フレイニア王国に移り始めた。

 アウサルはそれに合わせ西に出征するつもりだったが、グフェンが思わぬ策略を打つ。


 アウサル、ゼファー、ユランを決戦の地エルキア、反逆の王子エルザスの軍勢に回す。

 さらに後発でエッダとラジールが軍を率いて合流し、エルキア反乱軍の王手を後押しする。


 エルキア王とサマエルのパーツを滅ぼさない限り戦いは終わらない。

 今日まで集めてきた仲間を信じて、彼らは決戦の地エルキアに向かうことになった。


――――――――――――――――――

 最後の聖戦 名前を捨てた男の真実

――――――――――――――――――


27-1 決戦の地エルキア


・???


 余は呪縛より解放された。

 しかしもう手遅れだ、長年に及ぶ傀儡(くぐつ)化が余の身体の機能を奪っていた。

 8枚の翼を持つ者、サマエルと名乗る男と出会ったあの日より、余の意識は断続的なものになった。


 わからない。あれが本当に創造主サマエル本人なのかどうか、疑惑を抱かざるを得ない。

 あるいは、神とは人を救う者だと余が願いたいだけなのか……。

 その者は、あまりに、神と呼ぶには慧知に欠けていた……。


「困ったね、()が、殺されるなんて、予定にないよ。ソレ、もう正気に、戻りかけてるんじゃ、ない?」


 サマエルと名乗る者は頻繁に言葉を休ませる。まるで知恵が足りない子供のようだ。

 余が聞いているというのに、彼らは壊れた操り人形の前で平然と言葉を交わす。


「ご安心をサマエル様。エルキア王はご病気、ということにすれば今しばらく時間を稼げるかと」

「後少しだからね……。長かったよ、まさか忌々しい、あのユランと、相打ちになるなんて。この、サマエルが」


「それについては申し開きようがありませんわ。この目がまともに機能していれば、こうも時間をかけることもなかったでしょう」

「ああ……最近は、特におかしい、みたいだね」


 サマエルの目は未来を見渡す。口が人を操り、目が先に起こる出来事を予知する。

 愚かな余は、彼らと取り引きしてしまった……。玉座の代償は高く無慈悲だ。


「エルザス王子の反乱は、この目をもってしても見破れませんでした。やはり十数年前から何かが干渉しているようで……困りましたわ」


 余は知っている。サマエルの目は正確な予知をもたらさなくなっている。

 それが希望だった。未来を見ることが出来る者を、悪しき神サマエルを倒す糸口だ……。


「今だから言いますけど、9ヶ月ほど前から特におかしくなり始めています」

「その頃に、ユランが復活、したのかな……」


「かもしれません。ユランはサマエルが生み出した者ではない、サマエル様はそう言われましたわ。だからそれゆえ、ユランの力が高まるに連れて、あるべき正しき現象を歪ませているのではないかと……」


 邪神ユラン。そう教えられて余らは生きてきた。

 けれど誰が信じようか……まさかそのユランこそが救い主で、サマエルは邪悪と傲慢の権化だったなどと。

 今でも信じられない、この知恵遅れの怪物が、世界の主の姿など認められない……。


「よく、わかんないけど、目障りだな……。ユラン、あの偉そうなヤツが、最後まで、僕の邪魔をするなんて。あの、裏切り者が……! 僕は、知ってるんだ、ユランはサマエルに救われた、なのに! 裏切った!」


 助けてくれ、ユラン……。この怪物どもから、エルキアを救ってくれ……。

 余は、間違っていた、兄上、エルザス、どうか許してくれ……。


「サマエル様、そのお怒りももうじき慰められましょう。あるべき姿を、貴方はもうじき取り戻されるのですから」


 急げ、エルザス……エルキアの玉座を取り戻すのだ……。サマエルを止めろ。



 ・



・アウサル


 黄の地下隧道を抜けるとそこはもうエルキアだ。

 緑に恵まれた暖かな土地が、不穏な予感と共に俺たちを迎え入れてくれた。


 エルザスの屋敷を抜け、既に王都目指して東に向かったアイツらを追う。

 銀角のゼファーと赤き竜ユランを隣に置いて、少しでも速く決着を付けるために道を進む。

 ユランの翼を使うのが最も早いが、それはさすがに目立つ。

 俺たちという増援にして大将首がいることを敵に知られたくなかった。敵にとって予期せぬ増援、これもグフェンの策の一部だからだ。


「ふん、大した手並みでござる。それかよっぽど現王は嫌われていたのでござろうな」

「戦闘の形跡がほとんどないな。期待以上の流れだ。まあそうでなければ貴重なジョッシュとダレスを貸したかいがない」


 エルザスら反乱軍の足跡を追いながら街道を進んでゆくと、いくつもの戦果を目撃することになった。

 反乱軍は味方を次々に増やし、迅速に砦を落として、まさに破竹の勢いで進んでいる。


「正直に申せば見直したでござる。ただのどら息子と思いきや……ふん、まあまあでござる」

「エルザスはエルキアに逆らうあらゆる者の運命を、託されてしまっているからな。それを俺たちで楽にしてやろう」


 気がかりがあるとすればそれはユランだ。

 出立してからというもののあまり喋らない。明らかにサマエルとの対決を意識している。


「ユラン、戦いが終わったら俺は暇になる。そのときは異界の話をたくさん聞かせてくれ。……そうやって思い詰めると本番で力が出せんぞ」

「それが貴殿との約束だったな……だが黙れ、その話は全てが片付くまで二度とするな……」


 言葉からは複雑な情が入り交じっているように感じられた。

 どの逆鱗に触れてしまったのやら、今一つわからんがな。

 

「わかった。アンタが入れ込み過ぎていることがな」

「アウサル殿……。もう少し主人にやさしくするでござる。誰にだって、決着を付けなければならない相手がいるのでござる」


 敵は理想郷アガルタを灰に変え、今の悪夢の時代を生み出したのだ。

 俺とスコルピオの対立どころではない、とこしえに等しい想いがあるのだろう。

 どう言ったところでムダらしいので、なるように任せる他になかった。


「そうやって異界に憧れる姿が、我が輩を苦しめるのだ……」


 聞こえなかったふりをして、俺たちはエルザスの足跡を追った。

 合流してこの力でやつを支援する。エルキア王と取り巻きさえ倒せば終わるはずだ、この悪夢の時代が、きっと……。


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