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26-4 決戦の地エルキアへ

「ケルヴィムアーマーは有角種の至宝・万象の杖があれば封じることができる。あの白銀の鎧は橋を築かずして、この地の大渓谷を越えることなど出来ない」


 サウス市からフィンブル王国女王フェンリエッダと、臨時大臣アベルハム、ニブルヘルのリーダーグフェンが国境ローズベル要塞に現れた。

 いや来るなり要塞の会議室に俺を連れ込み、グフェンらしく淡々と、だがいささか遠回しに外掘りを埋めだした。


「だがフレイニア側はそうはいかない。本性を現したジンニクス殿と、サンクランド王国が援護してくれるはずだが、あちらには渓谷などない。要塞1つで守るにはさすがに相手が悪すぎるというものだ」


 そうだ。だから今後の主戦場はここより東のフレイニア側になるだろう。

 総大将ダレスと副官ジョッシュと戦った折りに防衛線となった、あの要塞が今後の主戦場になる。


 それと話がそれるのだが、蒼くきらびやかなドレスを着込んだフェンリエッダは美しかった。

 だが元々の性格と勇ましさを知っていると、どうも仮装じみていて――つい笑ってしまう。


「何だ、アウサル……見るな、似合わないのは自覚してると言ってるだろ」

「ああ、似合わんな。美しいがアンタにはまるで似合わん」


 異界の言葉を借りよう、馬子にも衣装だ。

 馬の子供も服を着せればそれらしく見えるという意味らしい。

 俺はとてもそうとは思えんが……。馬が服を着たところでそれは馬だろう。


「ハッキリ言うな! まったくっ、けなしながら誉めるやつがどこにいる!」

「……すまん、一応誉めているつもりだった。アンタは美しい、良い女王になるだろう」


 またもや返事を間違えたらしい、俺は彼女の逆鱗に触れてしまった。

 エッダの浅黒い肌がさらに真っ赤に染まっていったのだ。


「あの、グフェン様が本題を進めたがっているようですが……」

「ああ悪い。つまり何の用で来たんだ、グフェン」


 エッダもアベルも話を把握している。口を閉ざしてグフェンの言葉を優先させた。

 老人はわざわざ重い間を置いて、ゆっくりと俺の説得にかかった。


「アウサル殿、貴殿は東への援軍に加わらなくともよい。なぜならこたびの迎撃戦で、エルキアに大きな痛手を与えることが出来たからだ。こうなれば予定を早め、黄の地下隧道を北上し、エルキア反乱軍大将、エルザス王子と合流したまえ」

「安心しろ、少しだけ遅れるが編成が済んだら私も後を追う。北部は神の毒が強い、有角種や獣人は近寄れないだろう、ヤシュには悪いがあいつらは留守番だ」


 それがなかなか無茶な提案だった。

 大ごとだ、俺は待ってくれと手のひらを見せて状況を噛み砕くことにした。

 エルキアを倒すという目的の面だけ見れば、良い機転だろうか。


 だが民や己の身を守るという部分では、片手落ちどころか、虐殺を受ける危険をはらんでいた。

 もし負ければ、エルキアはその歪んだ思考を忠実に遂行し、その土地の亜種を皆殺しにするだろう。


「アウサル殿、我らは防戦ばかりしていられんのだ。やつらがこれ以上、妙な奥の手を出してくる前に方を付けよう。ア・ジールの帝王アウサルよ、どうかエルキアの狂気に終止符を打って来てくれ」


 その反面もし、エルザスがしくじれば、戦況は最悪を描く。

 チェックメイトの役目をヤツだけに任せるわけにはいかない。より確実なものにしたい。


「参考に聞く、他に誰を派遣するつもりだ」

「ゼファー殿は神の毒に対する耐性があるたった1人の有角種、神殺しの刃の持ち主。サマエルのパーツを持つ者を殺すのに、必要だ。当然ユラン様も行かれる、神の力には神をもって対抗する」


 今のユランなら派手に暴れ回ってくれるだろう。

 1000年前の二の舞はお断りだが、正直頼もしい。


「俺とアベルハム、それとゼル殿含む有角種はこのままフィンブル王国で防衛戦を受け持つ」

「……ラジールは?」


「お前と、いやユランと共に行くそうだ。それがヴィト王の願いだそうだからな」

「それはそうだ。ユランのやつが倒れては過去の過ちの繰り返しだからな。当然失うわけにはいかん」


 しかしラジールが防衛に加わらないとなると、ますます守りが不安になる。

 きっとあのやさしい竜は逆に苦悩するだろう。そんな犠牲は望んでいないと。


「安心したまえ。竜人アザト殿とリザードマン、ヤシュ殿率いる獣人、ラーズくんとエルフィンシルの兵がフレイニア側の防衛、時間稼ぎ役を担ってくれる」

「ああ、付け足すならパルフェヴィア姫も帰国して後方支援をすると言っている。ラジールさんの穴埋めをしたいそうだ」


 どうやら話を聞く限り、グフェンはここの防衛戦力をギリギリまで削るつもりだな……。

 囮役をしながら裏でカウンターを仕込むそのやり口が、いかにも彼らしく老獪だ。


「いつだってアンタたちはどんどん話を進めてくれるな。エルザスの元に、エルキアに行けか……」


 エルキア。行ったことのない国だが初めてという気がしない。

 あの日手にしたちっぽけな手記が、俺を少しずつ名無しの男アシュレイに変えていっていた。


「わかった、フィンブル王国最後の生き残り、いや我が娘同然の女をあえてチェックメイトに使うというのだ。アンタの覚悟だって相当なものだろう」


 だが断言する。もうアシュレイの二の舞にはならない、必ず目的を果たしてここに帰ってこよう。

 エルキア王を倒し、サマエルの心臓と目を滅ぼし、全てが片付いて平和になったら、アウサルを帝王にするなどというふざけた話を棒に振って、俺は呪われた地に帰ろう。


 俺は名無しの怪物、ユランの勝利する未来の為に存在する。

 役割を終えたら、ただ元のモグラの道楽生活に戻るだけのことだ。

 エルキアに行こう、今度こそ相打ちではない完全勝利をつかむためにだ。


「ラジールもあれで将軍だ、兵を率いて私と同時に発つ。先にユラン様とゼファーと共に、エルザス王子の元に向かってくれ」

「わかった、あちらで待っている。片が付く前に来てくれよ」


 ところが俺の言葉が褐色ブロンドの美しき女王様に届いていない。

 勇ましかった目線を落として、モジモジと似合わぬ身振りを始めていた。どうも場違いでいきなりだ。


「そ、そして……そしてこの戦いが終わったらお前は……帝王として、私を……。お前が相手なら私はそれでかまわない、昔はどうだか知らないが、今はそんな気がしている……。アウサル、一緒にここに帰ってこよう……」


 それは老人どもが考え出したことだろう。

 アンタの母親は、アンタを政治の道具にされるのが嫌で逃がした。それじゃアベコベだ。きっとグフェンの本心が望むところでもない。


「魅力的な話だが遠慮しよう。俺は怪物だ。俺との間に子を作っても、アウサルが生まれるだけだ。それはフィンブル王家の血筋を絶やす結果にしからん。他の男を――」

「それでもかまわない! 独立を果たした先の未来に、直系の血筋なんて要らないんだ! アウサルの子はアウサル、まさに帝王に相応しい存在じゃないか!」


 なんて情熱的で打算の含んだ言葉だろう。

 しかしそれは捕らぬタヌキのなんとやらだ。そんなことは敵に勝ってから考えればいい。

 俺はただ、ユランが勝利する結末さえあれば何だっていいのだから。


「アウサル殿、貴殿らは怪物ではない、そなたは世界の守り神だ。ユランと共にアウサルの血族をもって、我らの行く末を見守ってくれ」


 守り神……? 違う。

 それは絶対に違うと俺の知らない俺が胸の中で叫んでいた。


「無茶言わないでくれ……無理だ。俺はそんな器じゃない……」


 アウサルは守り神ではなく罪人なのだと。

 だから俺がその願いを受け入れることはなかった。


 戦いが終わったら呪われた地に帰ろう。 そこで異界の本を集め、楽しみ、夢だけを見て、アウサルというばかげた存在を終わらせよう。

 ユランが勝利した先にアウサルはもう必要ないのだ。


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