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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
永き雌伏の終わりと聖戦のやり直し サウス奪還電撃戦
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25-3 土竜と蠍の死闘 スコルピオ邸制圧戦

 スコルピオ邸・奇襲部隊は、ダークエルフとヒューマンの混成部隊を主にした。

 ゼファーとラジールがそれを指揮し、エッダが俺の護衛という名目で加わった。

 キングをチェックメイトに使うというのだ、推奨されないやり方だ。しかしフェンリエッダが譲らなかった。


 スコルピオ邸の地下は水浸しだ、やつとの因縁もまたあったので俺が奇襲に加わらない理由などない。

 水を含む壁を押し固め、邸宅の地下室と庭園へとトンネルをつなぎ直す。後はただ心を無にして決行するだけだった。

 精鋭兵100と共に、俺は後戻りの出来ない戦いに身を震わせた。

 宿敵の足下にて作戦の旨を仲間に伝える。やることは皆理解している、これはただの景気付けだ。


「これよりスコルピオ侯爵を討つ。首を取ったら市内に伏せた兵と共にサウス市街を制圧しろ。スコルピオ邸は焼き払う、独裁者の屋敷をかがり火として、やつの時代が終わったことを世界に刻みつける」


 スコルピオの甥の屋敷も同時に制圧する段取りだ。

 こちらは生かして捕縛する。殺してしまうとヒューマンの反感を招くだろう。


「では、いくぞ!」

「うむっ、屋敷外側は我に任せろ、エッダとアウサルは己の因縁にケリを付けてこい!」

「拙者も牢屋に監禁されて、私財を奪われた恨みがあるでござるが、そこは譲るでござる。エッダ殿、アウサル殿、どうかご武運を」


 もう戻せない。1000年がけのドミノ倒しの1つ目を命令と共に押し倒した。

 ちなみにドミノというのはピザと呼ばれる料理だそうだ。平和になったら作ってみよう。



 ・



 屋敷外と内部で二手に分かれて、地上に駆け上がる。ところがいきなり妙だ。


「アウサル……ッ、何かおかしい!」


 兵がいない、使用人すらも年老いた者少数いるだけで、いともあっさり俺とエッダは記憶を頼りに階段を上がり、3階のスコルピオの寝室に飛び込む。

 警備がいなかろうと、やることは変わらない。ヤツを討ってフィンブル王国を取り戻す、ただそれだけだ。


「あら、遅かったじゃない……。あまり主人を待たせるものじゃないわよ、アウサル」


 俺たちは無意識に二の足を踏んだ。ヤツはいた、たが様子がおかしかったのだ。

 やつの広い寝室には多数の燭台がかき集められ、煌々と深夜の暗闇を照らしていた。

 それだけならまだいい、部屋にはベッドどころか私物がどこにもない。


 好事家であるやつが骨董も芸術品も何一つ部屋に置かず、ただアンティークチェアに腰掛けて俺たちを待っていた。

 デミウルゴスの涙により病んだ男は、さらにまた頬を痩せさせて、暗く陰鬱な眼差しで俺とフェンリエッダを見つめている。


「お帰りなさい、フェンリエッダ」


 その悠々とした言葉にエッダが激昂した。

 お前を殺しに来たのに警備を置かずこんな歓迎をされたのだ、気持ちの整理などつかないだろう。


「スコルピオッ、今日私は、母の仇を討ちに来た! 覚悟しろ親不孝者めッ!」


 その言葉に対して、ヤツが苦しげに唇を噛む。

 それから大粒の赤い指輪をかざして見せた。それに何か意味があるらしい……。


「アウサル以外動かないでちょうだい、これがなんだかわかるかしら、アウサル」

「フッ、どういうつもりかわからんが、まあ昔のよしみで鑑定くらいしてやろう」


 ヤツは警備を放棄した、これは意地の張り合いだ。

 堂々とスコルピオに歩み寄り、赤い指輪を鑑定する。……結果は最低だ。


「紅蓮の指輪、強い衝撃を与えると集落くらいならまとめて吹き飛ばせる超危険物だな。やはり罠だったか」

「貴様スコルピオッ、私たちごと自爆するつもりか?!」


「違うわ、あたしの名誉のために訂正なさい、これは罠ではないの。これは、決闘の誘いよ……」

「ほう、誰と誰のだ?」


 これが望む夢を見せる石を売った覚悟の正体か。

 悪党スコルピオの人物像が俺の知っているものとズレていった。


「ああたと、あたしのよ」

「ふざけるなっ、アウサルに傷を付けたら八つ裂きにしてやる! こんな戦いで、勝利の切り札を負傷させるわけにはっ、いかないんだッ!」


 窮地がスコルピオを覚悟させた。その結論が俺との決闘だという。

 サウスの侯爵様が、金ずるのモグラ男と決闘をしてくれるというのだ。


「うふふ……デミウルゴスの涙が教えてくれたのよ、手放すと覚悟したあたしに、こうすればいいって」


 しかし決闘か……。誘いに乗らなければ自爆されるとなると、応じる他にない。


「わかった、だが俺が勝ったら何が貰えるのだ? 俺が負けたらアンタは何を望む、俺を殺したところでエルキアは止まらんぞ。スコルピオ、アンタはどういう意図で決闘というこんな選択肢を選んだのだ」

「もちろん、スコルピオ侯爵領サウスを差し出すわ……欲しいんでしょう、無傷で取り戻したいんでしょう、ダークエルフとヒューマンが共存していた世界、フィンブル王国を」


 それに俺は素直にうなづいた。無傷で手に入る道を示してくれるというのだ。


「アウサルこれは罠だ!」

「フェンリエッダ、ああたは、黙っていて……」


 罠ではないと思う。もしかしたら俺たちはこの男を誤解していたのかもしれない。

 俺たちにとってスコルピオは悪の化身である必要があった。


「ああ、俺はそれを取り戻したい、初代アウサルが仕えた国を取り戻したい。しかし俺が負けたら、アンタは何を望む?」

「何も要らないわよ……。いえ、そうね、それだとああたは取引に乗らないのよね。なら……甥のアルバートちゃんの命と、スコルピオ侯爵家の名誉と、家の存続を願うわ」


 俺たちとまともに戦っても敗北する。そのことをまるで知っているかのような言いぶりだ。

 それくらい不自然な条件をやつが提示してきた。


「存続だと?! 虐げられてきたダークエルフが納得するわけがない!」

「いや、無血という代価は十分過ぎる。いいだろう、その条件飲もう」


 ヤツは決着を付けたいのかもしれない。

 アウサルを対等な敵と認めた上で、雌雄を決することを願っている。


「ふふふ……お父さんに顔が似てきたわね、アウサル坊や。あら、だけどどうしたの? あたしへの憎悪を、どこに忘れてきてしまったのかしら……憎みなさいよ、あたしはああたの父親を、殺した男よ!! あの拷問を忘れたって言うのっ?!!」


 その父親も俺もアウサルという1つの存在だったと、2代目アウサルが言う。

 敵討ちの理由を俺はとうに失っていた。

 己を殺した男に復讐を果たす、ただそれだけのつまらん話に成り下がってしまっていた……。


「ニブルヘルに組みする親父を、アンタは殺すしかなかったんだろう、サウスの領主としてな」

「ふんっ、わかった口きくんじゃないわよ……。ああそうそう、これ、返すわ」


 最初はそれとわからず後ろに飛び退くことになった。

 だが間違いだ。スコルピオが床に滑らせた物は俺たちアウサルの家宝、先祖から続く欠けぬスコップだった。

 それを拾い上げて、アウサルは1000年がけの血汗が染み着いたそれを眺めた。やっと俺の手元に戻ってきた。


「そのスコップで戦いなさい、それも条件」

「わかった、そろそろケリを付けようスコルピオ」

「アウサル……だが、それでいいのかお前は?!」


 ルイゼの白銀のスコップをエッダに預けた。

 エッダは不満げだったが、最後はお前なら必ず勝てると励ましてくれた。


「いくわよアウサル、そこで、見ていなさいフェンリエッダ……。スコルピオ侯爵家の意地、そこでちゃんと、見届けなさいよッ!」


 スコルピオが黒い刀身の剣を持った。

 振り下ろされるそれを俺がスコップで迎撃する。

 ところが断てない、ルイゼのスコップではないせいか、同時にその黒い剣がそれだけ硬いのか。それが決闘を成立させる。


「驚いた、俺のスコップで断てない金属があるとはな」

「ああたがぶっ壊してくれた大釜、いえケルヴィムアーマーの残骸を使った剣よ。気持ち悪いけど、あたしこちら側の人間だもの、利用できるものは、いくらだって利用するわよッ!!」


 激しい剣の軌道に合わせてスコップを振るう。

 それは怒りではなく情熱だ。強い意志をもって剣が舞い踊った。

 何のためにこの男は戦うのだろう。ここまでの潔さがあったのなら、いっそ降伏してしまった方が良いだろうに……。


「あの小僧がやるようになったものね……アウサル、いいえ、呪われた地の怪物がッ!」

「ああ、そうだな……」


 挑発されても隙は見せてやらん。

 憎悪すらも忘れた冷めた心で、スコルピオの剣を払い、反撃の突きを打ち込む。それがどうしてか避けられていた。


 腐っても侯爵、剣術なら負けないということか。

 ただ雌雄を勝利で飾りたいというヤツの虚栄心、それに反して俺の心は冷め切っていた。


「アンタの言うとおりだ、俺は……ヒューマンではなかった。俺たちは怪物だ、ヒューマンのふりを今日までしてきただけの、世代を重ねながら1000年を生きてきた怪物、それがアウサルだ!」

「あら、やっとわかったの、そうよ、ああたは怪物よ! そしてあたしはヒューマンッ、ダークエルフのッ、敵なのよォッ!!」


 俺のスコップがスコルピオの肩を浅く斬った。だが流血しながらもやつは止まらない。

 続いて俺の方も二の腕に浅く傷を負わされた。


「そうだろうな、アンタはスコルピオ侯爵家の当主だ。当主としてサウスと家を守ってゆくなら、俺たちと敵対する他に道はなかっただろう」


 ダークエルフを奴隷から解放すればエルキア本国が許さない、搾取に慣れきったサウスのヒューマンも納得しない。

 エルフに同情したところでただ苦しいだけだ。


「甘ったるいこと言ってんじゃないわよッ! 理解なんていらないわよっ、相容れない者同士が争い奪い合う、それがこの世の真理よッ!!」


 恐怖政治、搾取、癒着、領民殺し。そこには同情の余地などないがな。


「スコルピオ、アンタはダークエルフに生まれるべきだった。そうしたらきっとアンタと俺は、違う出会い方をしていたはずだ」

「ッッ……あっ、ああたっ、や、止めなさいよォッッ!!」


 ヤツが狼狽した。動きが鈍り、弱々しく後退を始めた。

 まさか母親を死に追いやったことを後悔しているのだろうか、中年男がふいに涙を浮かべる、それは気まぐれの感傷と呼ぶにはあまりに大粒だ。


「夢みたいなこと言ってんじゃないわよっっ! あたしはヒューマンッ、ああたは怪物アウサルッ! 種族はッ、種族を変えることなんて、できないのよッッ!!」


 ああその通りだ。生まれた種族は変えられない。

 ケルヴィムアーマーを溶かして作ったとされる剣を、俺は断ち斬った。

 スコップの切っ先をスコルピオの首筋に突き立て、決闘を終わらせた。


「やったな、アウサル……」

「ああ……。では、約束を果たしてもらおうか。フィンブル王国女王フェンリエッダの実兄、リューン・スコルピオよ」


 刃を向け合って理解した、俺とこの男は同類だ。

 力を使い果たしたスコルピオは、気力を失って背中から倒れ込んでいた。


「そんなに睨まないで、エッダ……責任を果たした後は好きに処刑されてあげるから。アウサル、あたしね……本当は……。ダークエルフに生まれたかった……」


 俺とこの男は同類だ、その言葉の意味と、願いの重さがよくわかった。


「いつまでも美しく、老いず、誇りを失わない彼らが羨ましかった……。なぜ浅ましい侯爵家の跡取りとして生まれたのか、若い頃は納得なんて出来なかったわ……それも心を汚してしまえば、何のことはなかったけれど、ンフフ……」


 俺もダークエルフとして生まれたかった。

 少し頭の悪いリザードマンだっていい、種族の一員として生まれたかった。

 呪われた地で生きられるただ1人の存在、姿を引き継ぐ者たち、怖れられて当然だ……。


「今さら……今さら何を言うッ! 母を死に追いやったくせにッ、今さらそんなことを言うなッ、悪党として死ねッ、スコルピオォォッ!!」


 エッダは納得がいかない。理性を失って敗北者に罵声をぶつけた。

 同伴したダークエルフの兵士も気持ちは同じだ。


「屋敷の焼き討ちは中止だな。スコルピオ、アンタの処遇はさすがにどうにもならん。だが甥の命と家の存続は必ず約束する、だから頼む。サウスを無血で俺たちにくれ、これから始まる戦いに俺たちが勝利するためにだ。過去の軋轢、因縁などにかまけている余裕など俺たちにはない!」


 それでエルキアを倒す兵力が確保できるなら釣りが出るくらいだ。

 エッダと精鋭兵の側に振り返り、俺はスコルピオをかばって見せた。


「いいわよ、まずは市街の駐屯地かしら。面倒だけど順々に武装解除させていきましょ。ああたたちの言う甘ったるい理想を、この世に実現させてみなさいよ……。全ての種族が争わずに共存する世界、さぞや苦労するでしょうね、処刑台の上から亡霊となってそれを眺めるのが、今から、楽しみよ……」

「約束する。アンタの魂がいつの日かダークエルフに転生する日まで、理想郷を維持してみせる」


 この選択が正しい、スコルピオには敬意を払うべきだ。

 しかしエッダ含むダークエルフがそれに納得出来るものではなかった。

 どいつもこいつもやるせない怒りを、復讐心を向ける先すら失って、悔しそうにしていた。


 納得できなかろうとこれが正しい、復讐よりも今は次の勝利を見すえるべきだ。

 この先の戦いで、連戦連勝を俺たちは続けなければならない。

 その実現性を高めるためにスコルピオ侯爵家の降伏を受け入れよう。


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