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24-7 勝利と宣戦布告、フィンブル王国のアウサルとして果たさなければならないこと 1/2

 スコルピオもバカではない、地下道を封鎖するという試みを既に実行していたらしい。

 ところが敵の侵攻速度があまりに速すぎた。

 ローズベル大橋を落とされたことで敵増援の見込みこそなくなったものの、地下の隠し通路から要塞内部に入り込まれてしまっていたようだ。


 誰に予想できるだろうか、血塗れに傷つきながらもバリケードを破壊し、鉄の門をねじ曲げて、エルキア軍が狂気の突撃をしてくるなどと。

 その戦況をモグラがひっくり返してやった。

 隠し通路の入り口と出口側を崩落させ、内部のエルキア兵を閉じこめて戦闘不能にした。


 その後はエッダとフィンと別れたポイントに戻り、潜伏しながらユランから戦況報告を受け取ることに務めた。


(ククク……いかに死を恐れぬ軍勢といえど、橋が落ちては増援の送りようがないようだぞ。エルキア侵攻軍は分断されておる。要塞側にかなりの数が入り込んだが、それはスコルピオが自分でどうにかするじゃろぅ)

「アンタが問題ないというなら問題ないのだろう。地中で潜伏しているだけというのは意外とつまらん、他に何かないのか?」


(ふむ、そうだな……。ならばこういうのはどうだ? 裏切りを警戒してかどうかは知らぬがな、どうもスコルピオ本人が前線で指揮をしているようだ。会いたければ会えるぞ、そなたをいたぶった、あの最低のオカマ野郎にな)

「それは……会ったところで、今ヤツを殺すわけにもいかんからな。あと1ヶ月だけ、領主の仕事をさせてやるさ」


 少し話がそれるが大渓谷に流れる大河、その対岸のエルキア軍残存兵力がこちらに来る方法は大橋が落ちた以上もうない。

 グフェンがくれた情報によると、川の流れが激しく深さもかなりある。無理に渡ろうとすれば多くの死傷者が出るだろう。

 出来ることならば万象の杖を用いて彼らを正気に戻し、本国への疑念を抱かせたまま帰還させたい。


「ユラン……これは戦争とは全く関係ない、今考える必要のない話だが……フィンの話をしてもいいだろうか。ユラン、アンタなら、あの子の身に何が起きたのかわかるんじゃないか……?」

(……うむ、確かに有事の際にする話ではないかもしれんな。だがしかし、有事の際に起きてしまった出来事でもある、良かろう)


「すまんな……成長を見守った者として、どうしても気になってしまうようだ……。俺にこんな感情があったなんて意外だ」

(フ……それも仕方なかろう、貴殿は正常だ。……して、あれはな、フィンはどうやら、サマエルの天使ではないようだ)


 天使は創造主の手足、それを助けるために作り出されたから天の使いという名を持つ。

 そうなるとますますあの子の正体が、わからなくなってくるではないか、ユラン。 


(そう考えを焦るな。これは推測だがな、フィンは成体の状態から、卵に戻った可能性がある)

「卵に戻るだって……? ほぅ、それはまた、ますます異界の物語じみているな」


 それならば思い出したというフィンの言葉とも繋がる。

 それならば、地上に来たという言葉にも意味が生まれる。フィンは天界にいて、何かを目撃したのではないか。


(その際に以前の記憶を失ったが……操られたあの軍勢を近くで目撃したことで、何かがはじけたのかもしれん。あるいは、別の刺激が働いたか……)

「言い忘れていた、それなら思い当たるふしがある。俺は白公爵ヴェノムブリードとアビスで出会った。その隣にいた小姓が、なぜかあの川の上にいた、フィンに何かを言っていたように見えた」


 それを伝えるとユランからの返事がなくなった。

 アビスに落ちた魔貴族、それはきっとユランにとって関係の深い者たちなのだろう。

 彼らはユランのことをよく知っていた。サマエルを呪っていた。


(小姓などどこにでもいよう。どうやってアビスからソイツが抜け出してきたのか、そこが気になるが……)

「ああ、思わしくないな。エルフィンシルのハルモニアが聞いたら真っ青になりそうな話だ」


(しかしこれでわかったであろう、アウサル。もうフィンを子供扱いは出来んぞ、元々が成体だったとすればアレは、貴殿より年上の女性にあたるのだからな)

「そうなってしまうのか……。どちらにしろ俺たちはあの子を利用しようとした。その罰があたったのかもしれん……。やはり戦わせるべきじゃなかったな……」


 アビスの魔貴族がフィン覚醒の引き金を引いた。それには何か目的があったはずだ。

 当時に、フィンの覚醒があの小姓によって導かれたということは、ある不穏な仮説が浮かび上がってしまう。

 フィンは、アビスの魔貴族に生み出されたのではないかという説だ。


(どうやらお喋りの時間は終わりのようだ、フィンが戻ったぞ、大胆にも空路から一気にな。早く地上に上がって援護しろ、貴殿の娘を貴殿が守るのだ!)

「ユラン、アンタこそあの子に入れ込んでるんじゃないか? ああ、言われなくともわかっている」


 地底より渓谷の底に上がった。

 すぐに天を見上げたくなるのを我慢して周囲の安全を確認する。どうやら橋の大崩落で多くの戦闘不能者を出て、残ったエルキア兵がローズベル要塞に群がっているようだ。


 フィンの姿を探して空を見上げると、ユランと天使、それに抱きかかえられたエッダと万象の杖が見えた。

 天使が崩落した橋、その中央にある支柱の残骸に着地する。

 悪くない、その位置ならば近寄れる者はそういない。

 ダークエルフのフェンリエッダの護衛を受けながら、フィンが杖を高々と掲げた。


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