23-1 勝利の秘策 開通・黄の地下隧道
前章のあらすじ
アウサルはユランと共に、裏切り者の国ワルトワースに潜入した。
その地の独裁者ジンニクスが味方になり得るか見定めるため。敵とわかったその時は、ライトエルフの民を盗むため。
2人はワルドワース辺境にて重税と、それを受け入れる飼い慣らされた民を目撃し、ジンニクス大公に疑念を抱いた。
その夜、アウサルらはリムという家出娘を助けた。
彼女は生まれ育った国を棄てて、外の世界を夢見ていた。
アウサルは彼女に願う、安全に国外に出る方法がある。それを教える代わりに、この国のレジスタンスの元に連れていってくれ。
リムの案内により、レジスタンス・ベヒモスのリーダー、ホークと面会する。
彼にア・ジール地下帝国という理想郷を語り、レジスタンスらに移民を誘った。
すぐに結論を出せない彼らを背に、アウサルはジンニクスという独裁者を直接見定めるために都を目指して去っていく。
リムの案内もあり無事に都に到着する。
アウサルがそこから地下道を作ってジンニクスの宮殿に潜入した。だがジンニクスの足下で盗み聞きをしていると、思わぬ急報が入る。
白銀の重鎧の軍勢が現れてエルフを殺戮している。アウサルは急ぎレジスタンスの元に戻った。
しかし戻るとそこに女豪傑ラジールと、パルフェヴィア姫がいた。
とにかく事情を伝え、ホークを説得してレジスタンスと共に迷いの森を出る。
彼らが交戦地点に駆けつけると、そこには圧倒的な力を持った白銀の軍勢ケルヴィムアーマーと、ワルトワース独裁政府軍の戦いが繰り広げられていた。
不死の肉体を持つ最悪の軍勢に、正規軍は劣勢、そこで飛竜ユランは地中のアウサルを空から誘導して進路に大陥落を用意させる。
これによりエルキアの切り札ケルヴィムアーマーは穴に落ち、憎しみと共に地中へと埋められた。
ところが彼らはジンニクスと対峙してしまう。そこでジンニクスがアウサルとの密談を求めてくる。悪夢を屠る白き者。
ところが会談のさなか伝令が飛び込んできた。宗主国であるはずのオルストア王国が城へと奇襲をしかけてきたのだ。
ジンニクスとアウサル、反乱軍のホークは一時共闘して城に向かった。
ジンニクスはアウサルの提示した条件を飲み、エルキアは敵だと宣言する。代価として得られた城の地下道が彼らを城内へと導いた。
予期せぬ守備兵の増加、アウサルの土の壁で城門を補強されたことで敵奇襲軍は潰走、総大将のオルストア王国王子を捕らえたことで停戦が成立した。
戦いが片付き、ジンニクスはアウサルを城の地下へと招く。
そこにあったのはあまりに膨大な物資、ジンニクスは国民より搾取していたのではない。ただひたすら国力を積み立てていた。
ジンニクスはア・ジールへの加入を誓い、予言にあった悪夢を屠る白きへと、今日まで貯めてきた全ての物資を捧げた。
彼は今日まで裏切り者を演じていただけ。ジンニクスはあまりに孤独な忠義者だった。
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千年がけの願い、初代アウサルの真実
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23-1 勝利の秘策 開通・黄の地下隧道
あれから一月と少しの時が流れた。エルザスとの同時決起まであと3ヶ月、いやもう3ヶ月を切っていた。
ア・ジールの人々はそわそわと落ち着きを失いだし、己が運命がもうじき決まるのだと覚悟を決めようとしている。
決戦はもうすぐそこに迫っていたのだ。
明るい話題があるとすれば、あの不良娘リムがア・ジールに馴染んでくれたことだろう。
お偉方の複雑な事情など我関せず、リムはたくましくもア・ジールで農作物の代行販売を担う商売を始めていた。
「おう恩人じゃねぇか! 恩人にほいほいついて来て良かったぜ、まさか住む家まで貰えるとか最高のお人好しかよ! ア・ジール、ここは穴ぽこの中だけどよーっ、マジ、天国だぜぇ!」
その商売も上手くいっているようだ、人工太陽の暖かい日射しの下、リムは明るくはつらつと笑っていた。
さてここからが本題だ、ワルトワースより帰国すると、エルキア反乱計画の首謀者エルザスより提案が届いていた。
ここと直通の地下道が欲しいそうだ、彼の領地ウルゴス領まで続くものを。
最初に聞いたときは、さすがに俺もバカげていると思った。
だが彼は俺よりも理解していたのだろう。国と国を繋ぐ国境横断トンネルの価値を。
戦いが勃発すれば、狂ったエルキアはエルザスら反乱軍ではなく、決起したダークエルフを真っ先に消しに来ると彼は言う。
だからこちらに援軍を送ってくれるそうだ。その隙に、自分はエルキア王国王都を攻め落とすとも真顔で豪語していた。
よってそういうことだ。俺は新しい地下隧道作りに着手することになった。
名はやつの偽名、ミッド・イエローゲートとやらにちなんて、黄の地下隧道とした。
俺はそれをつい先ほど開通させた。そうだ、ここはア・ジールではない、エルキアにあるルイゼの故郷ウルゴス領だ。
レゾナンスオーブの導きによりウルゴス家の館、その地下を俺はスコップでぶち抜いてやった。
心待ちにしていたのだろうか、あの黒くうざったい長髪のエルザスがオーブの片割れを右手に、俺を待ち伏せしていたというオチが待っていた。
「やあアウサル、神出鬼没、君は本当にモグラのように現れるね。つくづくこんな者を敵に回すなんて、敵がかわいそうな愚か者に見えてくるよ」
「しばらくぶりだなエルザス。アンタはどうも暇そうだな、こんな地下で、だらだら俺なんかを待っていて良かったのか?」
「君がダレスとジョッシュをよこしてくれたおかげだよ。さあ上に行こう、つもる話もあるからな」
エルザスの後ろ姿を追って館の地上に出る。
使用人の姿はない。石造りの館は王族のものらしく立派だったが古く、足下の赤い絨毯にもちらほら汚れが見えた。
「ああ使用人のこと? 元々仕えてくれていた者みんな、この前の襲撃で死んでしまってね……今は信用できる者しか置いていない」
「そうか。……ルイゼは、本当に姫君だったのだな」
「ああ、現王は俺たちの叔父にあたる。父上の方が継承権は上だったのだがね、死んでしまっては王位を継ぎようがない」
「暗殺されたのか……?」
エルザスの部屋に着いた。
我が者顔で彼が扉を押し開き、颯爽と中へと進んでいく。俺もそれにならう。
「状況的にはそうだが、今となっては確かめようがない。当時内戦とならなかっただけマシなのか、それともそれが不幸の始まりか……ジョッシュ、連れてきたよ、我らの救世主様をね」
部屋の中にはジョッシュの姿があった。
さすがに付き合い慣れたのだろう、エルザスは無視して顔色一つ変えずに俺の前に来た。
「フフ……半年後とお約束して別れたのに、これでは少しばかり台無しですね。お疲れさまです、アウサルさん」