表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/227

22-17 悪夢を屠る白き者へ、ライトエルフの執念を込めて

 ジンニクスに招かれて俺は公城の裏手、その地下に隠された秘密の区画に案内された。

 それがまた広大な空間だった。

 そこに丁寧にまとめられた備蓄物資が、どこまでもどこまでも果てしなく、莫大に続いていた。


 金塊、宝石、ミスリルを含む多種インゴット、砂糖、酒、長期保存が可能な霊薬たち。その他、保存が利くものなら何でもあった。

 圧倒的な物資量というのは壮観だ、そしてそれこそがこのワルトワースという国の謎の答えでもあった。


「これが我の正体だ。これが我らの50年、今日までかき集めてきた全てだ……。俺は祖国を裏切ってまで、これをどうしても実現しなくてはならなかった」

「ジンニクス、アンタ……いや、驚きのあまり言葉が出てこない。アンタよくもこれだけ集めたものだな……」


 ワルトワースより消えた莫大な富、それがここに運び込まれたのは一目瞭然だ。

 彼は民から搾取していたのではない。

 かき集めたもの全てを、物資に変換して、ここに積み立てていたのだ。


「アウサル、我は50年がけのこの執念を、そなたに賭けるつもりだ。悪夢を屠る白き者……もうそんな予言などどうでもいい」

「予言だと?」


「そなたには、我らの50年と、我の裏切りの日々を賭けるだけの価値がある。さあ、受け取れ、そして本当のそなたの正体を我ジンニクスに教えてくれ」


 予言という言葉が気になったが、どうも聞ける雰囲気ではなさそうだ。

 なるほど、是が非でも城を守らなければならないわけだ。

 50年がけのライトエルフの意地、ヒューマンの国に渡せるわけがない。


「ジンニクス、俺はアンタを誤解していた。アンタを信じて希望通り伏せていた事実を語ろう」

「クククッ、我は裏切り者よ……」


 ジンニクスからは憂いが見えた。

 肩の荷が下りたという心境もあろうだろう。だがそれより遙かに後悔の方が勝っているかのようだった。

 俺がくつがえそう、スコップではなく言葉で。


「サウスの地下には生まれたばかりの国がある、名をア・ジールという。当時活躍した義賊から取ったそうだ。悪党の倉庫から財宝を盗み、奴隷扱いに苦しむダークエルフの希望となった者の名だ」

「ぬぅ、地下に国だと……」


 最初は当惑するに決まっている。

 ジンニクスもそうだった。


「その国は世界中の亜種族の国に繋がっている。有角種、獣人、ライトエルフ2国、選ばれなかったリザードマン、アンタにはお隣のサンクランドも味方だ」

「な……なん……なんだと……」


 ジンニクスの絶句といったらなかった。

 さすがに驚きすぎだろう。

 というより先にホラを疑うだろうに、それだけ俺を信じてくれているということか。


「そうか、大陥落に城への地下通路……それくらいそなたには出来てしまうということか」

「アンタ鋭いな。そうだ、このスコップで俺は隔てられた国と国を繋いで回った」


「クククッ……50年がけの疑問がやっと解けたよ。それがもし本当なら、消えたユランの国の再来ではないか……」

「ああ、ユランか……」


 まあ紹介しても問題ないだろう。

 ここまでの執念を貫いた男が、莫大な財産をくれるというのだ。

 ジンニクスは最初から俺たちの側だったとみるべきだ。


「ユランならアンタはもう会っている。俺たちの軍勢に赤い子竜が付き添っていただろう。あれが邪神ユランその人だ。訳あって威厳が足りんがな」

「なっ、救世主ユランは復活したのかっ?!」


 やはりあの姿ではそうは見えないらしいな。

 神というより、どこからかまぎれ込んだただの竜だ。


「俺はその邪神ユランの使徒だ」

「本当なのか……?」


「ああ、本当だ。あれは正真正銘の伝説の存在だ」


 亜種たちはユランの復活を願い、信じて待っていた。

 いつの日か反撃の日が来ると。

 先ほどジンニクスが予言と言った。やはりそうだ、今日という日を願って、全てのからくりを仕込んだやつがいる。


 恐らくそいつはきっと知っていたのだ。ユラン復活の日を。


「だがジンニクス、悪いがもう少し擬態を続けてくれないか?」

「それはかまわん。理由を聞こうか」


「5ヶ月後に俺たちはエルキア反乱軍と共に決起する。そうなれば恐らくサウスとニル・フレイニアの2面戦になるだろう」


 その報にジンニクスの口元が喜びに笑った。

 ついに反撃の時が来たのだと、積年の思いを込めて眼差しを険しくしていた。


「そう考えると、ワルトワースは引き続き、何を考えているのかわからない、得たいの知れない独裁国家のままの方が都合が良い」 

「クククッ、心得た。やっとために溜め込んだ貯金を溶かせるのだ。5ヶ月程度なんのことはない」


 話の早い男だ、彼はこれから起きる戦いを期待した。

 これだけの備蓄だ、何があるのか詳しくはわからんが、状況を大きく好転させてくれるのは違いない。


「よしこれでアンタと俺たちは共犯者だ。ならば直通の地下道をこの足下に掘ろう」

「アウサルよ、さすがに実感しがたい。本当にその力で種族たちを1つに繋いできたのか……?」


「ああそうだ、俺はモグラのアウサル。スコップ1本で国と国を繋いできた。……実はもう繋がっているのだがな、この国の性質からしてこことの直通ルートが欲しいところだ」


 そう伝えて俺はジンニクスの目の前で足下を掘って見せた。

 床材を台無しにして広い穴が開く。


「独裁者となるとなかなかそうもいかんだろうが、いつかアンタも来てくれ。俺たちの楽園、反逆の地下帝国へ。そこが第二のユランの千年王国だ」


 しかしその作業をジンニクスがスコップに振れて止めた。


「先王グリードとの盟約に従い、そなたに伝言を伝える。よく聞いてくれ」


 それから穴の真ん中でジンニクスが剣を抜く。

 その柄を俺の前に、刃を己の首に突きつけた。


「悪夢を屠る白き者よ、貴方にわたしの命と、ジンニクスの運命と、民の50年を捧げます。だからどうかお願いいたします。わたしの愛する子らを、エルフたちを、どうか絶望の世界よりお救い下さい。わたしたちが脅かされずに、当たり前に生きられる世界をどうか、この地上に再び、打ち立てて下さい」


 彼の過去になにがあったのかはわからない。

 けれど俺の目の前にいる男は、けしてただの裏切り者ではなかった。


「聞き受けた。俺もユランも元よりそのつもりだ、全ての種が争わず平穏に暮らせる世界を実現する。それがあのやさしい邪神の願いだ。グリード王の意志を継ごう、ジンニクス」

「今より貴方に忠誠を誓う。我はジンニクス、そなたような男をずっと待っていた、50年、ずっと……お前を」


 浅黒い肌の壮年のエルフが涙を浮かべた。

 男泣きということにしておこう。

 俺は理解した。彼は裏切り者ではない。本当のジンニクスは――


 全てを欺いた忠義者だ。


 ――裏切り者あらため、悲劇の忠義者の国ワルトワース編 終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
↑よろしければクリックで応援お願いいたします。

新作始めました、猫獣人と幼女が辺境で追放者たちの隠れ里を作ります
魔界を追放された猫ですが、人類最強の娘拾っちゃいました
ぬるいコメディが好きな方はこちらの並行連載作もどうぞ
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活《書籍化作業中》
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ