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22-16 特別編 全てを欺き続けた男の真実 2/2

「そんなこと出来るわけないでしょう! 私が、50年も、この国を独りで守り続けるだなんて……」


 50年はさすがに長かった……。

 どんなにこの日を待ち続けただろうか。

 予言者の企みはまんまと実現されようとしている……。


「替え玉を立てます、貴方を、討ったことにしましょう。影から私を支えて下さい、貴方無しで私たちは、この先どう生きていけばいいのですか……」


 忘れもしない、すると老王が嬉しそうに笑った。

 私は彼の末裔だ。末裔であることを誇りに思っている。だから悲しかった。


「わたしは、もう2年も生きられん。さすがのハイエルフも限界でな」

「嘘だ……そんな、貴方はいつまでも我々を、そんな……嘘でしょうグリード様……?!」


「本当だよ。……ユラン様、ユラン様に救っていただきながら、わたしたちはおめおめ衰退してしまった。この期に及んで、天寿を全うするくらいならばこの命、エルフの未来のために捧げたいのだジンニクス……」


 グリード様は我にすがりついた。

 深い無念に身を震わせ、我らという末裔の行く末を案じて下さった。

 何と言葉を返せばいいのかわからなかった。何か返せば良かったと今でも思う。


「50年だ……50年でいい……50年後に必ず現れる……。それまでお前は、わたしの、わたしに承認されたただ1人の後継者として、独裁者ジンニクスとしてヒューマンへの服従を演じろ。全ては、この国と民を生き繋ぐために……!」


 あのとき我が役割を断ったら、どうなっていただろうか。

 ホークと我の役割が入れ替わっていたのだろうか。

 ホーク、うぬは我の友、我の分身。


「かしこまりました……このジンニクス、今日より、覚悟を決めます。裏切り者と呼ばれようとも、必ずやグリード様の悲願を実現してみせましょう……」


 この役割は誰にも渡せぬ……。



 ・



 3ヶ月後、我はホークを欺いた。

 病と偽り軍の指揮権を他の者に委譲し、その後手はず通りに玉座の間に上った。

 ちょうど国境ではオルストア軍とのにらみ合い、いや、茶番劇が始まった頃だった。


「どうしたジンニクス、寝ていなくて大丈夫なのか? まさかもう癒えたのか?!」

「ああ急に調子が良くなった。ホーク、近衛兵はどこにやった?」


「それがな、陛下が前線に回せとおっしゃられてな……。いま城にはほとんど兵がいない」

「しかしこれではお前1人しか、陛下の護衛がいないも同然ではないか。不用心だな」


 そこで我は急に膝を突いて見せた。

 仮病だ、ホークはまんまと騙されて己も身を落として顔色をのぞき込んだ。


「すまんホーク、悪いが医者を呼んでくれないか。熱が出てきたようだ……クラクラする」

「それは大変だ。わたしはいい、ホーク、彼の願いを叶えてやりなさい」

「……わかりました。俺が戻るまで陛下を頼むぞ、ジンニクス」


 医者を呼びにホークが去ると、玉座の間は俺とグリード陛下だけになった。

 悲しいほどに計画通りだった……。

 我は立ち上がり、陛下の手招きに応じてその目の前に歩み寄った。


「グリード様……。何か、残されるお言葉はございますか……」

「ならば予言の白き者にわたしの言づてを」


「承りましょう」


 それから陛下の前にひざまづいた。

 あまり時間はかけられない。

 陛下のことだ、城の医者に別名を命じて時間稼ぎをしてあるだろうが不測の事態は避けたい。


「悪夢を屠る白き者よ……貴方にわたしの命と、ジンニクスの運命と、民の50年を捧げます。だからどうかお願いいたします……。わたしの愛する子らを、エルフたちを、どうか絶望の世界よりお救い下さい……。わたしたちが脅かされずに、当たり前に生きられる世界をどうか……この地上に再び、打ち立てて下さい……」


 一句一句正確に我は記憶に烙印として刻みつけた。

 紙に残せば万一のことがある、我は50年グリード様の言葉を忘れずに守り続けた。

 遺言は残された。後は仕上げを残すだけだ。

 偉大なるエルフの最長老に向けて我は剣を抜いた……。


「必ず伝えます」

「頼んだぞ、ジンニクス……」


 玉座にもたれる老体の胸を、裏切り者はひと突きにした。


「申し訳ございませんグリード様……ご無念は必ず私が……我が晴らしてみせましょう」

「これでよい……後は、任せたぞ……。申し訳、ございません、ユラン様……お先に、グリードは、逝かせていただきます……グッ、カハァッ……」


 手はずは完璧だった。

 我は陛下の弱々しい首をはね、それを胸に抱いて忍び込ませていた配下を呼びだした。


「陛下……嘘だろッ、何でお前がッ、何でお前が裏切るんだッッ、ジンニクス!! 貴様ッ、貴様がグリード様を殺したのかッ!!」


 ホークが戻って来た頃にはもう遅い。

 やつは首を抱く親友に我が目を疑い、隙もあっていともあっさりと配下に制圧された。


「ジンニクス閣下、オルストア側から作戦の正否報告を急げと伝令が」

「ジンニクス、お前たち、何を考えているっ、なぜお前たちがヒューマン側に寝返るんだ!?」


 今日からジンニクスは演じなくてはならない。

 ヒューマンに寝返った裏切りの独裁者ジンニクスを。

 ホークという最も苦しい峠を越えれば、我は貫き通すことが出来るだろう。


「我は愛国者だ。それゆえ滅亡を招く因子、グリード王を排除させてもらった。これよりこの国はオルストアの従属国として我のものとなる。我が友ホークよ、お前が騙されてくれて助かったぞ」

「ジンニクス貴様ァァァァーッッ、この恩知らずのクソがッ、貴様など俺の友ではない!! 死にさらせっ至上最低のクズがッッ!!」


 あれは悪夢に迷い込んだような気分だった。

 明るい未来など何一つ見えない。

 友を失い、敬愛する王を失い、50年の責務だけが我にのしかかった。


 言葉が剣となって、グリード様を貫いた私を切り裂き、それが激痛となって我が胸を焼いた。

 我はもう二度とホークとは和解出来ない。予言者のもたらした策略は最低のものだった……。


「ホークよ、我を恨め、我を責めよ、我ジンニクスは外道に堕ちた、好きなだけそしるがいい、友よ」

「貴様は俺の友ではないッ、ただの卑しい裏切り者だッ、恥を知れジンニクスッッ!!」


 我はホークに断罪される。

 卑しい裏切り者はその断罪を糧に50年を生きよう。



 ・



 茶番の約束された戦争が回避された。

 あの裏切りの日より5日後、我はオルストア王国王都に呼び出された。


「こうも策略通りにいくとは笑いが止まりませんな陛下。よくやったぞジンニクス、そなたに大公の位を授けると陛下はお考えだ」


 その玉座にてオルストア王と大臣と面会して、双方合意の上で裏切りの独裁者ジンニクス大公を打ち立てることになった。


「謹んでお受けします。臣下として本国への忠誠を誓いましょう」


 恩あるグリード様の首を塩漬けにして、それをオルストアに引き渡した。

 こうして我はこの国の悪の大公となった。


「だが念のため言っておくぞ。裏切ればただではすまさん、よく覚えておけよ」

「大臣のおっしゃる通りです。裏切り者は二度裏切る。国王陛下、深く信用はされない方が良いかと。しょせんは失敗作のライトエルフごときです」


 オルストアの王宮でも俺は裏切り者と蔑まれた。

 エルフの誇りが汚された。

 それを裏切り者は麻痺し切った心で聞き流した。

 心を凍らせなければ、鉄の心を持たなければグリード様の命をなげうった策略が無駄になってしまう。


「信じているぞ、ジンニクスよ」

「は。このジンニクス、国王陛下を信じて忠誠を誓います」

 

 オルストア王と俺は共謀者だ。

 彼は死ぬ間際まで巧みに帳簿を操り、ワルトワースが支払った税金のほど全てを返却してくれた。

 エルキア寄りの宗教改革でオルストア王は親しい兄弟と母を失ったそうだ。

 長い時間をかけた復讐を完遂して、満足そうに死んでいったそうだ。


 50年後、本当に予言通りの救世主が現れるかどうかなどわからん。

 全くの期待はずれのクズが現れる可能性もあるだろう。

 仮にもしそうなってしまったときは……。

 俺がこの遺産を引き継ぎライトエルフを守ろう。


 その頃まだ良心が残っていれば、そのときは罪滅ぼしとしてグリード様がされたように命を燃やして戦おう。

 当時の我は、そう覚悟を決めて50年に続く独裁を始めた。

 傷ついた心を鉄の意志で装って、あまりに果てしなく遠い未来のために。


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