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22-16 特別編 全てを欺き続けた男の真実 1/2

 我は裏切り者よ。

 友の信頼を逆手に利用し、仕えるべき王を殺してヒューマンに寝返った恥ずべき存在だ。

 我の搾取と独裁に呆れて国を出て行った者は数知れず、それでも残ってくれた者たちすら我は欺き続けた。


 我を崇めるその反面、民はいつだって我を見下していただろう。

 我はジンニクス、許されざる裏切り者よ。



 ・



「来たかジンニクス」

「お前もいたかホーク。……ジンニクス、ただいま出頭いたしました。グリード王よ、この私に何のご用命でしょうか」


 我はあの日、グリード王の私室に呼び出された。

 到着すると誰も近づけるなと護衛と近衛隊長のホークがすぐに下げられ、王の特別な意図で呼ばれたことを当時の我は理解した。

 自分に、どんな罪深い命令が下されるかも知らずに、生真面目にジンニクス軍司令は敬愛する老王の手を取り、テーブルからの起立を手伝った。


「無理をされないで下さい、座ったままでも私は……」

「ジンニクス」


 グリード王はライトエルフの歴史そのものだ。現存するエルフの中では最長老にあたった。

 さかのぼればエルフが創造主サマエルに祝福されて、文明を築いた頃に生まれたお方だ。


「は、何でございましょうかグリード様」

「ジンニクス……。お前には世話になってばかりだ、すまん」


 そこから全ての歴史を目撃し、グリード様は今日まで生き続けてきた。

 彼は絶対に死なせてはならない特別なエルフだった。正しくはハイエルフという選ばれた特別種にあたるそうだ。


「水くさいことを。祖先を、ましてや王を敬うのは当然のことです」

「すまん……」


 グリード様は悲しみをたたえた瞳で我に謝罪した。

 理解していたのだ、我に与えられる、罪深き命令がどれほど過酷なものなのかを。


「ジンニクス……この国は、もうダメだよ。いずれ隣国オルストア、あるいは不可解にも台頭著しいエルキアに飲み込まれるだろう……」

「その話ですか。ええ、何か手を打たねばまずい状況です」


 グリード様が杖と我の手を頼りに立ち上がっていた。

 白髪に染まりきった髪としわだらけの老いた顔、蒼い瞳すらも白内障を患い白く濁っている。

 それが我を見つめて離さない。我はいつもと様子が違うことに気づき、わずかばかりの不安をいただいた。


「そうなれば……ダークエルフの国フィンブルと、同じ悲劇が繰り返される……」

「今の名はサウスでしたか、あれは恐ろしい事件でした……せめて、我らの領地が寸断されていなければ、援軍を送りようがあったでしょうに」


 サウスのダークエルフは大半が奴隷同然の扱いに落ちた。

 重い税を納められる者だけが独立を許され、今や家畜同然の扱いを受けている。


「ジンニクス……」

「はっ、何なりとご用命を」


 我が国の民が、親しい酒場女たちが、まだ幼い子供たちが同じ立場に追いやられるかもしれない。

 絶対に、どんな手を使ってでもそれだけは避けなければならなかった。

 グリード王は俺たちの祖も同然だ、我以上に胸を痛めていただろう。


「そなたにある策略を命じる……」


 我が今日まで信念を貫くことが出来たのは、グリード様のその悲しげなお姿が、我を肯定してくれたからに他ならない……。もう後には引けなかったのだ。


「わたしを裏切りなさい」

「……。すみません、今何と……」


「ジンニクスに策略を命じる。民を守るために、わたしを殺して、オルストア王に首を差し出しなさい」

「な、なにを……王よ、私の忠節を疑っておいでなのですか?!」


 我がグリード様の意図を理解するに時間はそうかからなかった。

 オルストアに従属するふりをしろ、裏切りという手柄を引き替えに。

 そうすればサウスの二の舞は避けられる。従属国にはなるが、征服や奴隷化の悪夢には陥らない。


「わたしを殺して、お前がこの国の支配者となりなさい。既にオルストア王とも話はついている、彼の王もまた、エルキア寄りの宗派に改宗することで、雌伏の道を選んだ方だ……」


 この国が独立出来ていたのは隣国のオルストアが、元々我ら寄りの勢力だったのもある。

 だがエルキアを代表とする原理主義的なサマエル信仰に浸食された。


「本気なのですか……? 私に、ライトエルフの導き手である貴方を……たかが策略のために、私に殺せと貴方はっお命じになられるのですかっ!!?」

「すまないジンニクス……。これはお前という男にしか出来ないことだ、お前だからこそ後を安心して任せられる……」


 当時の我は疑った。

 本当にオルストア王が計画の共謀者となってくれる保証はない。

 騙されたら国と民を無償で差し出すようなものだ。


「3ヶ月後に、オルストアが攻めてくる手はずになっている。お前はその時、わたしの首を取って、やつらに差し出せ……」

「無理です。近衛隊長のホークがそんなことは許しません」


「簡単だ、お前はホークに信頼されている。欺け……」

「ッ……私にホークを、友を欺けと言うのですか……?!」


 いっそホークを共謀者として誘えば良かったのだろうか……。

 だがそれは我が友ホークを苦しめるだろう。

 悪に染まるのは我だけで十分だ。当時の我はそう考えた。


「ジンニクス、これは命令だ。オルストア王国に従ったふりをしろ。誰もそうとは認めないだろうが、わたしの正統なる後継者として、この国を守れ……」

「グリード様、私は反対です! 服従して何になるというんです! もしここが陥ちることになったとしても、共に同胞の国ニル・フレイニアへと落ち延びましょう!」


「フレイニアも、我ら全てを受け入れる余裕はないよ……。ライトエルフが数を減らさぬためにも、この土地は守らなければならないのだ。お前ならわかるな、ジンニクス……」


 一度奪われた土地はおいそれと取り返せない。

 それはダークエルフの今の惨状がもの語っていた。

 それでも我は納得がいかなかった。まだ負けたわけではなかったからに他ならぬ。


「50年、50年と少しばかしの時を待て……。そこに我らの希望が現れよう……」


 我は50年待った。

 主グリードの命令に従い、裏切り者、独裁者というそしりを甘んじて受け入れた。

 胸が引き裂かれそうな痛みを覚えながらも、次第に罪悪感すら薄れさせてゆく我に嫌悪を抱き続けた。


「悪夢を屠る白き者。全てを穿つ道理の破壊者。彼の者が我が国の民を、いや虐げられし全ての者を救うだろう……」

「50年後、白き者……。それはグリード様お得意の予言ですか?」


 グリード様に予言の力があるわけではない。

 その昔、グリード様に数々の予言を吹き込んだ愚か者がいたらしい。

 それが正しいのならば、我らはその予言者の手のひらの中で踊らされ、操られているにも等しい……。


「50年待て……。その時、反撃の機会は既にすぐそこに迫っているよ。全てはその時のために、ジンニクスよ……」

「わかりません、私は、陛下、貴方が何を言っているのかわかりません……」


 我は50年待った。

 民の喜びを踏みつぶしてその上であぐらをかき、反逆者の芽を追放し続けた。

 グリード様、いや予言者のもたらした策略のために。


「それまで、国力を蓄えなさい……」


 我は忠実に命令を遂行した。


「それまで、強欲な独裁者を演じなさい……」


 我は側近と秘密を共有し、グリード様の願いのために演じ続けた。


「ただただ富と物資を秘匿するのです。そして、それを……」


 計画の立案者がいたら我はそやつを斬る……。

 言うのは簡単だ、だが実行するとなれば逆だ。今日までの苦労は言葉に出来ん。

 どんなに結果が正しかろうと、それは許されざる計画だった。


「ジンニクス……お前が信じる者に差し出しなさい。我ら、ライトエルフの執念を……」


 悪夢を屠る白き者、全てを穿つ道理の破壊者。

 それはアウサル、彼で間違いない。


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