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22-15 スコップ1つで盛り返す鉄壁の籠城戦 2/2

「おおっ来たなアウサールッ!」

「アンタッ前を見ろラジールッ!」


 高い城郭に上がって敵を倒し、正門左翼にラジールの姿を見つけだした。

 しかし最悪のタイミングで彼女の頭上に曲射された矢が降ってきた。

 ソイツを大急ぎでウィンドマテリアルをはめて、スコップ一振りで吹き飛ばした。


「残念前ではなかったな、頭の上だ同志よっ」

「ああ、屁理屈を言う余裕があるようで安心した。ラーズも無事なようだな」

「はいっ、おかげさまでこちらの防衛に集中出来ます! まさか城門を中から埋めちゃうだなんて……あははっ、アウサルさんってすごいです! つい興奮してしまいました!」


 ラーズまで余裕を見せた。

 いやそういう戦況ではないのだがな。

 城郭に上ってくるやつを兵が蹴り落としたり、石を投じたり、登り切ったやつとの白兵戦が繰り返される激しい攻防の中だ。


 そこにまたもや矢の斉射が飛んできた。

 そいつをウィンドマテリアルの力で吹き飛ばし、城壁に取り付いた敵兵へのアローレインに変えてやった。


「ラジール、アンタは好きにしろ。ラーズは援護を頼む」

「クハハッ元よりそのつもりよっ! 兵どもよ白兵戦は我に任せよっ、敵を蹴落とせっ、城郭に上らせるなよっ!」

「はいっラジール様最高!!」


 ……何も言うまい。

 戦場において最強の武勇を持つラジールはたちの悪い戦乙女そのものだ。

 己の指揮下ですらないワルトワース守備兵を魅了し、一丸となって城郭を守り抜いていた。


 その豪剣で敵兵たちの体重全てがかかった長ハシゴを、一撃でひっくり返して悲鳴と絶叫を上げさせる。

 その姿は敵からすれば修羅、悪鬼、破滅をもたらす黙示録の騎士そのものだったことだろう。


 一方俺はラーズの護衛を受けながら城郭の一部をスコップで削り、フレアマテリアルの力で加熱した。

 ソイツを城壁の下に投げ捨てる。ただちに恐ろしい叫びが上がる。

 焼き石として削れそうな部分が心もとなくなったら、次はアイスマテリアルで城壁の外側を凍らせて回った。


「う、うわあああああっっ?!」

「ひぇぇっ?! な、なんだこの壁っ、冷たっ、すべっ、滑るぅぅっ?!!」


 これが地味ながらも長期的な効果を見せた。

 滑る城壁にバランスを崩し、落下する敵兵が相次いだ。

 悪いがこっちも命がけだ、恨まないでもらいたいものだ。


「さて同志アウサールよ、そろそろ戦場の流れが変わるぞ。どうだ一緒に来るか?!」

「え、ちょっ、今度は何をしでかすつもりなんですかっラジールさん?!」

「ほう、というより、既にしでかした後だったのだな。アンタの滅茶苦茶な戦術に、すっかり感覚が麻痺し始めている自分にあきれたい。何をするつもりだ……」


 破れぬ城門と、強行突破不能の城郭にオルストア軍は動揺を始めた。

 さらにはホーク率いる本隊が敵の背後を突き、速やかな退路を塞いでいる。

 オルストアからすればまさかのまずい戦況になっていた。


「こ、これでは話が違うぞ?! やつらはエルキアが足止めしてくれるはずじゃ……はっ、まさか我らは謀られたのかっ?! ええいっこうなれば立て直したっ、国境まで一時撤退するぞ!!」


 そんな大騒ぎ大混乱の戦場の中、どこからかそんな間抜けな言葉が聞こえた。

 向こうは撤退だそうだ。


「……おい、ラジールはどこに消えた? ついさっきまでそこにいたよな?」

「そ、それがアウサルさん、それが……なぜかあそこなんです……」


 撤退の知らせが届いたのだろう、敵の攻撃の手が止まっていた。

 城壁からラーズの指先を追って見下ろすとそこには、退却を始める敵軍に混じって単騎突撃を仕掛けるラジールがいた……。


「嘘だろ、何なんだアイツは……。何であんなところにいるんだ、ラーズ、教えてくれ……やつは空間転移でも出来るのか……?」

「と、飛び降りるのを見ましたよ……? 長ハシゴの敵兵を踏みつぶしながら、最後は綺麗に着地していました……」


「飛び降りた? 命知らずにしたって限度があるだろう、普通の頭だったら実行を前に踏みとどまるぞ……。つくづく何なんだあの女は……」

「俺にもわかりません……」


 これは後で聞いた話だが、敵指令官は現場を捨てて撤退を始めようとしたそうだ。

 そこをあえなく、不幸にも、ラジールという怪物的猟犬に狙われて、人質として哀れにも捕縛されたそうだ。


 サウス北西、ローズベル要塞でもこれと似た戦いが5ヶ月後に起きるだろう。

 そう考えるとマテリアルに今少しのバリエーションとストックが欲しいものだ。

 エルキアの底知れなさと兵力を想定すれば、攻撃の激しさは今回どころではないだろう。

 そこに悪夢の鎧ケルヴィムアーマーが投入される、それはほぼ確実と言っていい未来予想図なのだから。



 ・



 潰走したオルストア第一軍を、ワルトワース軍が追撃した。

 オルストア兵のある者は投降し、またある者はどうにか国境まで逃げおおせることになったそうだ。

 それ以外の者についてはあえて口にしまい。戦争は戦争だ、綺麗事では済まない。


 さてラジールが捕らえた敵指令官だが、そいつはオルストアの王子だったそうだ。

 お手柄だ。これからの人質としては最高の価値を持っている。


「盗りたければ盗ってみよ。クククッ、ホーク、うぬの誇り高さに我は賭けよう」

「貴様ッ、俺たちを舐めているのかッ?!」


 一方ジンニクスはオルストア側の侵攻を警戒して、こっちが片付くとすぐに国境へと飛んだ。

 守備兵として、レジスタンスとホークに城を任せて、国境各所に正規軍主力をまるごと移したのだ。


 ああ、言わなくともわかることだが、当然のようにラジールはそれについていったぞ。

 闘争が生きがいと公言するくらいだ。それこそ当然の成り行きだった。


 ……それから5日間のあいだ、何度も国境での小競り合いが繰り返された。

 それが済むと両国は元からあった外交ルートを用いて、あまりに早い停戦を結んでいた。


 エルキアからの増援が見込めなくなり、さらにはサンクランドが動乱をいち早く察知して国境に威圧の兵を配置した。

 開戦の情報が届くと、すぐにニル・フレイニアが同族を救うために派兵すると宣言したこともある。

 そのためオルストアは停戦を結ばざるを得ない状況に追い込まれた。


 予想だにしない情勢変化と思わぬ劣勢、手柄を上げさせるために派遣したはずの王子の捕縛、オルストアはこれらの損耗を嫌った。

 同じ宗派でありながら、一度は協力して攻めて来た身でもあるのに、どうもエルキアを強く警戒していたようだ。


 つまり利用するつもりが、利用されていたというところだろう。

 結果だけは見ればひどい顛末だ。


 しかし、オルストアはとある主張だけは取り下げなかった。

 盗んだ金を返せ。

 オルストアの国庫より奪ったものを返せ、ジンニクス、と。


「わからんが返してやったらどうだ、それで丸く収まるんだろ」

「クククッ……さて何のことだろうか。皆目わからぬ話よ」


 しかし裏切り者にして詐欺師ジンニクスはしらばっくれた。

 停戦が済むとすぐに城に戻ってきたのだ。


「前オルストア王が崩御する直前に、あの国より莫大な富が消えた。どうもそれは事実らしいな。そしてその行き先を、エルキアから彼らは吹き込まれた」

「クククッ……まあ、頃合いか。アウサル、うぬともう一度話がしたい。今度は特別な場所にうぬをご招待しよう。付き合ってくれるな?」


「ああ、それはかまわん。こちらも伝えなければならないことがあるからな」


 前オルストア王とジンニクスは結託して、宗主国へと支払ったはずの莫大な税を、国外ワルトワースに持ち去った。

 それがオルストア王国側の言い分だった。


 ならばこのジンニクスという男、やはりただの俗物という枠組みには収まらなくなる。

 いや、俺の推測が正しければ彼は……。


「ようやく50年か……。思いの外、長かったものよ……。やっとこれで我は……クククッ」


 正真正銘の、大した裏切り者だ。

 俺はこの国を去る前に、今度こそこのジンニクスの正体を見定めなければならない。


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