22-14 スコップ1つで盛り返す鉄壁の籠城戦 1/2
ジンニクスはこの上ない形で約束を果たしてくれた。
実質これでワルトワースは俺たちの味方となったと言ってもいい。
ならば代価を支払おう、ホーク指揮する正規軍・レジスタンス本隊に先行して、俺たちは200の精鋭と共にワース市に入った。
秘密の地下道の入り口、あの教会は敵の包囲の外側にあった。
避難民のたむろする敷地へと俺たちは押し掛け、その裏に作り出した秘密の地下通路をジンニクスに紹介した。
「紹介しよう、こいつが城内直通の地下道だ。少し細いが強度は作った俺が保証しよう、どうか安心してこれより城内守備兵としての貢献を独裁者様に見せてやってくれ」
「クククッ……これがうぬらの大陥落策のからくりか。よし、総員我に続け! アウサルよ、うぬに案内を頼む!」
あれこれとムダ話をしている時間はない。
俺はジンニクスを背に、元々は偵察用だった隠し通路に身を投じた。
浅いU字を描く地下道を駆け抜ける。
「近道をするか」
「ほぅ。うぬに全て任せる、やってみせよ」
城の真下までやってくると俺は新しい道を造った。
ほどなくして攻城戦の中心核ワース市公城、その外郭内部に到達していた。
誇らしい気分だ、かすかに俺は笑ってしまった。
高くそびえる堅固な城壁もユランのくれた偏った力の前にはこの通りだ。大地を穿ち、道理をひっくり返す、これを最高と呼ばずなんと言う。
「じ、ジンニクス様っ?!」
「ち、ちちちっ、父上ぇぇっ!?」
ちょうどそこが前線司令部だった。
外郭城壁は破られていない、寡兵しかいないのに城の作戦会議室でふんぞり返っているほど、ジンニクスの息子はそこまでバカではなかったようだ。
「待たせたな、ブロームよ、ただちに状況を報告せよ」
「負傷者はうちに任せて。ラジール、フレイニアの第一王女として命じます、我らの同胞と、その城を守りなさい!」
パフェ姫が負傷者の治療を受け持ってくれた。
ハイエルフの優秀なる癒し手だ、激しい攻撃に疲弊した兵士たちが彼女の手により勢いを取り戻していく。
「任せよっ! 籠城戦、それは最高の晴れ舞台よっ! よしラーズっ、我についてこいっ!」
「えっ、でも俺はアウサル様を守るって約束が……ちょっ、ちょっとラジールさんっ?!」
ラジールとラーズは白兵戦の中心地、城郭正面を目指して駆けていった。
まあ片方は哀れ、力任せに引っ張っていかれたともいうかもしれん。
城郭への階段を登り切るとそこで繰り広げられていた激しい白兵戦に加わり、2人は最強の援軍となって侵入者を蹴散らしていった。
「さて俺も行くか。指揮は任せたぞジンニクス」
「言われなくともわかっておる。くれぐれも命を落としてくれるなよ、白き者アウサル」
「独裁者様に心配されるとはまあ気分がいいものだな。まあ見ていろ、アンタがあっと驚く別の芸を披露してこよう」
オルストア軍の攻撃は激しいものだった。
城郭には矢が撃ち込まれ、さっきからガンガンと破城槌が城門を打ち鳴らしている。
それがあの陥落事件を俺に思い出させた。
「早く火を消せ!」
「だけどどうやってっ、もう水が……!」
いざその城門前にかけつけてみると、火計を受けて内側から門に取り付けない状態に追い込まれていた。
さっそく出番のようだ、この場に間に合って良かったな。
「なっ、なんだお前はっ?! その目は……っ」
「そのセリフはいい加減聞き飽きたな。この紋章を見ろ、俺はジンニクス直属の秘密部隊の者だ。さて……」
足下は固められていたがれっきとした黒土の地面だ。
そこにスコップを突き刺して、土の塊を城門前の炎の海に投げた。
それにより少しだけ火勢が弱まる。
「まさか、助けてくれるのか?!」
「お前ヒューマンだろっ、なのになんで……っ、なんで俺たちを……お、おおおっ!?」
「火の勢いが……!」
後は手数だ、自重無しのありったけのペースで土塊を炎に投げて投げて投げ続けた。
土で埋まった油は赤い炎を失い、瞬く間に俺は城門を、いや火計そのものをスコップで埋めてみせてやった。
「き、消えた……あんなに手がつけられなかった炎が……」
「な、何なんだお前っ、いや貴方は……夢でも見ているかのようだ……!」
「……あれ? ってちょっと待てよ、おい蛇眼男! それいつまで続けるつもりだよ?!」
破城槌の1撃1撃が俺たちの生存を脅かす暴力だった。
その恐ろしい攻撃をまずは無効化させよう。
あのニブルヘル砦防衛戦時にそうしたように、今度は内側から俺は障壁を土で塗り固めて補強していった。
どうでもいいが、俺はどこに行っても穴を掘ったり土いじりばかりしているな。
まあ歩兵と切り結ぶよりはずっと俺向きだろう。
「聞いているかっ!! 裏切り者の詐欺師ジンニクスよっ、オルストア王は怒り狂ってるぞ!! 今すぐその首と、我が国よりくすね続けた全てを返してもらおうかッ!!」
黙々と作業を進めていくと、その門の向こう側から敵将とおぼしき何者かが罵声を飛ばしてきた。
距離が距離だ、ジンニクスにはとても届かないと思う。
しかしその主張は繰り返し向こう側から布告され続けていたのだろう、味方の兵たちはもう特に気にするようでもなかった。
裏切り者ならまだしも、仲間だったはずのオルストア王から詐欺師呼ばわりか。
どうもおかしなことになっているな……。なにもかもが食い違ってしまっている。
「どうしたっ、何を手を抜いている! サボるなっ、時間をかければいずれ矢に射抜かれるぞ!」
「い、いえそれが、門が急に……。おかしいですっ、いくら打っても、まるでビクとも動かなくなりました……。破城槌で岩壁でも叩いてるような……」
「バカもんっ、そんなわけがあるか! もっと気合いを入れて槌を打ち込め!! あとちょっとだったのだ必ず壊せる!!」
補強は敵さんにも好評のようだ。
土が力と振動を飲み込み、城門破壊を無意味な愚行に変えた。
スコップで分厚く固めたものだ、おいそれと壊せるものではない。そうなっても俺が補修してやる。
「ないと思うが、もし壊されそうになったら呼んでくれ。俺はこれから城郭に上る」
念のためもう少し気持ちだけ補強して、俺は黒土に埋まった城門に背を向けた。
「あ、ああ……」
「はははは、すげぇ、夢でも見てる気分だ……」
「人間業とは思えねぇ、はははっやったっ、これで俺たち命が繋がった……!」
それでも敵は諦めずに破城槌を撃ち込んできた。
ムダなあがきだ、城門突破は諦めた方がいいぞ、裏切り者のオルストア軍よ。