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22-12 独裁者と、神代の悪夢をほふる白き者

 地上に上がるのに少しばかし苦労した。

 土石流というのはバカにならん、次からはもっと気をつけるとしよう。


 さて神代の怪物ケルヴィムアーマーは俺たちという第3勢力を含む合同葬儀で埋葬された。

 この最悪の殺戮者を埋めて停止させる、その見解で俺たちは完全一致していたわけだ。


 しかし問題はこれからだ。

 レジスタンスのベヒモス含む俺たちは、ジンニクス大公に運悪くも見つかってしまっていた。


「助けてやったんだ、見逃してくれ」

「そういうことだっ、我らの助けがなければ見るも無惨な結果となっていたぞ、独裁者よっ、ここは大らかに、何も見なかったことにしろっ!」


 相手は裏切り者だ、そう簡単にはいくまい。

 場合によっては逃走劇の始まりとなる。


「そうはいかない。まずはうぬの名を答えよ」

「名前か」


 まあ姿をこうして見られてしまった以上、ごまかせん。

 この容姿を持っているのはうちの一族だけだからな。黙るだけそこはムダだ。


「聞いたことくらいあるだろう、白き死の荒野のアウサルの名を」

「先ほど名を呼ばれていたのはうぬか。して、そのアウサルがなにゆえここに来た。なぜヒューマンとエルフを連れている。答えよ」


 ……まずいかもしれん。

 だてに50年独裁を保っている男ではない、どう出るつもりなのかまるで予測がつかん。


「我らが窮地から救ってやったのだ、恩知らずな行いはするなよ独裁者」

「クックックッ……あの怪物を、こういともあっさり倒してくれるとはな……。確かに恩は感じている、そこは率直に認めよう」


 なにかたちの悪いことを考えてはいないだろうか。

 そのジンニクスという壮年のエルフは、俺を執拗に見つめて離さない。

 配下にしたいとでも、やつなりに考えているのか? それとも殺しておくべきとでも。


「俺たちは離脱する、後ろを突くつもりなら、覚悟しろよ、ジンニクス……ッ」


 そこにホークがやってきた。

 レジスタンスのリーダーと独裁者だ、何か深い軋轢があるようだ。


「うぬごとき取り逃がしてもさしたる害にはならん。さっさと眠れる獅子(ベヒモス)とやらの森に逃げ戻るがいい。ただしこの男だけは置いていってもらおう」


 そうきたか。

 気に入られてしまったのか、それとも怪しまれているのか、その両方か。

 これはしくじってしまったな……。


「渡せるわけがないな、彼らはワルトワースの恩人だ。ジンニクス、貴様は信用できない、あんなに信頼し合っていた先王を……貴様はッ!」

「ククククッ……モテるではないか、白きアウサルよ。ますます興味深い男よ」

「……何か俺にようでもあるのか。恐怖政治を行う裏切り者の、ジンニクス大公よ」


 ジンニクス、この国の全権力を手にしている者だ。

 こちらが断っても譲る気などないのだろうな。この国で彼に通せぬわがままはない。


「安心しろ、手荒になどしない。ただうぬの話を聞かせてもらいたいだけだ」

「いいだろう、俺とアンタのさしでいいのなら付き合おう。実は俺もアンタと少しだけ話してみたいと思っていたのだ」



 ・



 近くの納屋を借りて粗末なテーブルを独裁者と囲いあった。

 暗殺の危険もあろうだろうにやつは俺の条件に乗った。

 よほど腕に自信があるのか、それとも密室という環境が彼に都合が良かったのか。

 それも話してみなければわかるはずがない。


「まずはうぬの問いから答えよう。疑問があるのだろう、この国に来た以上はな」

「ならば率直に聞こうか。ジンニクス、アンタは何を考えている。ワルトワースという動向の読めない国を生み出した張本人よ、なぜアンタはヒューマンの味方をしているのだ」


 この男が味方か敵か、そこが一番知りたい。

 悪政を行っていたとしても、味方になってくれるなら5ヶ月後の戦いが好転する。


「なぜだと、うぬは思うかね?」


 質問を質問で返されても困る。

 しかしこれは俺を試そうとしているのかもしれないな。

 サンクランド王に俺がしたことと近いのかもしれん。


「そうだな……。ヒューマンの国オルストアの属国ではあるが、この国は平和だ。豊かとは言えない、アンタに搾取されてるといってもいい。だが平和だった。アンタはこの形を実現し、維持したいと思っている、それだけは伝わってきた」


 俺の返答にジンニクスはただちに返答を返さなかった。

 ただただ独裁者は俺という異邦人を見つめて、俺の真意を探ろうとしている。


「返事を。実際どうなのだ?」

「そうだな、ふんっ……我が裏切らねば、この国はオルストアあるいはエルキアに既に消されていたな。我の野望と我欲が結果的にこの国を救っている。そういうことだ、まあ多少の搾取構造くらいは許せ、宗主国に対する顔もある」


 事情にはそこまで詳しくない。

 しかし少しばかし矛盾している点がある。

 城に忍び込んだとき、オルストア側からの貢ぎ物があったではないか。


「それはおかしいな、アンタはオルストアからの支援を受けているようだ」

「エルキアとの対立がそうさせたのだ。オルストア王国は我が国の鞍替えを警戒して、融和的な政策を多くとるようになった。……おかげで我はそこいらの王侯を超える富に与れている、羨ましかろう?」


 それはまた大したコウモリ外交だ。

 この男やはりわからん。同時にこの男の真意1つ明かせばこの国の正体が分かる。


「宗主国に対して反乱を起こす理由はないと?」

「今のところはない。あの国の庇護下にいた方がこちらとしては都合がいいのだ。さて、次は我の質問だ」


 我慢していたのだろう、再び彼の執着心がアウサルの異形を見つめた。

 一国の独裁者が、なぜ俺ごときにこれほどまでの執着の念を見せるのか。


「うぬは何を願う。どうしてエルフと共に行動している。なぜヒューマンとエルフが手を結んでいる。どうやってあんな大陥落を生み出したのだ」

「その最後のは企業秘密だ、といっても予想はついているだろうがな。あのエルフとヒューマンは俺の大切な仲間だ。俺の願いは――そうだな、彼らの仲間として可能な限り奮闘して、気高きその行く末を見届けることだ」


 もしユラン復活を伝えたらジンニクスはこちらに降るだろうか。

 言ってみる価値がある。

 だがメリットとリスクが釣り合っていない。


 ユランの復活が世界に広まってしまうと、おかしな勢力を刺激し敵にしかねない。

 俺たちの戦いはエルキアと同レベルの宗教戦争になってはいけないのだ。


「彼らの願いは尊い。彼らの決意は深く潔い。彼らの境遇はまるで砂上の楼閣のように脆くはかない。そんな彼らを助けたい、そう願う者と俺は出会った。その者は色々と善悪を疑われることもあるが、俺はそいつを信じている。どうしてかはわからないが、実質ほぼ無条件でな……」


 わからない男だ。

 裏切り者のジンニクスは俺の言葉をしんみりと聞き続けてくれた。

 この男は二面性を持っているのだろうか。

 傲慢な独裁者でありながら、それとは矛盾したものを持っている。


「アンタは俺に何を求めている。なぜ俺ごときにそこまでこだわってくる。……まあ奇跡的なマジックを引き起こして見せたのは事実だが、俺の内面はさして重要ではないだろう」


 疑いは徐々に形を得ていった。

 どうもこの男は違う、ワルトワースを旅して感じた、金に汚い独裁者像とは。


「一国の独裁者が俺ごときの内面になぜそこまで目を向ける必要がある」

「ああ……。それはな、うぬが……」


 壮年の男がまぶたを閉ざした。

 続きの言葉を伝えるのをためらい、感情を隠すために背中を向けた。


「うぬが……神代の悪夢をほふる白き者――」


 その時だ、納屋の扉が激しく解き放たれ伝令とおぼしき男が地にひれ伏した。

 普通ならば俺を人払いして、報告の許可を求めるだろう。だがそうはならなかった。


「大変ですジンニクス様!! 城がっ、我らの城がっ、……オルストア軍に取り囲まれています!! 陛下っ、我らはやつらに裏切られました!!」


 ……そういうことらしい。暗躍を続けるのは俺たちア・ジール地下帝国だけではなかった。

 世界中の国々が争乱の始まりを予感し、予想も付かない行動を取り始めている。

 独裁者ジンニクスは裏切られた、エルキア寄りのヒューマンの国オルストアから。

 従属を約束した国を、今再びヒューマンの国が征服し直そうとしていた。


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