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22-11 神に祝福されし神代の遺産、白銀の重装ケルヴィムアーマー 2/2

「お供します!」

「もうラジールってば、どうしてそんなに戦うのが好きなのよっ!」

「ラーズくん、こちらは俺に任せておいてくれ。若いんだから大人の前で無茶はほどほどにしてくれよ」


 ホークさんまで悪あがきに賛同してくれた。

 ならば実行するのみだ、俺とラジールさんは敵へと再突撃する。


「このじゃじゃ馬めっ、前に出るなと言っておろう!」

「ラジールに全部任せるだけじゃ心配なだけよ!」


 目標はラジールさんが相手をしていたケルヴィムアーマーだ。

 激突を前にしてバインドのツタが地中より現れて、敵の巨体を拘束した。

 立て続けに姫様が得意とする幻惑の魔法も放たれた。それにより敵の迎撃攻撃がほんの少しブレる。


「そんなへなちょこで、このラジールを止められると思うなよっ!!」


 ラジールさんがその斬撃を俺に代わって受け止めてくれた。

 力と力が拮抗し、神代の怪物の動きが止まる。


 その隙に俺は交錯する剣と剣との下をくぐり抜けた。

 狙いは利き腕の肩だ。ケルヴィムアーマーの右わき腹に俺はしがみついた。

 それからゼファーさんから授かった刀でめいっぱい斬り上げると、有角種特製の切れ味が怪物の腕を両断してくれていた。


「うおおおおおーっっ、アイツ、斬ったぁぁぁーっ?!!」

「嘘だろあんな小僧が……すげぇぞ!!」

「やるじゃないかラーズくんっ、これなら……!」


 腕は斬り落とされても生命力を失わなかった。

 斬り落とされた腕は虫の肢体のように暴れ回り、時間をかけて生き絶えていく。

 もう鎧の中のものは人間じゃない、鎧を動かすための正真正銘の怪物になっていたんだと突きつけられた。


「最後の美味しいところは我に任せよっ、そんなでたらめな攻撃がっ、我に当たるかっこのバカめっ!」


 利き腕を失った白銀の怪物が格闘と体当たりでラジールさんを倒そうとした。

 けれど姫様の幻惑術がまだ利いているのか、まともに狙いが絞れていない。


 その隙を付いてラジールさんが腕のない右側に回り込む。

 いつのまにまた拾っていたのか、ラジールさんの手には1本のロングソードがあった。

 お手本を見せてくれるかのように敵の右わき腹にラジールさんがしがみ飛びつくと、長い刀身を持つそれが、俺が作り出したむき出しの傷口に深く突き刺さってゆく。


 刃が心臓へと到達すると、ついに銀色の全身鎧が動きを止めた。

 たかが50分の1体だけど、不死身を倒したという意味はどこまでも深く大きい。


「た、倒したのか……?」

「というより倒せるものだったのか……?!」

「や……いやったあああーっっ!!」


 すぐにレジスタンスおよび正規軍双方から熱い歓声が上がった。

 攻略方法が示されたことで賞賛と勝算が生まれて、下がり切っていたみんなの士気が一気に回復していく。


「あっ待ってみんな、ユラン様が……」


 そこに立て続けの朗報だった。

 ちらりと空を見上げれば、ユラン様が空中を激しく飛び回って敵軍の周囲を旋回し始めた。

 合図だ、アウサルさんがついにやつらの足下で落とし穴を完成させてくれたんだ。


「我は白銀の巨兵を倒せし戦士ラジールであるっ、わかったら命が惜しければ我の話を聞けっ! 今すぐっ、敵陣の内部から離脱せよっ、そんなバカはいないと思うがもしいたら、すぐ戻れ、死ぬぞ!!」


 ラジールさんの大声が戦場にとどろいた。

 もしここで正規軍を巻き添えにして落とし穴が発動すると大変だ。せっかくの救援なのに状況がこじれてしまう。


「ど、どういうことだ……?」

「そうは言うけど、こっちだって命令があっておいそれと従うわけにも……」

「そもそもお前らどこの所属なんだ? 強いのはわかったけど、だからってそう簡単には……」


「ええいっ、死にたくなければ従えと言っているのだっ!」

「お願いしますっ! うちらはただ同族の皆さんを助けたくて来たのっ、それは嘘じゃないわ!」


 大丈夫だと思う。ケルヴィムアーマーの背があまりに高すぎてよく見えないけど、敵陣内部に突入してる命知らずなんていないはず。だけどその時だ。



「彼らの意見に従え。復唱しろ、今すぐ敵本陣から離脱せよ!」



 低く野太い声が命令の復唱を命じてくれた。

 振り返るとそこには返り血でドロドロになった男がいて、軍人たちはそれにたいそう驚いてただちに指揮に従っていた。

 ライトエルフにしては浅黒い肌に黒い髪、老け込んだ中年の顔を持った厳しそうな人だ。

 まさかとは思う。彼は正規兵たちをたった一言で従わせたんだ。


「貴様ッッ……」


 すると急に人が変わったかのように、怒りと憎しみを入り乱れさせてホークさんがその人を睨む。

 そんな強烈な敵意を黒っぽい男は大胆不敵に笑い返した。


「妙なところで会ったな。思えばずいぶん久しぶりの再会だ、長老王グリードの騎士ホーク、そして古き我が友よ」

「ジンニクスッッ!! なぜ貴様がこんな最前線に立っている!! 先王を後ろから刺したこの薄汚い裏切り者め、貴様なんかが俺の友であってたまるかッッ!!」


 その人はあの悪名高き独裁者ジンニクスだった。

 まずい。アウサルさんの代わりに俺はそう思う。

 遭遇してはならない人と遭遇してしまった。


「嫌われたものだ。うぬと我で朝まで国の将来を語り明かしたというのにな、どうしてこうなったかな、ホーク……」

「貴様がエルフの決意を踏みにじったからだろうっ、貴様のせいでこの国はヒューマンの属国となったのだぞ!!」


「そうだ、我が裏切ってオルストアにグリードの首を差し出した。うぬは友の我が裏切るとは、つゆさえ知らずうかつにも――」


 ホークさんは戦場だというのに我を忘れてジンニクスとの口論を始めた。

 だけどそれは、地響きを含む轟音により突然中断させられることになったんだ。


「て、敵陣がっ……!?」

「んなっ、何が起きたんだ、こんなことが……おおおおっっ、き、奇跡だ!!」

「やったぞ、今だ、残ったあの鎧どもを突き落としてしまえ!!」


 驚かないはずがなかった。

 あんなに手も足も出なかったケルビムアーマーが、まさかの一網打尽で深い穴底に落ちていったんだから。

 ただ数体だけ地上に残ったものもあった。しかしそれも正規軍たちのがんばりにより、ただちに大陥落へと突き落とされた。


 装備の重さが重さなのもある、敵の脚部へのダメージは計り知れない。

 だけどそれでも神代の怪物どもは動きを止めなかった。

 もがきはい上がろうと、骨の砕けた足を動かし、仲間を踏みつぶしてまで穴より上がってこようとしていた。


「……これがうぬらの狙いか。見事、しかし不可解な策よ」

「兵の命を救ってやった礼がそれかっ、裏切り者の貴様にふさわしい返事だな!!」


「いいだろう、同じこの国を愛する者同士だ。ひとまずうぬらと共闘といこう。……総員、やつらを今すぐ埋めろ、剣の刃をダメにしても許す、奴らを絶対に這い上がらせるな。同胞の仇だ地獄に突き落とせ!!」

「何を言うかこの嘘つきの搾取者め……くぅっ……」


 仲間を殺された恨みもあってか、迷うことなく兵たちははい上がろうとする敵を蹴り、土を掘り返して巨大な陥落を埋めていこうとした。

 俺たちはそれに協力した。しかしレジスタンスたちはホークさんの命令がなければ動けない。

 むしろ自分たちの宿敵をホークさんと一緒に睨んでいた。


「手伝うか?」

「あ……アウサルさん!!」

「ああっ、無事で良かったわアウサルくん! もう泥だらけじゃない!」


 そこに泥まみれの男が帰ってきた。

 白銀のスコップを背負った俺が守るべき人だ。

 アウサルさんはすくさま自分が生み出した大陥落を、魔法や奇跡としか思えないスコップさばきで、神代の悪夢たちを埋めていった。


「神代の悪夢をほふる、白き……」


 どうしてだろう。

 ジンニクスはホークさんから関心を失い、アウサルさんの姿を目を見広げて凝視していた。

 血にまみれた剣を落として、いつまでもいつまでも。俺の信じる英雄を。


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