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22-5 家出娘と竜に導かれて 独裁者に仇なすレジスタンス探し

 案内人リムに導かれながら北東を目指した。

 人里を横切るときはフードを深くかぶり、森や小山、あまり使われることのないルートを選んだ。

 恐らくそこにはリムの事情もある。

 あの夜森に彼女が現れたのは、追っ手を警戒して人目を避けていたのだろう。


「マジかよ……」

「フッ、最初からこうすれば良かったな」


 道中に大きな川があった。

 それを越えるには渡し船を頼るか、人の集まる大きな橋を通過しなければならない。

 そこで俺は川を地下から潜り抜けるという、摩訶不思議な芸当をリムに見せてやった。


「驚いたか娘、これが我が輩の使徒アウサルの力よ」

「はっ、驚かねぇわけねーだろっ?! これ穴掘るのが上手いとかそういうやつじゃねぇから! そのまんま奇跡じゃねーかよっこんなのっ!」

「ああ、その奇跡の力で渡り賃をケチることが出来たな」


 先を急ごう。


 ・


 リムと出会えたことが俺たちの幸運だった。

 その若く優秀なガイドは、俺たちを1度も迷わせることなく目的地の森へと案内してくれた。

 そこは暗く深い森だ。これといった出入り口もないので、最初はルート探しに手間取ることになった。


「アウサル、レジスタンスとおぼしき男を見たぞ」

「それは見事だ。アンタの翼はつくづく便利だな」


 しかしそこはユランが解決してくれた。

 森の入り口周辺を飛び回り、迷いの森内部との出入りを張ったのだ。


「リム、これは我が輩からのちょっとした気持ちだ。食え」

「テメェ恩人! そうやってあたいに恩を着せるつもりかよっ、上等だ貰ってやろうじゃんよ!」

「やかましい、誰かに聞き付けられたらどうする」


 ユランがアンズの実を赤毛のリムに投げ渡した。

 すぐに威勢良くそれがかじられる。


「案内してくれ」

「うむ、こっちだ」

「おい……あたいもついてくからな……っ、テメェら心配なんだよっ」


 リムがアンズを食べ終えた頃には、俺たちはユランに誘導されて森に入っていた。

 当たりだ、道無き森に2人並んで通れるくらいの道が隠れていた。

 その道をユランを先頭にして進む。


「ふむ……」

「あ、あれぇ……。ここって……」

「俺には先ほどと同じ地形に見える」


 俺の知る迷いの森はヒューマンを拒み、エルフを内部へと導くものだ。

 ここにそのエルフのリムがいるというのに、少しばかしおかしなことになっていた。


「参ったな、ここまで来て手ぶらで帰りたくはないぞ」

「おい恩人、よく考えたら生きて帰れる保証もねぇぞっ。ちゃんと、出られるよなぁ、ここ……」


 不安そうに彼女が暗い森を見回す。

 この国はやたらと森が多い。

 アビスハウンドがなぜか出没したくらいだ、安全とも言いがたい。


「安心しろ、我が輩を誰だと思っている」

「ほぅ、つまりアンタならこれをどうにか出来ると?」


「任せよ、我が輩こそ生ける神話、この程度の幻惑などどうということはない」

「おおっやるじゃねぇかっ、この恩人めっ。はぁぁっ……良かった……」


 便利な邪神様だな。

 ユランは再び幻想の鎖と共に封じられた身体をあらわにすると、鋭い爪を振りかぶり偽りの道を暴いた。


「ひ、ひぇっ、で、でかぁぁぁっ?!」


 ひとりでに木々が左右に開いて本当の道がユランの左手側に現れた。

 生ける神話か、神が自分で言っていたら世話はないな。


「アウサル、貴殿は今失礼なことを考えていないか?」

「気のせいだ、むしろアンタが俺たちの敵じゃなくて良かったと思っていた」


「ふんっ、どうだかな」

「この先に……反乱軍が……お、おい恩人! あたいから離れんじゃねーぞっ、心配なんだからテメェはよぉ!」


 勘の鋭いやつだ。疑惑をごまかすついでに我先に道を進んでやった。

 薄暗かった森が豹変してゆく。

 さらに明るく健康的な日差しが入り交じるようになると、俺たちはたどり着いていた。


 独裁者ジンニクスと対立する、この国の反乱軍の拠点に。

 そこはニブルヘルの隠し砦を連想させるような、森の中に作り出しされた小領地だった。





「何だお前らはっ?!」

「若い女、それに……な、なんなんだお前たちは……」


 外周を柵が取り囲み、まっすぐ進んだところに正門があった。付け加えるとどちらも木製だ。


「怪しい者ではない。……といったところで説得力がないか」

「クッ……元の姿を取り戻しておれば……」

「ま、待てよテメェらっ、勘違いすんじゃねぇよっ?! ひ、ひぇぇぇ……」


 こうなることはわかっていた。

 招かれざる客は直ちに包囲されていた。

 剣と槍、門のやぐらからも弓を突き立てられた。


「どうやって森を突破したんだこいつら」

「まさかそこの娘が……? 誰かの知り合いか……?」

「怪しい動きをするな! 少しでも妙なことをすれば撃つぞ!」

「や、やっぱりついてくるんじゃなかったっ、チ、チチチッ、チクショォーッ!」


 スコップを地に突き刺し両手を上げた。

 どうやらよっぽど敵を警戒しているようだ。


「勘違いすんじゃねぇぞテメェら! こいつらはジンニクスの仲間じゃねぇからな! 国の外から来て、テメェに会いたいっていうから連れてきてやったんだよっ、このっ、バッキャロゥッ!」


 リムは威勢が良いのやら臆病なのやらわからんな。

 臆病なりに言うべきところをしっかり言うところは評価したい。


「国の外から……」

「おお……」


 しかしだ、必死な彼女の主張は彼らの心を動かした。

 いや正確には、外国から来た、という部分に大きく興味を引かれたようだ。

 彼女という仲介人をはさんだ意味も大きいだろう。


「俺の名はアウサル、ニル・フレイニアに近しいとある国から来た。敵意はない、損もさせない、頼むからアンタたちのリーダーに会わせてくれ」


 話を聞く気になってくれたようだ。

 兵たちは俺たちに向けた得物を下げ、対応を迷いながらもリーダーへと使いを送ってくれた。


「すまん、少しそこで待ってくれ。本当に、外国から来たのか……?」

「国境を越えてくるなんて、勇気あるなお前……」

「だけどその目と、腕は……」


「うちの家系特有の体質だ。色々特殊な生活環境があってな、別に病気ではない、これが俺だ」


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