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22-1 ワルトワースへの地底深き旅路


前章のあらすじ


 ルイゼが己の素性を明かした。

 彼女の本当の名前はルインスリーゼ・グノース・ウルゴス。エルキア王の姪にして第6王位継承者。

 そのルイゼがヒューマンの国サンクランドへの使者となることを決意する。


 一方アウサルは白の地下隧道の延長工事に着手した。

 その際にユランよりいくつかの古い話を聞き出す。


 ユランが封じられるより以前にはアウサルという個体は存在しなかった。

 またユランには沈黙の制約がかけられており、巨人が生まれるよりさらに古い時代のことは話すことが出来ない。

 かつて歴史を消した者がいたため。


 その後トンネルが東国サンクランドに到着、ルイゼとエルキア王が対面する。

 会談は思いもしない展開となったが無事に成功した。


 サンクランドの民はユランに属していたヒューマンの末裔。

 生き延びるためにサマエル信仰を続けてきたが、全てはユラン復活の日のための偽り。

 こうしてルイゼの決心をきっかけに、ニル・フレイニアの隣国サンクランドが同盟国に加わってくれたのだった。


―――――――――――――――

 裏切り者の国ワルトワース編

―――――――――――――――


22-1 ワルトワースへの地底深き旅路


 出発前にサンクランド王に自慢の地下トンネル・白の地下隧道を見せた。

 何せ存在しているだけで人の常識を揺るがすものだ。

 口で説明するより、直接俺が有用性と作り方を実演して見せるのが早かった。


「これが白の地下隧道、隔たれた種族を結び直す道だ」

「ははは……参ったなぁ。まさかそうやってこの地底を、地道にコツコツと、ここまで掘ってきたというのかね君は……有り得ないね!」


 王の前で進路の土をえぐり、壁材として圧縮して見せた。

 あっという間に新しい道が地底に拓く。


「言っておくがこれは極秘中の極秘だ。アンタを信用して見せている。万一この通路が敵に見つかれば、策の1つが崩れる。全ての種族を束ねる、存在するはずのない国ア・ジール地下帝国への経路が生まれてしまうのだ」


 作業の手を止めて王へと振り替える。

 これで多少は現実感を覚えてくれただろうか。

 果てしないこの地下トンネルの先にニル・フレイニアがあり、さらにその先にア・ジールという地底の理想郷があるということに。

 本当はそのまた先に有角種とリザードマンの国があると語りたかったが、それこそ頭が追いつかないだろう。


「フフフ……凄まじい話だ、凄まじい力を持っているじゃないかアウサル」

「あのユランの力と、俺の片寄った才能がたまたま綺麗に噛み合っただけだがな」


 サンクランド王は興奮して俺のすぐ前に近寄ってきた。

 賢い人だ、じわじわと地下トンネル(コレ)の価値を理解してくれている。


「わかった、厳重な管理を約束しよう。そもそも王族とその関係者しか入れない、私の宮に君はここを繋いでくれたからねぇ、まあ安心したまえ。それと面白い陶器が出土したら、また頼むよ」

「……一応売り物だ、サービスはするが相応の代価をいただくぞ」


 おいおいは出口周辺を王に整備してもらうとして、今はこの連絡路さえあればそれでいい。

 なにせ直通だ、外部の誰にも全く悟られずに、亜種の国とヒューマンの国がやり取り出来るというのは大きい。


「当然だ、私がそんなケチに見えるかね、素晴らしい物には相応の代価が必要だよ。でなければ作り手や売り手がいなくなってしまうからねぇ」

「アンタのような好事家ばかりならよかったのだがな。値切るのはいいとして、名品の価値を金額で計ろうとするやつは好きになれん」


 今回のサンクランドでの成果には、発掘家アウサルの新しいパトロンが増えたという部分もある。

 この手合いとは今後ともよろしく願いたいものだった。


 欲しいと思うやつがいなければ、発掘物はただのガラクタにしかならない。

 宝石や黄金のように、万人に認められる価値を持つ名品ばかりではないのだ。

 彼のような好事家は貴重だ。隠れた良さやちょっとした渋味に着目して、相応の代価を支払い、価値を喧伝してくれることだろう。


 これこそ正しいパトロンの姿だ。


「しかし素晴らしい。アウサル、君はまるで芸術品のような存在だな。……私はもう勝算が見えてしまったよ、素晴らしい構想だ、負けるはずがない」


 サンクランド王はそう言って瞳を輝かせた。

 これがあれば、あるべき場所にあるべき援軍を誰にも悟られず送ることが出来る。

 攻防どちらの局面でも無限の価値を持っていた。反面これを有効利用するにはさらなる兵力が必要だ。


「王よ、それは何とも返しにくいお言葉だな。とにかくだ、俺たちはアンタを信用する、繰り返すがここの管理は任せたぞ。いずれ戦いになればこいつが――」

「大戦となればこれの価値は無限大だな。フッフフッ、私は勝利者側に立ってしまったかもしれん、実に素晴らしいよ」


 大げさなことを言うものだ。

 その好奇心の強い王様は、トンネルの硬い壁に触れたり、あちこちを見物し始めた。

 道を造って繋げる。シンプルだがそれは、男のロマンだ。


「そうかもな。ところで王よ」

「名前で呼んでくれ、ウィリアムだ。ウィリーでいいよ」


「ではウィリアム王、俺はここから東にトンネルを延ばしていく。悪いが食料と水を恵んでくれ」


 東という言葉に王はただちにこちらへ振り返った。

 ここより東といったら候補地はそう多くない。

 すぐに目的地にも感づいた。


「まさか……」

「ああ、俺たちはワルトワース公国に向かう。そしてあちらの出方次第だが、大勢の移民がここの地下を通ることになるかもしれん。その時は物資の支援をお願いしたい」


 ウィリアム王が壁に背中を預けて足を組んだ。

 王には似合わないしぐさだが、あごをつまんで思慮を始めるとこれがどうも合う。ウィリアムという個人に。


「ワルトワースねぇ……」

「何かあるのか?」


「あそこはさ、何を考えてるのやらわからんねぇ。まさか接触するつもりかい?」

「その判断は現地でする。まずは直接この足で情報を集め、国内に救いようがあるかどうかを見極める」


 ニヤリと王としては若い30過ぎの男が笑った。

 ランプの赤い明かりに照らされた世界だ、男前だった。


「ダメなら国民を移民に変えて盗み取るか。悪かないねぇ、この地下道があるからこそ成立する常識ぶち破りの作戦だ」


しかし感想は賛同ばかりではなかった。

現実を思い出してか渋い顔を浮かべる。


「んーーだが言っておくよ。希望通りの結果にはならないかもしれんよ。あの国は何から何まで、独特だからねぇ。……国民も、またね」


 ウィリアム王は言った、国外逃亡の誘いに乗る者はそう多くないかもしれない。

 1人の統治者として不思議でならないが、あの国の民は恐ろしく我慢強い。

 それを実現させた男、サンクランド大公ジンニクスは……


「ヤツは裏切り者として名高いけどね、ある面では私も認めているんだ。……独裁者としての才能は、古今東西のあらゆる王を超えるだろうね」


 そいつはただ者ではない男だと。


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