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21-4 引き継がれた約束の国サンクランド

「え……」


 ルイゼの真実にラーズは護衛者としての我を忘れ驚いていた。

 予想外の全く聞いていない展開に、あ然と事態を見守ることになっていた。


「それはおかしいねぇ。ルインスリーゼ姫ならば、わけあってエルキア王の元で勉学に励んでいると聞く。こんな場所にいるはずがない」

「そこまでご存じなら、当家の屋敷が襲撃を受けたのもご存じですね?」


 襲撃を受けた。

 エルザスもそれに近いことを言っていた。

 捕まったはずのルイゼの本当の行方をたどり、そこで俺たちの存在に気づいたと。


「報告には聞いている。エルキアの内紛ともなれば大事だからね、この国では特に」

「食い詰めた傭兵団による仕業となっておりますが、それは兄エルザスを操るために現エルキア王が仕掛けた罠でした。私は屋敷の人間を犠牲にして落ち延びましたが、エルキア王は……私の替え玉を仕立てて、兄を恫喝しました。……妹の命が惜しければ従え、と」


 よそ事のお家騒動に過ぎないが、エルキア王の狂気を印象付ける材料にはなる。 

 フレイニア侵攻しかり、ダークエルフ処刑命令しかり、既に数々の不審な暴走が諸国の目の前にさらけ出されていた。


「それが本当ならば許しがたい横暴だ。それが本当ならば、エルザス王子は……そうか、やっとカラクリがわかったよ」

「はい……これは貴方が敵に回らないこと前提で明かした真実です。私は、エルザスの妹ルインスリーゼは貴方を信用して言います。どうか力をお貸し下さい王よ、今の狂ったエルキアを倒すためのお力を、私たちに……。兄は、エルキアを正すつもりです! だから、私たちは――」


 するとサンクランド王がルイゼの言葉に心動かされた。

 ルイゼの手を握り、彼女の願いを真剣に受け止めてくれた。

 ……あとは女癖が悪いという情報さえ聞かなければな、美談に見えたのだが。

 鑑定能力とはろくでもない反面を持つな……。


「え、ええっ……」

「あのっ、今大事なときだと……うちは思うのですが……」


 しかしだ、予想外の事態が起きた。

 何をするつもりなのか、そこにユランが翼を広げて割って入ったのだ。

 ちょうどそこにあったテーブルに着地して王を見上げた。


「サンクランド王よ、我らは亜種族の連合軍ア・ジール帝国の者だ。そして、我が輩は――」


 よりにもよってそれを語るのかアンタは……。

 その先は絶対に言わせてはならない。俺は会見の場でありながらも大声を上げる。


「待てっ、ユ――うっ、とにかく待てそこの竜! アンタッ、この後に及んで何をするつもりだっ?!」


 ユランは邪神だ。

 サンクランドも宗派が違うだけで、創造主サマエルを信じている。

 だからユランというその名を出したら全て台無しなのだ!


「我が輩の名はユラン、サマエルに逆らった愚か者とされる存在だ」

「ユランアンタッ、アンタなにやってるんだッッ?!!」


 何が目当てかわからないがやられた!

 ユラン、やはり連れてくるべきではなかった……。

 神様なだけあって変に世間ずれしているのだコイツは……。


「フ……隠しても付き合いを続ければいずれ発覚する。彼にはここで明らかにしておかねばならんのだ」

「そうはいいますけど……ど、どうしましょう……」


 アンタの巫女も困っているぞこの邪竜め……。

 さあどうする、どうすれば丸く収まる……?

 幸いにしてサンクランド王は話のわかる男だ、まだ希望が断たれたわけではない。


「これが邪神……。それにしては、へぇ、小さくかわいらしい姿だねぇ」

「ああ、それは誉め言葉として好意的に受け取ろう。まだ復活して間もないのでな、どれ、ならば今だけふさわしい姿を取ろう」


 ユランの暴挙はそれだけで収まらなかった。

 よりにもよってこんなときに隠し玉をさらけ出したのだ。

 その身を戒める幻想の鎖が現れたかのように見えれば、鎖にあらがい、馬よりも大きな巨体に変身していた。


「へ、陛下ぁぁーっっ!!」

「落ち着け、何のことはないただの赤くて神秘的な竜だ」


 それをサンクランド王が止めた。

 下がれと言ってもさすがに騎士はこれ以上聞かなかったが。


「本物のようだな……」

「クククッ……どうだ美しかろう。して王よ、我と取引をせぬか? 我らが、目障りなエルキアを倒してやる……。だからその代わりに力を貸せ」


 もはや修復不能だ……。

 ユランめ……それほどまでに己の鑑定能力に自信があるのか……? だがこれは……。


「どうした邪神とは手を組めぬか? 組まねばいずれ、貴殿らは滅ぼされよう。つまらんサマエルへの信仰の形の違いだけを理由に、理不尽にな。王よ、我が輩が予言しよう。エルキアを倒さねばサンクランドに未来はない。我らが滅びたその後、エルキアは狂気の矛先を貴殿らに向ける。家族や国民を惨たらしく奴隷にされたくなければ、今日よりこのユランに、力を貸せ……」


 ユランがお得意の土俵に王を引き込んだ。

 だがなユラン、その土俵に相手が上がってくれるとは限らん。

 ……なぜかわからんが、幸運にもサンクランド王は言葉を重く受け止めてくれていたのだが。


 まさかとは思う。王はユランと同じ見解らしくうなづいていた。

 いやそれだけならまだしも、騎士の前だというのに膝を地に突きひれ伏した。

 待て、なんだ、なんだこれは……。


「神よ、貴方は私たちを誤解しています。私たちが、どんな思いで私たちが、今日まで雌伏を続けてきたのかご存じない。サンクランドは王家や名が幾度となく変わりましたが、とある取り決めだけは今日まで堅く守られ続けてきました」


 わからん、なぜサマエルを崇める国の王がユランに平伏するのだ。

 これはいったい何が起きている……。

 こんな展開は誰1人として予想なんてしていなかったぞ……。


「貴方はご存じですか、貴方が封じられて眠りについてよりその先の歴史を。サンクランドの民の先祖は……」


 こんなところで安易な奇跡が起きてもらっても困る。

 何を言うつもりだ王よ、いや、そんなまさか……。


「かつて貴方に味方したヒューマンたちの末裔なのでございますよ。そうです、私たちのサマエル信仰は、今日という日を迎えるために始まったものなのですよ」

「待ってくれ、ならアンタたちは、1000年以上もユランの復活を待ち続けたというのか……?!」


「いえ、代々古き盟約を引き継いできただけのことです。寿命の短いヒューマンにはこれが限界です。フレイニアのように毅然と本日まで戦い続けることなどできませんでした」

「クククッ、にわかに信じがたいな。本当にそんなことが起こり得るのか……」


 王朝が移り変わっても守り続けられた盟約。これが本当なら大したものだ。

 もうこうなれば正体を隠す理由もない、ユランが己自身を明かしてしまったのだ。俺も仮面を外してサンクランド王の様子をうかがった。

 悪い、話が唐突過ぎて追いつけない……なぜこうなっているのだ……。


提唱者(・・・)がいたそうだ。経典と教義を新しい別物に差し替えて、サマエルを崇めるふりを続けろとね。そうしなければユランに味方した裏切り者たちとして、いずれこの地上より絶やされるだろう、だから従ったふりを続けろ。とね」


 それが1000年歪まずに続いたことが何よりもの驚きだ。

 ダメだ、全く頭が追いつかん。

 まるでその提唱者はこうなる未来を予知していたかのようではないか。


「と、とにかく同盟してくれるということで、いいんですよね、サンクランド王様……?」

「ええ、サンクランドの未来のために同盟いたしましょう。この地ではエルキアと決着を付けたがる民も多い。この国には、宗派の対立という軋轢の歴史が刻まれているのですよ」

「そうならそうとフレイニアに明かして下さればよかったじゃないですか王よ……。はぁ、うち、ビックリしましたよユラン様……」



 ・



 それはあまりにやはり急展開過ぎた。

 俺たちは当惑の感情が先に出てしまい、素直に奇跡的な好展開を喜びきれないままだった。

 ともかくサンクランドは俺たちと共に戦ってくれるそうだ。

 細かい裏事情は後で聞くことにするとして、今はその提唱者とやらに感謝だけしておこう。


「提唱者……まるでユラン様の復活を予想してたみたいですよね、やっぱり……」


 後になってラーズが俺と似た感想を抱いた。

 1000年がけて全ての歯車がユラン復活の時代の為に動いてきたという説だ。

 ロマンチックかもしれんが、いささかこれではご都合主義が過ぎる。


 サンクランド王はニル・フレイニアを代理としたア・ジールとの、軍事同盟を結ぶと約束をしてくれた。

 ……さあ、これで未来の懸念が1つ消化されたことになる。


 予想不能の展開とはなった。

 けれどここは素直に称えておくべきか。


「ルイゼ、今回はお前のお手柄だ。ユラン、今回みたいなのはもう勘弁してくれ……。俺たちはアンタみたいに、人物をそこまで深く鑑定などできないのだ……」


 ユランからすれば1000年の時を越えて古い仲間たちの意志が、再び己の軍門に戻ってきた形だ。

 口には出さなかったがあちこち飛び回って、うっとうしいほどに機嫌が良くなった。


「短い寿命でありながら意志を引き継いで守り続けるとはな……。願いに報いて、再び取り戻さねばなるまい。失われたあの千年王国を」


 ヒューマンはサマエルのえこひいきを受けた。時代の勝者となった。

 だというのにサンクランドのヒューマンは立派だった。

 立派に創造主からの寵愛を否定し、己たちの意思でユランの旗に集うことを願った。


 俺はヒューマンを誤解していた。

 引き継がれてきたその執念に敬意を払おう。

 こうして会談は大成功をおさめ、サンクランド王は5ヶ月後の戦いに加わることを約束してくれたのだった。


 ……まあ、ウィリアム・サンクランドにあれこれと、うちの名品をさらに無心されることになったがな。


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