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21-2 スコップ1つで進める白の地下隧道延長計画と、古の制約

 俺たちにはタイムリミットがある。

 帰国後3日目にはニル・フレイニアへと移動した。


「ではなラジール、しばらくの間ラーズを頼んだぞ。……言っておくが常識の範囲で頼むぞ、ラーズがしぶといからといって限度を超した鍛錬をほどこされては、この後の護衛役がつとまらん」

「ワハハッ、いきなり現れたかと思ったらつれないやつめ! 東への地下道か、ワクワクしてくるなぁ……まさか、パフェ姫も連れてきたということは……、んん~?」


 といっても俺は地上に上がってラジールとヴィト王に軽い挨拶を済ませると、すぐにまた地底に潜った。

 非常にまずい……、予期していたとはいえラジールに気づかれかけている……。

 アンタがいかに最強の猛将だろうと、これほどまでに潜伏や護衛に向かない、全くと言ってかすりもしない人材はアンタの他にいないのだラジール。


 ああ、ラジールのせいで脱線したな……。

 ともかくだ、俺はア・ジール地下帝国からフレイニアに繋いだ白の地下隧道をそのまま延長させて東を目指した。

 地上に出てフレイニア東端から堀り始めるというプランもあったが、これは秘密の地下道だ。秘匿性を高めるにこしたことはなかったのだ。


 スコップを振るい、いつものようにえぐった岩盤を壁材に変え、俺は黙々と作業を続けていった。

 ときおり邪神様と言葉を交わしながら。


「作業に集中するとすぐこれだ。何か話せ」

「……何かと言われてもな、俺は別に退屈などしていない」


「本気で言っているなら貴殿には石像になる才能があるな。はぁ……つくづくおかしな男よ……」

「性分だ、こういう生活に慣れてしまっているだけだ。異界の言葉にもあるだろう、住めば都コンブ」


「……それは知らん」


 パフェ姫とルイゼはそれぞれ外交交渉のために、フレイニア王宮で資料集めや予行演習をしつつの休暇を取っている。

 ラーズとルイゼがアジールを出るとなると、それにフィンとバロルバロア姫がついてくるのも当然の流れ、それぞれフレイニア王城で楽しくやっているだろう。


「どんな土地も住めば昆布のようにじわじわ味が出てくるという意味だ。……恐らくはな」

「そんな言葉は知らんと言っておろう……」


 しかし妙なことだ。

 まさかユランが俺の穴掘りに付き合ってくれるとはおかしなこともあるものだ。


「やることがない暇人といえば我が輩くらいなものだ。さすがにそろそろ寝てばかりとはいられん」

「なんだ、惰眠をむさぼり過ぎて焦ったか。アンタにも人らしい部分があるのだな」


「やかましい、復活の課程で眠りが必要だっただけだ。我が輩をただの人任せの神だと思うなよ」

「ああ、そのことを気にしていたことだけは、はっきりと今わかったよ」


 穴を掘る。

 ユランと言葉を交わしながらただただ横穴を掘る。

 相性が良いのだろうか、たまに交わすユランとのやり取りが心地よく仕事になじんだ。

 ユランは代わりにカンテラを運び、ときおり休憩や食事をするよう細やかに気を使ってくれた。

 さらには弁当の運搬をしてくれるそうだ。


「そういえば……」


 モグラ男には立派すぎる焼き肉弁当、しかも2粒の姫君お手製のものをつつきながら、ふとユランとしか出来ない話題が浮かんだ。

 これもずっと聞こうと思っていたことだ。


「うちの初代のことをアンタ知っているか? 実はな、アビスを下ったときに妙なことを言われた。それがどうにも気になっている……」

「ほぅ。よかろう、まずは我が輩にそれを話してみろ」


 ユランは主導権を握りたがる。

 逆らう理由もない、素直にうなづいて続きを話すことにした。


「白公爵ヴェノムブリードと名乗る老人から言われた」

「――!」


「俺は54代目のアウサルだと」


 やはり知り合いのようだ、ユランに震えるような反応があった。


「だから俺も気になってな、実家の倉庫を漁り直した。結論は――53代だ」

「何かと思えば歴代アウサルの歴史か。……ふむ、なにかこれといった意味があるようなこととは思えん。あの老人にからかわれたのではないか?」


 やはり知り合いなのだな。ユランは自分が無意識に情報を漏らしていたことに気づいた。

 が、何もなかった気づかぬふりをしてごまかしていた。


「そうだろうか。だが、どうしてか気になる……どういう意図であの男は、わざと間違えてみせたのだろう……」

「貴殿は貴殿だ、ルイゼにも似たようなことを言っておったろう、アウサルはアウサルだ」


 それでも知りたい。

 俺は答えのない思慮に没頭した。

 その答えが俺たちアウサルの正体を教えてくれるのかもしれなかった。

 お前はヒューマンだと、歴史が俺が肯定してくれたらどんなにいいだろう。


「……悪いな、我が輩は封じられて数百年は深く眠り続けることになった。まどろみながら地上を夢見するようになったのは、その先のことだよ。……よって、貴殿の初代についてはわからん」

「なんだ……そうか、なら妙なことを聞いてしまったな。すまない」


 弁当が空になっていた。

 ユランが運びやすいように縛って片付けると、俺は東へ東へトンネル工事を再開した。

 その間も考えを止めることはなかった。


「そんなに気になるのか?」

「ああ」


「そうか」


 ユランは俺を気づかってか一緒に考え続けてくれた。

 スコップが地底の岩盤を切り崩す音ばかりが響き、没頭という言葉と時間感覚の停止が続いた。


「アウサル、これは安易な見解だ。白き死の荒野のアウサルとしては53代目、だから倉庫には53人分の記録しか残っていなかった、などという答えはどうだ?」


 無意識にスコップが止まった。

 どういうことだ? いや、そうか、なるほどな……。


「もしかして……アンタの王朝が滅びたのもその頃なのか?」

「……そうだな、妙な話よ。我が輩の王国が滅びねば、白き死の荒野のアウサルは存在せぬ」


 因果なことだ。

 けれどそうなれば立て続けに新しい疑問が浮かぶ。


「ユラン、これはグフェンの仮説だ。アウサルはアンタを掘り当てるために呪われた地に縛られていた可能性があるそうだ。……ならば、それ以前の俺の先祖は、どこで何をしていたんだ?」


 その先祖の先祖を含めると54代目になるという意味だったのだろうか。


「わからん。だが当時貴殿のような姿をした種族がいたとは聞いておらん。何せそれまで我が輩はずっとずっと地上に君臨しておった、いれば知らぬはずがない」

「ならばおかしいだろう。どこから湧いて出てきたのだ、白い腕と蛇眼の男は」


 これでは余計に答えが遠くなっただけだ。

 都合良くも滅びたユランの王国の後継者が、なぜ入れ替わりで現れたのだ。


「そこは我が輩の方が聞きたいぞ。貴殿はなんだ? サマエルが生み出した5種族でもなければ、それより以前にあった種たちでもない。神の毒を超越し、代々同じ顔を引き継ぐ、度を過ぎた発掘バカ」

「バカを言え、俺はヒューマンだ。たまたまあの地に順応しただけの、普通の弱いヒューマンだ」


 恐らくは強情なやつだと、トンネルを掘り続ける背中を見守られたのだろう。

 だがそこは譲れない。俺は親父にそう教わって生きてきたんだ。


「アウサル、それよりアビスの奴らは他に何か言っていたか? ああ、だがある一定より昔のことは悪いが言えん。貴殿の大好きな異界の言葉でいうところの、プライバシーというやつでもあるが……実はちと厄介な事情があるでな」


 事情があることは最初からこっちはわかっている。

 スコップを大地に突き刺し、背後のユランに俺は振り返った。

 カンテラを足にぶら下げた竜が地に着陸する。


「アンタは大げさなのが好きだな。もったいぶらないで簡潔に事実だけを頼む」

「フンッ……ものには順序があるのだ」


 悪いがこっちはその順序や道理をすっ飛ばすのが最近の仕事だ。

 早く話さないと作業に戻るぞと白銀のスコップを握り直した。


「わかった簡潔に言おう。我が輩には、制約がかけられている」

「制約? なんだそれは?」


 またスコップを突き刺し直して聞きなれない言葉に腕を組む。

 ユランが翼を広げてそのスコップの握りに乗って、作業は止めろと主張した。



「ある傲慢なる者が歴史を消した」



 ユランにとっては大切なことなのだろう。

 真剣で重々しい言葉だ。……なんだかんだ結局は遠回しな言いぶりだったが。


「そしてその古い歴史を知る者には、生かしてやる代わりに黙っていろという制約がかけられた。よって我が輩は口には出来んのだ」

「……ある傲慢なる者というのは、例のサマエルとかいう悪神か?」


「それすら答えられん。しかしやつの力は完璧だ。ひとたび従った以上はいまだ逆らうこともできん。……こうして傲慢なる者は消したのだ。誰にも見られたくない、絶対に隠さなければならない秘密をな」


 それは気になってやまない話だ。

 世界の主だった者が隠した秘密の歴史、この世に生きる者が興味をいだかないわけがない。

 アビスの怪物どもはサマエルを裏切り者だと言っていた。


「絶対の神様がそこまで隠さなきゃならないものか。さぞかし面白い話なのだろうな」

「……そうやって全てを他人事の物語としてとらえようとするのは、貴殿の困った癖だな。まあ……どんな神にも生まれと生い立ちがあったということよ……」


 俺の性分にあきれながらも、ユランはどこか悲しそうに思い出を振り返った。


「つまりアンタにも生まれと生い立ちがあったと」

「ああ……」


「しかしそれは制約とやらに引っかかるために、語れないと」

「ああ、そうだ……すまんアウサル」


 ユランがスコップの握りから下りた。

 もう話は済んだということか。

 気の利いた言葉も浮かばない、ルイゼのスコップを握り直して穴掘りに無心になった。



 ・



 それから4日が経った。


「アウサル、例のオーブに反応があるぞ」

「おお、そのようだな」


 それはレゾナンスオーブとゼファーが名付けてくれたものだ。

 見ればここにきてついに輝きが増していた。

 片方のオーブに反応して輝きを強める、これはそういうものだ。


「こちら側の地層からはさして珍しい物は出なかったか」

「ふんっ、そうほいほいと古の禁忌を掘り当てられてもこちらは困る」


 リザードマンの巣穴を掘り当てたときは、己の持つ発掘の才能に震えたものだ。

 片割れと共鳴するオーブが光の軌跡を作って、俺たちを地上の目的地に案内してくれていた。

 これより俺たちはルイゼを連れて、サンクランド王に接触する。


「どうするアウサル。工事を優先させて地上を我が輩に任せるという手もあるぞ。ただでさえ貴殿は目立つ、あまり向いた任務ではなかろうて」

「ああ、そんな提案はお断りだ。アンタの力ばかり頼れない、サンクランド王は俺が見定める。会わずに信用するなど出来かねるからな」


「ルイゼが心配だと素直に言え」

「ああ、そんなの心配に決まっているだろう」


 最後の一息で地上へのスロープを作っていった。

 ルイゼは俺の今の家族だ。

 それもやがてこの戦いが終わればいずれいなくなる。フィンもいつか大人になって自分の道を歩む。

 それまで出来る限りのことをしてやりたい。


 ・


「わぁっ?!」

「あはは、ラーズってばそんなに驚かなくてもいいのに。お待ちしてました、アウサル様」

「アウサルくん、お疲れ様。やっぱり凄すぎて不思議だわ、その力。本当にサンクランドとフレイニアを地下道で繋いでしまったのね……」


 地上に出るとそこにレゾナンスオーブの片割れを持ったルイゼ。それにパフェ姫とラーズが待ってくれていた。

 これから俺たちはサンクランド王に接触する。

 5ヶ月後の決戦を有利に進めるためにな。

活動報告でも連絡いたしましたが、今日より3日に1回更新に変更いたします。

これから完結目指してストーリーを進めて参りますので、どうか最後までお付き合い下さいませ。



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