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20-1 afterWord 裏切り者の国ワルトワース 2/2

 困った、こんなとき俺はどんな態度を選んで、どんな返事を返せばいいのだろう。

 感謝をすれば誤解をさせるだろうか。

 だが賞賛するのも、異界の言葉で言うところの、上から目線というやつか……。


 ところが俺よりも先にフェンリエッダが動いた。

 パフェ姫の手の平を両手で握り抱いていたのだ。


「私は誤解していた。ずいぶん男の趣味が変わっているなと、ずっと勘違いしていたよ。そういうことか……、貴方のような姫君を持ってフレイニアの民は幸せだろう」

「あ……。ありがとうエッダさん、ふふふっ嬉しい……」


 やれやれ、それはいいが話の本筋はどこにいったのか。

 だがそうだな、フェンリエッダがこれに共感してもおかしくない。

 今のエッダがグフェンの計画を知っているかはわからないが、己の親が失われたダークエルフの国フィンブル王家の直系であったことくらいなら把握しているはずだ。


 もし仮にだが、グフェンが死ねば……旧王朝直系の彼女がダークエルフの旗印となる。

 その重圧を毎日抱えて暮らしていることだろう。


「フフ……趣味が悪いか。言いたい放題言われているな、アウサル殿」

「グフェン、せっかくそれてくれた矛先を、わざわざ元に戻そうとしないでくれ……」


 こうなると話を本筋に戻すのが一番だ。

 勝手だが俺がまとめてしまおう。


「話を本題に戻すぞ、つまりこういうことだな。ライトエルフという同族ではあるが、ワルトワースの王朝が味方になるとは限らない。味方に引き入れるためには、エルキア寄りのヒューマンの国オルストアとひと悶着、いや最悪は独立戦争を引き起こすことになる」


 これは難しい。

 これまではトンネルを繋ぎ、後は誠意を示すだけで良かった。


「ええ、ワルトワースは本当に何を考えているのかわからないのです……。フレイニアが攻め込まれたあの戦争でも、サンクランドを牽制するよう宗主国よりワルトワースに要請があったそうですが……。お金がないと言って、兵力の10分の1しか出さなかったそうです……」


 さすがに同族を滅ぼす手伝いをする気にはならなかったのだろうか。

 ならば最初から国交を持っておけば良かっただろうに。なるほど、わからんなこの国は。


「かといって父上らが呼びかけても一向に国交を結ぼうともしない。オルストア以外には鎖国状態で、本当に何を考えているのやら……まるで読めないのよ。キッチリしてほしいわ……」


 それでは半ば国の体裁をなしていない。

 大丈夫なのだろうか、そのワルトワースという国は。


「うむ、ありがとうパルフェヴィア姫。よってこの国をこちらに引き入れるには相応の準備と、覚悟がいる。アウサル殿が言うとおり、最悪は戦争を起こす覚悟がな」

「グフェン、うちにそんな余裕はないぞ。あと5ヶ月しかない、5ヶ月後のために今は可能な限りの軍備を整えておかなければならない。負ければ私たちには、亜種には、未来などないのだ。……この戦いは我らが生き残るための戦いだ!」


 エッダの主張は正しい。

 ワルトワースというこの国は、ひとたびカードとして引けばどんな結果が出てしまうかわからない。

 しかし見捨てるという選択をあのユランが望むだろうか。


「落ち着けエッダ。事情はどうあれアンタたちの同族のエルフだろう。彼らの立場と今後の情勢を考えれば、ここで捨ておけばいずれ根絶やしにされるのが見えている」

「ならばどうしろというのだっアウサル!」


 ……ここの女は気が強くて困る。

 フェンリエッダは俺の顔に詰め寄り、食い入るように蛇眼を睨んだ。

 もしかしたらサウスの独立を優先させたい心境もあるのかもしれん。

 彼女から逃れてグフェンに目線を向けた。


「説得のために、せめて国交だけでも結べないのか? 各個撃破されるよりマシだと、例え裏切り者だとしても考えないものだろうか」

「それは無理だ。アウサル殿が各地への暗躍を続ける中、我らもありとあらゆる方法を試みたが……彼らは接触を常に拒んでいる。せめて長老が死んでいなければ、こうはならなかったのだがな……」


 長老? 長老とはまた、場違いな言葉が飛び出してきたものだ。


「その長老というのは?」

「……ライトエルフの最長老にあった方です。ワルトワース侵攻を受けた際に、裏切り者の刃に倒れました」


 どうしたことだろうか、パフェ姫の言葉にグフェンが表情を曇らせた。

 続いて彼はエッダを盗み見て、彼にしては不釣り合いにぼんやりと見上げていた。


「俺たちは今日まで多くの仲間をここア・ジールに繋ぎ合わせてきた。……現状、他に味方に引き入れられそうな勢力はあるのか?」


 俺の言葉がグフェンを現実に引き戻した。

 悪いがアンタらしくないので、しゃんとしてほしかったんだ。昔を思い出すなら寝る前だけでいい。


「かつてユランの意志を継ぐといい、獣人の国ダ・カーハよりもさらに南方へと去っていった者たちがいたと聞く。……だがそれっきり行方知れずだ。当時あるはずのない希望を夢見た、空想に過ぎない噂話だった可能性もある」


 南方の最果てには草も木も水もないそうだ。

 ただ枯れた荒野と山岳が無秩序に続くと俺の知る本に載っていた。

 本当か嘘かは知らんが、その先には全てを食らうと言われる巨大な蛇が住み着き、近寄る者を阻むという。


「南方の幻の国と、東の目と口を塞いだ国か。……なら始まりの種族、巨人はどこに消えたのだ?」

「アウサルくん、それは子供だって知ってるわ。巨人は滅びたのよ」

「大多数が勇敢ゆえに散っていったと、昔そこのグフェンが私に語ってくれた」


 それこそ南の幻の国に対するものと変わらない。

 2人の姫君は現実的ではないと本音を口にしてくれた。


「ああ……彼らは俺たちを守るために自ら盾となった。最古の種だ、元から数も少なかったからな……。ユラン様が世界をひっくり返すその日まで、彼らは天使に狩られ続ける立場だったのだ。だからこそ、捨てられた古き種族にとってユランは英雄なのだよ」


 思うところがあるのだろう、グフェンは感慨深く過去を振り返っていた。


「可能性があるとすれば南だが……さすがのアウサル殿でも巨人を掘り当てるのは困難だろう。巨人は幻だ、探そうとしたところで見つかるものではない。……俺も、恩義があるゆえ、ここに招きたい気持ちは真実だがな……。今も世界のどこかで、強く生き延びてくれているならば……それだけで……」


 こうなると最初に選ばれた選択肢以外になかった。

 確かに俺も、どこにいるかもわからないやつの足取りは追えない。


「わかった。ならば東のワルトワースへのトンネルを造ろう。状況によっては民に国土を捨ててもらい、こちらやフレイニアに移民してもらえばいい。まずは道を造り、接触を試みて、それから先はその後に考えよう」


 考えようによってはこれでいい。

 ア・ジールには土地が余っている。さらに5ヶ月後には地上を取り戻す計画だ。

 移民は俺たちの兵力を増やしてくれるだろう。

 ア・ジールに来た者はア・ジールという最後の楽園を守ろうとする。


「いいだろう……。あちら側が本当にどうにもならないようなら、独裁にあえぐ同族たちをこの地に導き、我らの戦力となってもらおう。アウサル殿、今回ばかりは希望を持つな、アウサル殿のトンネルで、ワルトワースから国民を、ア・ジールが吸い取るための計画だと思え」

「そうだな。アウサル、私たちでワルトワース独裁政府を出し抜こう。私は接触する必要なんてないと思う、恐怖政治を行うようなやつを味方になんかしたくないからだ」


 パフェ姫もエッダに近い意見なのか彼女の隣でひかえめにうなづいた。

 戦線を拡大させるくらいなら、エッダの案も無難だろう。ワルトワースは裏切り者が治める国なのだから。

 1度裏切ったやつは2度裏切る、異界の本にもそう書かれている。


「とにかく道を造るということで決まりだな」

「よろしくお願いします、アウサルくん。フレイニアにもあの国から逃げ出してきた人が結構多いのよ。お願い、ワルトワースの民を助けてあげて」


 話はついた、グフェンがイスの背もたれに背中を預けた。

 しかし何かを思い出してかまた前のめりになる。


「そうだった、地上サウスの情勢を君に伝えておこう」

「……何かあったのか?」


「今地上ではな、スコルピオ侯爵とエルキア軍のにらみ合いが続いている。どうやら北西部のローズベル要塞の所有権でもめているようだ」

「あの最悪の大釜があった要塞か。……あそこが落ちればサウスはエルキアの大軍に飲み込まれるだけだ、やつが応じるはずがないな」


 5ヶ月後の同時決起より一足先に、地上では縄張り争いが始まっているそうだ。

 ただの連絡事項だったのだろう、伝え追えるとグフェンはあくびを上げて背もたれに戻った。ああ、もう眠いのか。


「日が落ちたな……。今日のところはこれでしまいにしよう。エッダ、食事を頼む。アウサル殿も食べていくか?」

「ダメだ、そんなことをしたら私はフィンに恨まれる、よってそれは絶対に出来かねるぞ。さっさと帰れアウサル」

「ならうちが代わりにご一緒します。アウサルくん……」


 話も終わったというのに何の意図か、パフェ姫がわざわざ俺の目の前に立った。

 両手を腹の下で組み、キッチリと背を伸ばして俺をまっすぐに見つめて。


「うちはニル・フレイニアの代表、ワルトワース遠征にはぜひうちをお連れ下さい」

「何だそんなことか。……ラジールではダメか?」


「あの人に交渉ごとが勤まると本気でお思いですか?」

「エルフィンシルではヤツなりにがんばってくれたぞ。だが……本音を言えば不安だな。正義漢ゆえにもめ事を起こしそうだ。それが恐怖政治の独裁政権下となると――ああ、連れていくことになると想像するだけで頭が痛くなるな」


 ラジールはダメだな、あまりにあの女は剛毅過ぎる。

 金庫破りのためにサウスに2人で上がったときも、エルフィンシル遠征のときもそうだった。


 特に断崖絶壁を上りながら歌うなどというあの所行を、俺はもう2度と忘れないだろう。

 今回の計画には絶対に連れて行ってはいけない女だ……。


「おわかりになられたみたいですね。そういうことです、だからどうぞうちをお連れ下さい。荒事の才能はありませんが、交渉ごとには慣れておりますのでやり切って見せます。……うちのかわいいバロアのためにです」


 連れて行くしかないか、ニル・フレイニアのパルフェヴィア姫を。

 裏切り者の国ワルトワースに。


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