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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
地上を捨てた敗北者たちの隠れ里 自らを閉ざした国・スィールオーブの有角種たち
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19-08 スコップを背負いしオルフェウス、地獄門を下りてアビスの悪夢と出会う 1/2

 小鳥の導く真っ暗な道を抜けるとそこがアビスだった。

 すぐに退路である背後を確認する。

 そこにはぼんやりと光輝く扉があり、けれど実体が無いのか半分ほど透けていた。


 続いてコンパスを取り出してみた。ところ方位がまるで定まらない。

 邪悪な意思が針をもてあそぶように狂いに狂わせていた。

 使い物にならないものを持っていても邪魔なだけだ、光る門に向かってコンパスを投げると輝きと共に向こう側に消えた。帰り道は確保されている、よし、としよう。


「ここがアビスか……方位磁針を狂わせるとはいよいよ異世界じみてきたな」


 さて景観の方だが、ごく最近見たことのある光景だ。

 壁という壁が全て魔石で出来た洞窟が地下へと深く深く続いていた。

 いやあの時はカンテラを灯していたが今はそうではない。壁の魔石そのものが青白い光で道を照らしているのだ。


「まさか最果ての地で地獄を下ることになろうとはな……。ユランとの旅路はつくづく過激で驚きに満ちている」


 迷っている時間などない、俺はアビスの底へと下ることにした。

 景観そのものはカスケードケイブで1度見ているのだ、スコップを背負い、警戒しつつも己のペースで道を進んでゆく。


 ……あの有角種のゼルが羨むのももっともだと思った。

 普通ならば居るだけで狂うらしいが、アビスの影響らしい影響を俺が感じることはない。

 ザラザラとした嫌な感覚こそしたがそこまでだった。



 ・



 じっくりと時間をかけて果てしなき下り坂を進んでいく。

 地獄やあの世巡りにまつわる伝説は多い。異界の書物でもまたそれは同じだ。


 人は怖れながらそれに興味を絶やすことはない。

 亡き妻を取り戻すため、あるいは悪神をほふるため、物語の主役たちはあの世を下る。

 今回アウサルへと与えられたミッション、堕ちた至宝探しもまた珍しいストーリーラインではなかった。


「む、これは……」


 どれほど階段無き下り坂を進んだだろうか。

 いやそこで俺はふとしたアビスの変化に気づいた。

 青白く光放つ魔石が、例えるならば融けだし始めていた。

 つるつるとした滑らかな質感となって足下を不安定にして、磨かれたように艶のあるガラス質の輝きとなっていたのだ。


 さらに進むと原因の正体がわかった。

 この魔石は俺が地上にて焼き払った魔石とは別質の物だ。

 広い空洞と灼熱の溶岩地帯が現れて、熱に溶け切らぬ魔石が道を作っていた。


「ここを進むのか……。むぅ、大丈夫なのか……?」


 まさか次は氷河地獄でも現れたりするのだろうか。

 マグマの世界は当然ながら蒸し風呂のように暑い。

 落ちたら火傷どころか足ごと燃えて炭化してしまうことだろう。


 さらにその足場は、例えるならば流氷のようなものだ。

 冷たい地表部分が岩となって流れているだけで、もしかしたら薄氷を踏んでドボン、という可能性もある。


 わかってはいたが安請け合いだったかもしれん。

 これはもう少し条件を盛っておくべきだったか……。


 とはいえここで引き返すわけにはいかない。岩という名の流氷を踏み、マグマの海を上を進む。

 幸いこちらにはスコップがある。岩盤の厚みを調べるくらいならば一突きだ。

 この空洞の壁に穴を開けてそこを進もうかとも思ったが、もしマグマやガスの脈を掘り当てれば、死ぬ。確実に。よってそれは止めておいた。



 ・



 溶岩地帯を抜けると風景が元へと戻っていった。

 滑らかな魔石からゴツゴツとした粗いものへと変移したことから、あの場所だけが熱を放っていたのだと想像できた。

 しかしだ、その次の層がまずかった。気分の上では燃える魔石の世界の方が遙かにマシなほどに。


「まさに、地獄だな……」


 別の意味で魔石が溶け始めたのだ。

 石が内臓のような肉へと変わり、気づけば肉の壁が世界となっていた。

 壁そのものが醜く脈打ち、血管を青筋立たせ、得体の知れない分泌液を滴らせる。


 それでも俺は先へと進んだ。

 歩きにくくてたまらなかったが他にこれといった害は無く、いや生物らしい悪臭こそしたがこの程度で諦めるわけにいかなかった。


 だが不気味さの上での悪化が待っていた。

 肉壁地獄の奥へとわけ入ると、その肉の壁に、苦悶する人の顔が無数に浮かびだしたのだから。


「サマエル……殺す……」

「サマエル……許せない……」

「サマエル……悪の創造主……」

「サマエル……よくもこの俺を……」

「ヒューマン……ヒューマンは、皆殺しに……してやる……」


 エルフ、有角種、獣人、巨人、竜人、そしてヒューマンにしか見えないものたちまで顔は多種多様だった。

 ヒューマンは彼らの呪詛を受けながらこの先も生きなければならない。


 これはサマエルの残した莫大なツケだ。

 今となってはサマエルの寵愛がありがた迷惑な呪いと化していた。

 この呪いと憎悪を消すために、亜種を皆殺しにしようとでもエルキア王国は考えたのだろうか……。


「玉座を……玉座を……」

「裏切り者から……玉座を……」


 やかましい。黙らせてやりたいが争いになっては目的を達することが出来ない。

 果て無きその呪詛を無視してアビスを歩いた。

 アウサルのスコップには弱点がある。当然だが肉は掘れんのだ。よって足早にその層を抜ける必要があった。


「うんざりだ……。そうか、これが壊れたテープレコーダーというやつか……意味はわからんが、かなり妥当な意味なのだろう」


 スケルトンなどなどのアビスの怪物どもと遭遇していないだけ俺はついている。

 場合によっては即退却戦だ。この先も気をつけて進もう。


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