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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
地上を捨てた敗北者たちの隠れ里 自らを閉ざした国・スィールオーブの有角種たち
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19-05 地上を追われた者たちの国スィールオーブ

 翌日の朝遅く、俺たちはあの張りぼての巨門の前へと案内された。

 行き先のない空虚なる門、いかにもなケレン味だ。

 話によるとこの門の向こう側に封印の国スィールオーブが隠されているらしい。


 地上より姿を消した巨人の次に作られた古い種族、かつて獣人を支配し、我こそ神と思い上がった者たち、それが有角種だ。

 よって彼らの技術力が俺たちの理解と常識を越えていたのも、当然といえば当然のことだった。


「では、いってらっしゃいませゼファー様。アウサル、ラーズ、あまり歓迎出来なくてすまなかった。どうかゼファー様を支えてやってくれ」

「大丈夫だ、必ず成功させてくる。アンタは悲観的に考えているようだが、勝算はいくらでもある」

「お世話になりました、突然押し掛けて申し訳ありません。え、うわぁぁ……」


 恐らくだが向こう側からしかこの扉は開かないのだろう。

 その巨門が低い音を立ててきしみだし、やがてそのかなたに妙な空間が現れていた。真っ白な光で全てが塗りつぶされていたのだ。


「この先でござる、いくでござるよラーズ。アウサル殿、しかしやつらは度を越した域の頑固者どもゆえ、油断せずにお願いいたす」

「わかった。ではエルガド、また会おう」


 門は完全には開かれていない、人1人分の隙間だけ作って止まっていた。

 そこで俺たちはゼファーを先頭に1列になって門をくぐり抜けた。


「面妖でござろう? されどこれだけの力を持ちながら戦わぬ。なんて愚かな種でござろうか、なんて情けない……」

「というより入って平気なんですよねこの場所……っ!?」


 ラーズが不安がるのももっともだ。

 門の中には光以外の何もかもが無かったのだ。さらには背後の門がカタカタと音を立てて閉じゆく。これもなおかつ心臓に悪い。


「ラーズ、落ち着くでござる。してあれが使いでござる、さあついて行くでござるよ」

「あの黒いのか。さすがに故郷だけあってアンタは慣れているな」


 真っ白い世界に黒くかすむ鳥が現れた。

 それが道案内役だそうだ、翼を羽ばたかせて俺たちを導く。


「ここを行き来していたのは拙者と、黒角の民の一部くらいなものでござるがな。さて、そろそろでござる。……少し驚くと思うでござるが危険はないござる」

「驚くって具体的に何が……わっっ!?」


 ラーズはまだ若いせいか小さなことで驚く。

 そこさえどうにかなれば頼りがいや男らしさも増すのだが、いや実は俺も驚いた。

 なにせ進んでゆくと世界が暗転したのだ。きっとそのせいでラーズは先頭のゼファーにぶつかってしまったのだろう。


「そろそろにござる」


 それはまるで、舞台の準備が整ったと言わんばかりの出来事だった。

 真っ暗闇に染まった世界があるべき本当の姿を現したのだ。

 それが地上を捨てた有角種の国、結界の国スィールオーブだ。


「すごい……。なんて、綺麗な……」

「ああ、だが――なるほどな」


 それは双子の丘を持つ緑豊かな国だった。

 何もかもが明るく美しい。妖精の国、天上の世界、全てが清められた空間がそこにある。

 それと遠方にばかり目を奪われていたが、俺たちはストーンヘンジの真ん中にいて、ここが3つ目の小さな丘に当たると気づいた。


「っ……」


 それは感慨だろうか、ゼファーが短く鼻をすすった。

 久々の帰郷が彼女の揺るぎない心を動かしたのだろう。


「少しア・ジールに似ていますね……」

「ああ、そして狭い」


 ラーズの感想に半分だけ同意する。

 黒角の民の里と同じだ。

 限られた狭い世界の四方を白く果てしなく高い壁が取り囲んでいる。


 それと度を過ぎたほどに空気が清らかに澄んでいた。

 有角種が生きるためにはこの環境が必要なのだろう。

 どちらにしろ通常の空間とはとても言い難い不思議な場所だった。


「美しいでござろう……。この景観だけは拙者も、胸を張って自慢、出来るでござる……」

「ゼファーさん……」


 いうなれば作られた箱庭、それが俺のスィールオーブの第一印象だ。

 建築もまた外では見られない特殊な物、しかし俺は異界の書物の挿し絵にてこれを見たことがある。

 東洋風と呼ばれる表現だったはずだ。そこにはワビとサビという概念があるらしい。


「迎えが来たでござる。腹立たしいが作法を守ってやろう」

「あ、そうでしたね。ああ、やっぱり緊張してきますよ……」

「大丈夫だラーズ、向こうも強いていることくらい心得ているだろう」


 ゼファーをお手本に膝を突いてこうべをたれた。

 まるで貴人を持ち上げるためにへりくだるような様式だが、慣習に深くは求めまい。

 少し待つと気配を潜めた静かな足音がいくつもやってきた。すぐにそれらが俺たちを取り囲んだ。


「……!」


 どうもこちらの姿に驚いている。

 まあ取り合わせを考えれば無理もないかもしれん。

 しかし気になる……。

 好奇心に負けて目を擦るふりをして盗み見れば、真っ白な装束に顔も口も肌をも隠し、同様に白い角だけをひたいから露出させた集団がいた。


「外界より来たりし、毒に汚れた者たちよ、スィールオーブの――」


 それは儀式だ。

 長ったらしく彼らはまじない言葉をいつまでも続けた。

 それとキラキラと輝く不思議な砂が俺たちに振りかけられた。

 まじないは終わらない。終わったかと思えば新しい儀式がまた始まるのだから果てが見えなかった。


「終わりました。では次に――」


 食事1回くらいなら取れてしまえるほどの時が浪費された。

 もううんざりだ、膝が痛い、やっと終わってくれた……。


「来訪者よ、約束ごとを語られよ」

「……やれやれでござる。拙者はここ、スィールオーブの者。ゼルとの決着をつけに帰ってきた」


 確か大まかにぼかした用件と出身地を伝えるのだったか。

 ゼファーがお手本を聞かせてくれたので、ラーズに横目で合図して俺がそれに続く。


「俺は……白き死の荒野の者。とある重大極まりない報があり、ここにやって来た」

「出身は封印の国エルフィンシル。護衛として同伴しています」


 何とも変わった風習だ。

 実際にやってみると格好は立つようだが、行き来するたびにこれを繰り返していたらいつか腰と膝をやりそうだ。


「ゼルがお待ちしております。どうぞこうべを上げて、あちらの籠車へとお乗り下さい」


 白い角のある白装束たちは何と20名近くもいた。

 ここで私語をして追い出されてはたまらない、俺たちは素直に籠車に乗る。

 様式にうるさいという話だったが、さすがにやり過ぎだろうこれは……。



 ・



「どうぞ、外へ……」


 しばらくを車に揺すられると急に下ろされることになった。

 薄々そんな気はしていたが籠車を出るともう屋敷の中だ。


「ここは歓待の間。じきにゼルが参ります、それまではそこに膝を突き、こうべをたれてお待ち下さい」

「これのどこが歓待でござるか……」


「ゼファー。客人の前で私語はお止め下さい、一族の恥です」

「ッ……言わせておけばどこまで、おぬしらは……ッ」


 価値観の違い。そこはこの魔法の言葉で片付けよう。

 我先に木目張りの床へと膝を突き、頭を下げた。ラーズも俺に合わせてくれた。


「来ますよゼファー」

「わかっておる……っ」


 結局ゼファーもそれに従った。

 奥の扉が音を立て、俺たちの前に何者かが足音を立ててやってきた。

 静かで落ち着きのある足取りだった。


「よくぞ参られた地上から来た客人たちよ、ワシがここの指導者、ゼルだ。クヒヒ……、外からの客というから誰かと思えば、そなたが導いたか、ゼファーよ」


 ゼファーは返事を返さない。

 そういう様式だそうだ。文句を返したそうにいきどおっていたが我慢してくれていた。


「おお忘れておった、両名こうべを上げよ。ああ、ゼファーの方もな」


 やっとか……。

 俺は素直に顔を上げてゼルとやらの姿を見てやった。


「な……っ」

「ぇ……」


 だがそこに現れた姿に俺とラーズは目を見開く。バカな……。

 まさか俺たちは謀られて……いや違う……。


「クヒヒヒヒヒ……驚くのも無理もない。客人よ、隣を見ろ、ワシはゼファーではないぞ。ワシこそこのスィールオーブの指導者ゼル、有角種を束ねるものじゃ」


 ゼファーと全く同じ顔がそこにあったのだ。

 ただし角だけは白い。隣を振り返れば本物のゼファーがいる。

 銀の角をした女が立ち上がって同じ顔の女を執念と怒りで睨んでいた。


「久しぶりでござるなゼル、約束通り拙者は帰ってきたぞ……」

「クヒヒ……そう睨むな放蕩娘め」


「やかましいでござるっ、現実の見えなくなった女狐め!!」

「おお怖、そちは変わらず感情的だな」


 色々と聞きたいことがあったが、取り急ぎゼファーの前を腕で遮ってやり取りを止めた。


「落ち着いてくれゼファー、アンタらしくもない。そもそも俺たちは宣戦布告をしに来たんじゃない、話を付けに来たんだろう」

「そうですよゼファーさん、事情はわかりませんが今は……」


 銀角の女は視線を白角のゼルから離さない。

 ようやく溜めにため込んだものを吐き出せるのだ、わからんでもないが交渉に喧嘩腰は必要ない。


「無理もない。そこの娘はなぁ、ワシらとはまるで意見も考え方も合わぬ。そうしていつしか軋轢が亀裂となり、ワシらとは決裂してここを飛び出していきおった。……これを放蕩娘と言わずして何と言う」

「黙れでござるッッ! こんな場所にいつまでも閉じこもって何になるでござるかッッ!! あえて譲歩したところで、彼らの戦いに援助もせず無関心を貫くなど……っ、絶対に許されんでござる!!」


 ゼルは糾弾に心一つ動かさずゼファーを見守った。

 温厚で想定より寛容ではあるがこれは手強い。


「戻って来るなりまたその話か、ゼファーよ。ならば当時と同じ言葉を返そう。もやはワシらの居場所は地上には無い。有角種という種を守る以外に出来ることなどないのだ」

「いいやそれは諦め以外の何物でもござらん!!」


 ここまでは吐き出さなければならない意見の食い違い、と解釈しよう。

 だがこのままではまとまらん。


 事情はわからないが2人はずいぶんと近しい関係のようだ。

 まさか親子なのかと疑うが、いやそれにしては似すぎている。同一人物を疑うほどに。


 ところでラーズはどうしているだろう。

 ふと様子をうかがってみたが、この話に割って入る勇気はないようだ。

 弟子候補であり、同時に憎きヒューマンである彼の立場を考えればそうだろう。まあ俺もヒューマンだが。誰が何と言おうとな。


「こちらはラーズ、我らの味方エルフィンシルの勇者だ。俺の名はアウサル」

「知っている」


 そこで自己紹介を強い口調で阻まれた。


「呪われた地でただ1人生きられる怪物、アウサル……」


告知いたしました通り、本日より隔日投稿化いたします。

よって次の投稿日は22日、その次が24日といった形になります。

今後とも長く続けてまいりますので、どうか応援よろしくお願いいたします。

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