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スコップ一つで作る反逆の地下帝国【完結】  作者: ふつうのにーちゃん@コミック・ポーション工場発売中
地上を捨てた敗北者たちの隠れ里 自らを閉ざした国・スィールオーブの有角種たち
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19-03 最果ての砂塵に潜む黒い影

 翌日朝早く、アザトの帰国を待たずして地上に上った。

 交渉に失敗すれば最悪は現地への滞在すら出来ない。よって朝方のうちに出発する必要があった。


「ここが最果ての世界……。なんて……」


 ラーズが唖然と辺りを見回していた。

 呪われた地に少しだけ似ている。

 そこは植物すらまともに生きられない荒野だった。

 どこにも水気がなく全てが乾いていて、四方八方から風が無秩序に吹きすさぶ世界だ。


「なんて寂しい土地なんだ……」


 光の遠い灰色の空、それら以外には何もない。

 例えるならばまるで終わってしまった世界のような、ラーズが言うとおりあまりに寂しい土地だった。


「だが最果てにふさわしい情景とも言える。何かが存在すればそこは最果てとならんからな」


 そんな荒涼とした世界に1カ所だけ場違いに晴れて、光が差し込んでいる場所が遙か彼方にあった。

 そこだけ光そのものを歪ませて、水槽のように風景がずれていたのだ。そこに万緑というゆいいつの色があった。


「ついてくるでござるよ。されど喋るときはあまり大きな声は出さずに、お互い近づいての静かなやり取りをおすすめいたす。何せここは最果て、アビスの怪物がばっこすることもざらゆえ。……種類は日替わりでござるがな」


 有角種はこんな最果ての土地にまで逃げてなお、地上に残ることが出来なかったのか。

 結界の中に逃げ込んだ臆病者の種。これまでのイメージとは印象が変わっていた。


「ところで異界にこんな言葉がある。地動説」

「なんでござるか、それは……?」

「ち、ちどう……?」


 それとぼんやりとした別の疑問を覚えた。


「不思議な話なのだがな、俺が好きな本たちが書かれた世界は、なんと球体なのだそうだ。その丸い世界が、太陽の周りをグルグルと周回しているという考え、これが地動説だ」

「む、難しいですね……」


 それはそうだろう。

 地表に住む俺たちが実際の世界の形を認識出来るわけがない。その必要もなかった。


「つまりどういうことでござるか? ……この世界は球体ではない、と言いたいのでござろうか」

「ああ、そうなってしまうな。しかしそれは妙なことだ。球体の世界には果てが存在しない、だが俺たちの世界にはここ、最果てが存在する。そして西方のこちら側はアビスと繋がっていてその先は魔界になっているという」


 誰も行ったことがないのでわからない話だ。

 しかし異界式の価値観に染まった俺からすると、これは妙な話なのだ。


「作りとして限りなく不可解で、不安定だとは思わんか? 世界が世界としてあり続けるには安定した構造が必要だ。最果てなんてものが、存在すること自体がおかしい」

「う、うぅ……? すみません、俺にはわからないです……」

「うーむ……難しいでござるな……。しかしアウサル殿のその身体ならば、アビスの果てまでその身でいけそうでござる。だからいつか平和になったら、自分の目で確かめてみるでござるよ。地表ルートはとてもオススメしかねるでござるがな」


 ならば今回はその予行演習というわけか。

 それも悪くない。全てが終わったそのときは、俺も白き死の荒野のアウサルに戻るだろう。

 最果てのそのまた果てに何があるのか、確かめるのも発掘家らしくていいだろう。

 だがこんな時にしなくてもいい会話だ。俺たちは私語を止めて最果ての乾いた荒野を進んでいった。


「待って下さい、何かが……」

「良い勘でござる、止まるといいござるよアウサル殿」


 しばらくは順調だった。

 しかしここにきて立ちこめ始めた砂塵の中に、俺たちは無数の影を見つけることになった。

 退路の後方を確認すれば困った、どうもこれが囲まれている。


「アビスの怪物のおでましでござる。ラーズ、稽古を付けてやった分だけしっかり働くでござるよ。アウサル殿のカバーは任せるゆえ」

「あっ……。はいっお任せ下さいっ!」


 素早い、ゼファーが正面側の砂塵の中に突撃していった。

 それがきっかけだ、俺たちを取り囲んだアビスの影たちが動き出す。

 すぐにゼファーの剣舞による断末魔が果ての地に響きだした。


「あの脱獄劇を思い出すな……。ラーズ、悪いがアレは苦手だ、あっちの足止めを頼む」

「アレって、えっまさかっトロルタイプの方ですか?! わ、わかりましたっ、が……がんばりますっ!」


 一方後方より俺たちに迫って来たのはスケルトンソードマン5体と、ラーズの身長の倍はあろう大型のトロルが1体だ。

 エルフィンシルの調停神ハルモニアは言った。

 ラーズはザ・ヒーロー、存在する役割を果たすまで絶対に死なないと。

 よってこれが適材適所だ。俺はスコップを身構えて、スケルトンどもを相手に立ち回った。


「悪いが骨はさすがに慣れてきた、負ける気がせん」


 金属や骨に対しては絶対無敗の斬鉄剣――もとい斬鉄スコップだ。

 骨と鎧を断って不死の生命体を行動不能にしてゆく。

 幸いゼファーが大半を引きつけてくれているのか、こちらの数は今のところそう多くない。


 よってさっさと片付けてあちらの援護に回ろう。

 俺はガード不能の攻撃で骨どものパーツを1つ1つ切断していった。


「はぁっはぁっ……力は強いけど、動きはそれほど……わっ?!」


 ラーズが気になって様子を見た。

 危なっかしくもトロルの巨体に剣を当てつつ、巨体任せのハンマー攻撃を避け続けている。

 引きつけ役としては十分だ。敵の傷はトロル固有の超回復能力により癒えてゆくが、ラーズには安定感があった。これはそうそう崩れない、ザ・ヒーロー・ラーズは成長していた。


「待たせたなラーズ、こっちは片付いた」

「えっ、もう終わったんですかっ?!」


 スケルトン5体全てを行動不能にした。

 不死ゆえに首と肢体を入念にはねる必要がありこれにはやや手間取った。


「俺からすればあの手合いはカモだ。向こうも己の防御力を過信している、そこをただ突いただけだ。だがコイツは苦手だ」


 俺が出来ることといえばこの程度だろうか。

 トロルの持つ金属製の両手ハンマーに目を付けた。あれならば壊せる。


「苦手だが……」


 ラーズの前に出て褐色の巨人を挑発する。

 あっさりとヤツはそれに引っかかり、得物を斜め振りしてきた。

 そいつを身を落として避けながらスコップの切っ先を残して柄を両断した。

 重いハンマーの先が大地へとドスンと落ちて地響きを生む。


 あとは仕上げだ。マテリアルを消耗させるが回復不能なところまで焼き払おう。

 袋よりフレアマテリアルを取り出し、スコップへとそれを装着する。


「隙あり! たぁっっ!!」


 いや焼き払おうとしたところでラーズが突撃した。

 トロルの腕をかいくぐってその心臓を剣で貫き、さらには脚部の動脈を狙って斬り付けた。

 さすがのトロルも心臓と脈を斬られてはたまらない、回復力が追いつかず地に膝と突き、立ち上がれなくなった。


「ラーズッ、見事にござるッ! 成敗ッッ!!」


 そして美味しいところを全て持っていかれた。

 そこにもうゼファーが戻ってきたのだ。

 銀角は得意の素早い身のこなしでアビスの鬼へと肉薄し、首筋を深く斬りつけて背後へと抜けた。

 血しぶきと共に鬼の巨体が乾いた荒野へと崩れていった。


「出る幕がないな……まあそれでいいのだが」

「これであらかたが戦闘不能になったでござる、ではさっさと進軍といたそう。ご丁寧にトドメを刺して回っていたら新手が現れてしまうでござるよ」


 刀を鞘へと戻して剣豪ゼファーが凛と言い切る。

 返り血に肌を汚していたがどこも無傷だ。銀の角を含めて見ると神々しさすら感じさせた。強い、それに美しい。


「そうしよう。よくやったラーズ、期待以上の頼もしさだった」

「いえっ、俺、もっともっと精進します! いつか1人でアレを倒せるくらいに!」


 しかしたった1人で旅行するにはあまりに危険過ぎる土地だ。

 今回ばかりは単独行動を選ばなくて正解だった。

 成長を続けるエルフィンシルのラーズと、いつだって頼もしい銀角のゼファーと共に俺は最果ての彼方を目指した。


 万緑輝く不思議の里が近づいてきている。

 黒い角の有角種が住むという、結界の国スィールオーブの入り口が。


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