19-02 カスケードケイブ滞在記 スコップ1つで進める追加ルート 1/2
カスケードケイブ、リザードマンの里に戻った。
旅路にして3日の距離だ。道中のよもやま話のネタも尽きていたので、こちらに着いた際の解放感には格別なものがあった。
そこは俺たちの常識から外れた怪しい世界でこそあったが、一概に醜いとは言い難い神秘的な土地だったからだ。
「では2日後にまた会おう。これはニブルヘル砦近郊で確保した魔石だ、リザードマンたちとの取引や交流に使ってくれ。彼らにこちら側の金を払ったところで、価値も使い道もないからな」
「これはかたじけない。拙者も商人の端くれとして色々と用意してきたでござるが、よもや魔石を食うとはつくづく妙な性質をしてるでござるな」
どうやら余計なお世話だったようだ。
商人らしくゼファーは大きなリュックを背負い、素朴な文化でも好評を得られそうな品々を持参していた。
エルフィンシルのラーズはその一部を背負わされている。
「ラーズ、ゼファーの補佐を頼む。彼女から学べるものは剣術だけではない。……それと悪いがヒューマンの代表としてリザードマンとの交流も頼む。俺はどうも竜人アザトの同類と認定されてるようでな……まったく、わからんやつらだ……」
「ヒューマンの代表っ、そ、それは責任重大ですね……はい、俺がんばります! ゼファーさん、何でも俺に命じて下さい! 絶対諦めませんからね、俺!」
ゼファーはヒューマンに稽古を付ける気はないとゴネている。
本心ではないと俺は見ているが、少年ラーズはラーズで貪欲だった。
歪み無いその性質がゼファーの好みであろうことは明白だ。
「ではな」
「アウサル殿、前にも言ったでござるが1人がそんなにがんばらなくても良いのでござる。言っても無駄なのはわかっているでござるが、あまり無理はされぬよう」
「わかっている」
「絶対わかってないでござるよ。どいつもこいつも人の話を聞かない男ばかりで、ほとほと困るでござる……」
緑髪の少年ラーズと銀角のゼファーと別れた。
これからの段取りはもう決まっている、まず2日間だけ西へと穴を掘るのだ。
これにはアザトのアドバイスもある。
ここカスケードケイブは深く険しい大渓谷に位置する。
その地から陸路で地上を目指すのは、苦難がともなう大冒険となるそうだ。
渓谷からどうにかはい上がったところで、魔物が当たり前に徘徊する最果ての世界を歩くことになる。
この手順で有角種の元を目指すのは確実ではない。
よって谷底から西側の地上までをショートカットする突破口、新しい地下トンネルを作ることになった。
その間、ラーズはゼファーを支援して交易品となり得る品々を、カスケードケイブの谷底で探し回るのだ。
「さて、やるか」
その成果を拝めるのは2日後だ。
新しいトンネルの起点に目星を付け、モグラのアウサルは黙々と横穴を掘る作業に入った。
微調整は後ですればいい。とにかく西へ、西へ、最果てのさらなる果てへとスコップを振るう。
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「ゼファ、呼ンデル、アウサル、来ル。オマエ、スゴイ……俺、感動、感動シタ、深スギル、ココ」
「これの他に芸がないがな。来てくれて助かった、だが少し待ってくれ」
2日が経つと使いのリザードマンが俺を呼びに来た。
そこで俺はトンネルを地上へと繋げ、出口をしっかりと隠蔽してカスケードケイブに急ぎ戻った。
何せ掘りすぎても仇となる、適度に手を抜いたのもあってかどうにか深夜遅くには戻れた。
「ずいぶん取りそろえたものだな……。2人とも遅れてすまん、時間の感覚が狂っていたようだ。まさかもうこんな夜中になっているとはな」
当面の住居としてアザトが己の縄張りを使えと貸してくれた。
そのアザトらもちょうど明日、俺たちと入れ替わりで戻ってくることになっている。
「かまわないでござる、拙者らも調査に夢中になっていたゆえ」
「お疲れさまですアウサル様、ここは時間の感覚が狂いますからね。ですが貴重な2日間でした」
やはり家、とは呼びがたい。これは縄張りだ。
大空洞の一角にある大きな洞穴の中だ。
そこにあの緑に光るコケが照明として台座に掲げられている。
アザトは妻レナのために、可能な限り文化的で快適な環境を整えたかったのだろう。
布で作られたやわらかなベッドに、木で出来た手作りの机、テーブル、小物や織物が散りばめられていた。
「見ての通りなかなかの豊作だったでござる。……本音を言うと大したものはないかもしれないと侮っていた部分もあるでござる」
「わからんでもない、ここは何もかもが異質だからな。使える物と使えない物の見分けがつかん」
そこに2日がけでゼファーとラーズがかき集めた交易品候補が並んでいる。
見たこともない植物たちに宝石類、何か得体の知れない骨に、光るコケ、真っ青な藍色の石、ただの枯れ木にしか見えないものなどなどだ。
「こちらの青い石は砕くと染料になる可能性があるそうです。俺たちの世界からすれば確かに珍しい色ですよね」
「青色の染料か。織物から芸術、陶器まで用途が多そうだな。好事家どもは珍しい色や模様を好む、悪くない」
触れてみると指に鮮やかな青色がこびり付いた。
澄むような綺麗な色合いだ。
「産出量も期待出来そうでござるよ。一面真っ青な岩山を見つけたでござる、あれならいくらでも採掘出来るに違いないでござる」
「不思議な土地です。エルフィンシルの山奥で生きてきた俺からすると、こんな世界があったなんて全く知らなくて……。それにもし、アウサル様があそこに来なかったら、俺はあそこで……いつかは……」
ラーズの生まれは過酷だ。
戦うことを運命付けられ、いつかは若くして封印の塔で命を落とすことになっていたことだろう。
彼はその宿命から逃げ出すこともできない。
あの地で生まれた戦士たちの大半は、己の命を代価にしてアビスの侵食を封じているのだ。
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150話目をもって2日に1回の投稿ペースに変更いたします。
最新話を楽しみにして下さっている皆さん申し訳ありません。ひとえに品質と作者の体力のために投稿ペースを落とさせて下さい。