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18-03 狂気の谷カスケードケイブ、スコップ1つで始める原因究明

 リザードマンの巣穴から大渓谷カスケードケイブの底に出た。

 黒き竜人アザトの後ろについて道を進み、この世のものとは思えぬ景観を存分に味わうことになった。


 アザトはあれ以上詳しい己の素性を語らなかった。

 アビスから来たと言ったがそれはおかしい。

 アビスは牢獄だ。どうやってそこから脱出してきたというのだろう。


「少し休むか?」

「いや気にしないでくれ、さっさと役目を済ませてしまおう」


 しばらくして目的地とおぼしき地域に到着した。

 ここは空の霧が深いのかまともに光が射し込まない。

 そんな薄暗い世界に、菌類とシダ科ばかり群生しているのだから魔境も魔境だ。


 ぼんやりと光るキノコやコケ、得体の知れない虫やハ虫類が生息している。

 人が近付けない、住めないからこそ最果て。それに尽きる未知も未知の世界がそこにあった。


「ここらはアビスの台所と呼ばれている。ここに生じる魔石を飯にして自分たちは生きている」

「そうか。俺の知っている世界とは何もかもが違うな、これは凄い」


 こんな場所、誰も征服したいだなんて思わない。

 有角種はこの大渓谷の西側にいるそうだが、ヒューマンから逃れるという面ではこの上ない立地だ。


「子らもこの辺りまでなら来れるのだが、風向きが変わるとアビスの狂気にやられる危険がある。生存者の中には、仲間同士で殺し合い、己1人だけ戻ってきたような哀れな子もいる……」

「原因に目星はついているのか? 実は、封印の国エルフィンシルという土地に以前行ったことがある。そこにある封印の巨塔にて、魔貴族と呼ばれる怪物と戦った」


 こちらの言葉にアザトは驚いた。

 アビスから来たというのが本当ならあちら側に少なからぬ興味があるだろう。


「魔貴族だと……そいつは名を名乗ったか?」

「黒伯爵ヴェルゼギルと」


 返答がアザトを黙り込ませた。

 アビスから来たというのはきっと本当だ、ヤツの名前にまたさらに大きく驚いていた。


「それは、確か……馬の下半身を持った、黒くて醜悪で、傲慢な男ではなかったか……?」

「ああ、知っていたか。だてにアビス生まれではないな」


「あちらに居た頃の記憶はおぼろげなものだ。しかし黒伯爵には覚えがある……。あれと戦って生き残るとは、なんとも信じがたい……」

「俺も同感だ、あれは化け物だった、2度ともう会いたくない」


 ラジールめ、よくもまああんなものと平気で張り合ってくれたものだ。

 ヤツの強さは規格外過ぎる、天才では理屈が片付かない、何でもいいから強さの理由が欲しいくらいだ。


「4人がかりでどうにか倒すことが出来たが、俺はさほど武勇に富んでるわけではないのだ。……ああそれで本題に戻す、あの手の怪物が現れたら、俺はまず勝てんと断っておくぞ」

「それはありえん。その封印の塔という特殊な場ならともかくだ、魔貴族どもが地上に上がって来れるはずがない。……俺はアビスでは下等な亜種だった。だから地上にはい上がれたのだ」


 ならばマシな状況だと思おう。

 目的を果たすべく俺たちは狂気の発生源、台所の奥地を目指した。



 ・



「止まれ……絶対に音を立てるな……」


 さらに進むとリザードマンの軍勢が徘徊していた。

 俺とアザトは身をかがめ、シダの葉の中に身を隠してやつらの動きをうかがった。


「ッ……」


 悔しそうにアザトがかつての仲間を見つめる。

 いやたまらず目をそらしていた。

 その鱗のある肩に軽く触れて慰め、不可解な動きをする巨体の軍勢を見る。


 やつらは低いうなり声を上げながら徘徊を続けていた。

 粗暴も粗暴だ、突然味方同士で殴り合い、その手にある血塗れの剣を頭の上で振り回していた。

 巣のリザードマンは衣服を着ていたがこちらはボロ布だ、肢体の一部を欠損している個体も珍しくない。動きを見る限り痛みがそもそも無いらしい……。まるでゾンビだ。


「行った、もう大丈夫だ」

「あれがアビスの影響か……危険極まりないな」


 狂ったリザードマンたちが何事もなく遠ざかり安全が確保された。

 アレは相手にしたくない、さっさと原因を片付けてこの地より撤退したいところだ。

 痛みが無いということは反撃してもひるまないということ。敵として危険過ぎる……。


「この奥だ。見てくれ、あの辺りから地盤が大きく沈下しているだろう。元々は平地だったが、ある年を境に大陥没に変わっていた。あそこに何かがある……それを調査、必要あらば構わず破壊してきてくれ」

「無茶を言ってくれるな。アンタ、要求しておいて不可能に近いミッションだとは思わないのか?」


 確かに谷の一部が不自然に陥没していた。

 成長した樹木が周囲をおおっていたので中はわからないが、魔石か何かがキラキラと遠く輝いている。


「ならば帰るか? 我らという予定外の存在を見て見ぬふりをして、来た穴をふさぎ、再び歴史の闇の中に葬るか?」

「それは発掘屋の名誉にかかわるな。掘り出したものを埋め直すなど、発掘家の風上にも置けん」


 異界の書物によるとそういった悪質な研究者もいたそうだ。

 己の望む歴史以外は認めない、学説の邪魔となるものは消されてきたと。


「アウサル、嫌なら断っていい。邪神ユランの起こした反逆の聖戦、我らはそのどちらにも加わらなかった。魔境に住まう怪物として無関心を貫いた。……当時と同じ歴史が繰り返されるだけのことだ」

「アザト、人の話を聞け。俺は帰らんと言っている。……いや、だがどうして参加しなかったのだ?」


 陥落への道ならぬ道を進みながら彼に問いかける。

 あの遺跡の壁画にリザードマンはいなかった。


「リザードマンは1度も選ばれなかった種族だ。そして知能にも恵まれぬ彼らは、始祖である俺の命令にけして逆らわない。この世界と、アビスの境界に住む者、それが我らだ。よってどちらの陣営ともあい入れなかった」


 だが次に生み出される壁画には加わってもらう。

 鱗におおわれた硬い巨体、その特性を発揮させて活躍すれば人の目も変わる。


「気持ちはわからんでもない。だがユランはそんな狭量なやつじゃない。アレはな、生み出されては捨てられる種族たちを哀れみ、それを守りたいがために創造主を封じたバカ正直だ。……すがれば必ず手を差し伸べてくれたはずだ」

「そうかもしれん……。だが自分は……自分はサマエルに恩があったのだ……」


 恩だと……。それはどういう意味だ……?

 まさか――


「まさかアンタ、世界の主、サマエル本人に会ったことがあるのかっ?!」


 俺の驚き混じりの問いかけにアザトは静かにうなづいた。

 あまり大きな声を上げるなと口の前で指を立てて、彼は遙か遠い太古の記憶を掘り起こし始めた。


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