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18-02 予定外の種、最果ての世界に住まう者 2/2

「選ばれなかったことだ、ただの1度も……」


 それはどういう意味なのだろうか。

 わからない、だが彼を俺の味方にする糸口もそこにあるのだと前向きに受け止めた。


「アウサル、お前はどうやって死の荒野を越えてきた?」

「ああ、それは穴を掘って来たに決まっている。地下世界にある奇跡の土地、ア・ジールより死の荒野の地底をくぐり抜けてここまで来た」


「動機はなんだ」

「最果てに住むというもう1つの種、有角種を味方にするためだ」


 それなりにといったところだが、アザトが返答に納得した。

 どうやら重苦しい話はやめにしたらしい。大きなイスに腰掛け頬杖をつく。


「我々の巣穴にたどり着いたのは偶然だと……?」

「そうだ、俺たちはアンタたちの存在をまるで知らなかった」


「有角種、あの連中ならば自分も知っている。ずいぶん昔だが、たまたま助け合ったこともないこともない」

「ならば押し掛けて失礼だが参考までに教えてくれ。有角種とはどんな連中だ」


 すっかり落ち着いたようで、アザトがこちらの問いに乗り気になってくれた。

 壁から干し肉を引きちぎって俺に投げ渡しつつ。

 最果ての世界の肉、恐らくあのリザードマンが狩猟したもの。……何の肉かは考えまい、軽くそれをかじった。


「良く言えば社会的で約束を守る」

「意味深な言い方だな。ならば悪く言うとどうなる」


「気位が高く何かと面倒な気質だ。ルールや段取りを好み、それをことあるごとにこだわるのでかなり困らされる。最果ての奥地、彼らの世界の入り口に黒い角の部族がいるが、そっちの方はまだ話がわかる、必要ならばアザトの友人とでも言っておけ」


 様式にこだわる部分をのぞけば銀角ゼファーのイメージとそう変わらない。

 プライドが高くて頑固だってことだろう。


「それはありがたい。貴重な情報に感謝だ」

「アウサル、お前についても聞いたことがあるぞ。呪われた地のアウサルは、白き死の荒野の毒をものともせずそこで暮らすとな」


「ああ、事実だ。今はア・ジールを本拠にしているがな。……荒野でのアウサルの役目は、もう終わったのかもしれん」

「ならば渡りに船か……」


 渡りに船だと?

 それはどういった事情だろうか、干し肉を食らってアザトが考えを巡らせた。

 腹が減っていたようだ、俺もそれにならった。


「実は最近困っていてな。いや、最近といってもここ100年ばかりずっとのことだが、ここ数年は特に酷い。場合によってはア・ジールとやらに加わってもいいと思えるほどにな」

「ぜひ聞こう、詳しく教えてくれ」


 これは思わぬチャンスだ。

 協力してこちらの誠意を見せれば彼らがア・ジールに近づく。


「ここは最果ての大渓谷カスケードケイブ、その穴底にある空洞だ。この世界に重なるように存在すると言われる、アビスに遠くて近い土地。これより西側は魔界とも呼ばれる境界の地となる」


 大渓谷、そういうことか。

 どうりで俺の地下トンネルがこんなところにぶち当たるわけだ。

 このリザードマンの巣ではなく、谷底の別の場所に繋がる可能性もあったということか。


「自分たちは魔界に生じる、とある宝石を採掘して生活の糧にしている」

「それを売るのか」


「違う、食うのだ。リザードマンは親指大の石ころ1つで月齢2周分を生きる」


 宝石を食らって生きるそうだ。

 なかなかもって幻想的で、ここが常識の通じない果ての世界だということを知らされた。


「まさかそれは魔石か」

「そうだ。狩った動物の肉、栽培したキノコ、東の森にて採集した幸が我々の食料だ」


 それではまるでモンスターだ。

 ニブルヘル砦周辺の魔物を倒すとたまに魔石が得られるが、あれは魔石を動力源として食っていたのかもしれない。


「それで、アンタたちは何に困っている。採掘ならば俺の得意分野だが……」

「ああ……魔石は我々の必須栄養源だが、度を過ぎた純度と量になると我々を狂わせる。魔石そのものが場を狂わせ、リザードマンにアビスの性質を持たせる。つまり……我々を狂わせる原因が、この大渓谷の奥に今存在しているようなのだ」


 それがこちら側、リザードマンの事情。それはわかった。

 己を狂わせるものを食わなければ生きられないとは、さぞかし大変なことだろう。


「まさか、それをどうにかしろなどと言うなよ」

「そのまさかだ。ここ数年、凶暴化して我らの群れを抜ける者が多発している。そいつらは渓谷の奥地に住み着き、命絶えるまで、アビスの魔物のように徘徊を続け、破壊の限りを尽くすようになる」


 悪いがアザトよ、それは俺の手に余る気がするぞ。

 リザードマンのあの巨体、鱗の肉体に体躯、1体1体が手に余る超戦士だ。


「近づけば狂う。迎え討つにも凶暴でな、討ち損じて奥地に逃げられては手をつけられん……。何かがカスケードケイブの奥地に存在するのだ。我らには近づけん、恐らくはヒューマンですら不用意に近づけば狂うだろう」


 アザトは俺に期待した。

 この難題を解決できるのはお前だけだと。


「だが、アウサル、お前は違う。お前はきっとアビスの深淵にも至れるただ1人の存在だ」

「ああ、それはつまり何か? 俺1人の単騎で狂気の渓谷に乗り込んで、原因を見事ぶち壊してこいと、アンタは言うのか?」


 己の体質に感謝したい反面、それが実現可能なことなのかと判断と返答に困る。

 もちろん力になってやりたい。仲間同士で殺し合うなど地獄の世界だ。


「いや、途中までは俺が支援してやる」

「アンタ妙なことを言う。近付けば常人は狂うと言ったではないか。特にリザードマンはそれに弱いと」


「自分はリザードマンではない。リザードマンは、自分と妻との間に出来た子らと、その末だ。そして何より自分は元々――」


 待て、つまりアザトはあのリザードマンたちの祖ということか?

 この男年齢はいくつだ、何者だ、何なのだこの土地は……。


「アビスの生まれだ。白き死の荒野のアウサル、だからこそ俺はお前の境遇に共感を覚えている……。毒に絶えうる肉体と、異形を合わせ持って生まれたお前にな」


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