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17-04 東の蒼き宝珠来りて翼と出会う(挿絵あり

 西方への地下トンネル工事はせっかくなので石材調達と平行して進められた。

 繰り返そう、これから進むは西だ。

 必要に迫られた俺たちは考えたのだ。呪われた地の底を、どうにか無事に通行する方法はないものかと。


 で、その辺りは実際にやってみなければわからない。

 そこで試験的に呪われた地の地底奥底に、ここア・ジール地下帝国を直接繋げてみることになった。

 全ては有角種を代表とする、西側の亜種族を味方にするためだ。


「拙者の故郷に殴り込みをしかけるでござるか。通行に不安が残るでござるが、うむうむっ、それ以外は大賛成でざる。一度道を繋げばその時点で一蓮托生、もう逃げ隠れも出来なくなりますゆえ」


 帰国したゼファーの同意も得られた。

 はぐれ者の有角種はついにこの時が来たかと、全力の協力姿勢を見せてくれた。



 ・



 そんなある日の夜、うちの家に思わぬ来客があった。

 地下隧道作りはまだ始まったばかり、トンネルと呪われた地の毒に支障が出なければ、数日中に穴蔵暮らしが始まる頃だった。


「う、嘘っ……バロア!!」

「おねえちゃっ!!」


 あの王女バロルバロアだ。

 ラジールが本当にあの、パフェ姫の妹君を本国から連れて帰ってきた。


「あいたかったぞ、すっごく、バロアは、あいたかったぞ、おねえちゃ!」

「ああっバロアッ、来てくれるだなんて嬉しい……私もあいたかったわ、バロア……!」


 玄関が開くなり、応対に出たパフェ姫とその妹姫が抱き合っていた。

 その後ろでラジールが姉妹の再会を見下ろし、俺に気づいて豪快に笑った。


「ずっと……ずっとひとりぼっちで、さびしかった……。だけどバロアは姫だぞ、えらいから、がまんした……! でも、ラジールたんが……つれてきてくれた!」

「バロア……。やっぱり寂しかったのね、そうに決まってるわよね……。偉いわ、よくがんばったわね……はぁぁ、夢みたいだわ……」


 大騒ぎに元々の住民から居候の諸々まで玄関にかけつけてきた。

 ラジールは騒動ばかり引き起こすが、今回ばかりはその行動力を誉め称えたい。

 故郷を去った姉と、幼い妹が再会出来たのだから。


「どうだ同志アウサルよ、我は約束をキッチリ守るのだ。……覚えている限りだがな、ガハハッ」

「まさか本当に連れてくるとはな……。しばらく姿を見ないと思ったら……こういうことだったか」


「うむっ、わけあってジジィに会いに行ってたのだ。どうもこちら側がきな臭いからなっ、開拓の支援をしながら駐屯出来る兵が必要だ! バロアのついでに連れて来てやったぞ!」

「それはお見事な機転ですね、大樽飲みのラジールさん」

「食料備蓄の問題もあるが確かに地上がヤバそうだ。助かるぜラジール」


 ジョッシュとダレスもうちに滞在している。

 ラジールはやることなすこと豪快なだけで、一応考えてはいるのだ。

 バロルバロア姫を連れてきたのも、この姉と妹のことを心配してのことだろう。……多分な。


「ぁ……。この子……この子かわいい……」

「うんっ、うんっ、パフェ姫様の妹さん……っ、すごくかわいいです!」


 フェンリエッダとルイゼが早くも魅了されていた。

 歳の離れたあどけない妹姫は容姿愛らしく、たどたどしいその言葉尻も含めて母性をくすぐり倒す。


「おお、ラジールたんからきいているぞ。ルイゼとエッダ、やさしくて、せわやきで、からか、からか、い? がいがある! バロアは、バロルバロアだぞ、姫だ。でもババロアってよんでもいいぞ」

「お二人ともお分かりになりますか!? そうなのっ、うちのバロアはっ、かわいくてっかわいくてっ、もうたまらないのっ、はぁぁぁぁーっっ!!」


 どいつもこいつも興奮し過ぎだ。

 ババロア姫とは後で話せば良いだろう、俺は奥に戻って読書の再開といくか。

 ……しかしこの姉妹はよく似ているな。


「何でフィンがあんなやつのために、わざわざご飯なんか運んでやんなきゃいけないの……。あれ、お客さん? あっ」

「お……おぉぉ……?」


 ところがまた慌ただしく玄関が鳴った。

 誰かと思えばフィンだ、そのフィンとババロア姫の目と目が重なり合っている。

 引っ込むと決めたがこれはどうも気になるな。フィンの親代わりとして、ことの流れを注視せざるを得ない。


 ああちなみにラーズだが、やはりあれは良いやつだ。

 若さに任せてこんな夜中になっても、入植者たちの住居作りを手伝ってくれている。それにこれはヒューマンである彼がア・ジールの社会にとけ込むチャンスだ。

 そんな彼に温かい夜食を運べるのはフィンだけだったというわけだ。

 皆に愛されるというその性質もまた、何かとラーズのために都合が良かった。


「おぉぉ~~! お、おねえちゃっ、こ、この子っ、この子だれっ?! はね! とりさんのはね、はえてるぞ!」

「誰ってフィンはフィンだよ。あと鳥じゃない、わっ……」


挿絵(By みてみん)


 ババロア姫がフィンに駆け寄ると栗毛の天使が小さく震えることになった。

 不意打ちで手のひらを一方的に包まれて、そのなつっこさに驚いてしまったらしい。


「よろしくな、フィン。わぁぁ……はね、きれいだな。かわいいぞ、さわっていいか?」

「え、でも触られるのはくすぐったいから……うっ。ああもうっ、しょうがないな……」


 だが悪い気がしなかったのか、戸惑いがちだったその顔を素直なものに変えていく。

 フィンは好意の代弁としてバロア姫を正面から抱き込み、その白い翼を羽ばたかせた。


「お、おねえちゃっおねえちゃっ!! とんでるっ、バロアっ、とんでるぞ!!」

「ワハハッ、どうだ驚いたかバロア! フィンは天使なのだっ!」

「それは見ればバロアだってわかりますわラジール……」


 蒼髪のあどけなき姫君から華やかな笑顔があふれた。

 楽しくてたまらないと周囲を見回し、まっすぐな好意でうちのフィンに笑い返す。


「すごいなフィン! バロアは、フィンがきにいった! すき!!」

「ぇ……?!」


 するとおかしなものだ、フィンが途端に恥じらった。

 いや恥じらいつつもババロア姫を熱心に見つめて、何か考え出しているようにも見えた。


「ねぇパパママ、ババロアちゃんと遊んできていい……?」

「何を、今からか……?」


「うん、ババロアちゃんに、ア・ジールの空を見せてあげたい。ねぇババロアちゃん、空からフィンの町、見たくない?」


 バロルバロア姫がその誘いを断るはずがない。

 期待に笑顔がさらに輝いた。


「でもフィン、それは危ないんじゃないかしら……バロアもまだ小さいわ」

「じゃあパフェママも一緒にいこ! ……あれ? えっと、ママの妹だから……ババロアちゃんは、そう、フィンの妹みたいなものだよね!」


 その場合叔母なのでは。とは誰も言わずに口をつぐんだ。

 まあ叔母と呼ぶよりは妹がずっと適切だ。


「いく! バロアいく! おねえちゃ、いこ!」

「いこうよパフェママ! ババロアちゃんもこう言ってるし、ほらいくよ~!」


 天使フィンがパフェ姫の腰をガッチリと抱くと、その姉の方もまた宙に浮かびだした。

 もしかしたらバロルバロア姫の幼さに触発されて、当時の元気で手の付けられないフィンの性質が現れたのかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ちなさいフィンちゃんっ! ば、バロアと一緒に飛べるのは嬉しいけどっ、ひっ、や、やっぱり怖っ、待って待ってダメっ、あああああああああああーっっ?!!」


 窓から彼女らが姿を消すところまでは見届けた。

 フィンの飛翔能力には驚きと羨望しかない。

 バロア姫が小さいとはいえ、今複数名を空に浮かせていることになる。その実用価値は計り知れない。


「フフ……、パルフェヴィア姫には同情ですね。まあ両手に花とも言える状況て少々羨ましいですが」

「ありゃぁ怖ぇぞ。フィンのアレは、なんで自分が浮いてるのかわけわかんなくなるからなぁ……」

「私はむしろ姫が羨まし……いえ、何でもありません。またここに通う理由が増えてしまった……」


 名残り惜しげにフェンリエッダが窓辺から空を見上げていた。

 今は夜だ、人口太陽も輝きを極小にしている。さすがにここからでは見えないと思うのだが……。


「やれやれじゃ、毎日毎日騒がしいやつらよ……。アレがかわいいのはわかるがな、過保護もどうかと思うぞ。……ああいった力はいずれ役に立とう、そこは割り切れ」


 寝室から赤き飛竜ユランが現れた。

 その部分に限っては、俺たちとユランは意見がまるで合わない。


「起きたか、だがフィンはまだ子供だ、俺は子供を戦争に加える気はない」

「アウサルさんに同意します。救世主ユランといえど、その扱い方には賛同しかねますね」

「ならばラーズはどうなる。ラーズは戦っているではないか。フィンもそのことで何度も何度も我が輩にグチを漏らすぞ。理解してやれるのが我が輩だけだからな……」


 戦争に加わりたがる子供を止めて何が悪い。

 ラーズとフィンの扱いが全くの逆で矛盾していようと、認める気は俺たちにない。


「ラーズは元からそういう生まれだ。だがあの子は違う」

「あの子は私たちのようになってはいけないんだ。母の復讐に取り憑かれる私とも違う」

「はい、ボクもアベコベなのはわかります。だけどあのフィンを戦わせるなんてボク、絶対イヤです……」


 するとダレスがイスから大きな体を立ち上がらせた。


「まあ待てよアウサルの旦那。この竜神様はつくづく損な性分してんのな……言わなきゃいいのにわざわざよ。悪く思わないでやってくれや、それだけこの先の戦いは一筋縄ではいかねぇってことだからな」

「……わかってる、それがユランだ」


 俺たちの関係を気づかってか、俺の隣に来て耳打ちで忠告してくれたのだ。

 ああわかっている。ユランはフィンの力をこの場の誰よりも把握している。

 フィンという天使の力を戦いで使えば、俺たちは天と地底の双方を利を得ることが出来るだろう。


「ならば急げ、フィンの力を借りたくないのならば、1日でも早く西への道を拓け。ア・ジールに戦えるだけの余裕を生み出せ。結界の中に閉じこもる有角種どもを、この新天地に導くのだ。ア・ジールは、彼ら有角種の希望ともなろう」

「いいだろう、これでトンネル工事は4本目だ。これまでのアウサルとは違うということを、ユラン、他でもないアンタに見せてやる」


 時間はもう限られている。

 ならば急いで味方を増やせ、それが天使フィンとこの楽園を守るただ1つの方法だ。

 そうユランは俺たちを激励したいのだ。ならばそのオーダーに乗らぬ理由など最初から無かった。

 俺は邪神ユランの使徒。グフェンの推測が正しければ、ユランを復活させるために使命を果たしてきた一族の末裔だ。



 ・



 これは余談だが、フィンの精神はまだまだ子供だ。

 それもあってバロルバロア姫とは気が合うようで、すぐに歳の少し離れた姉妹のように親しくなっていった。

 この2つの宝を俺たちは守らなければならない。


 もし敗北すれば亜種族と反逆者には漏れなく凄惨な未来が待っている。この楽園だって例外ではない。

 その未来をスコップで、筋書きの横穴を突いて俺たちがねじ曲げてやろう。

 エルキアの暴走を止め、全ての虐げられし民をここに繋ぐ。それがきっとアウサルの新しい役目だ。


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