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17-03 人口爆増、躍進の地下帝国 2/2

 ふと二人から意識をそらして俺とフィンが切り開いた絶壁を見上げた。

 ある程度切り出したら次は洞窟を掘り、そこも臨時の仮設住居や倉庫として使ってもらう予定でいる。何せ削れる壁はア・ジールの全包囲にあるのだから。

 ただ切り開いた土地は足下もまた硬い岩盤となるため、耕作地にはまるで向かない。

 物資の集積所、あるいは近隣開拓民の住宅地くらいには使えるだろう。


「運べ運べ! たらたらしてると日が暮れちまうぞ!」

「そらわかってるけどね、人使い荒いぜ隊長!」

「……いいから運べ」


 次に絶壁の反対側をぼんやりと眺めた。

 そちら側は少しばかし騒がしい。そこに切り出された石材が集積されているからだ。

 石を車に乗せる者もいれば、道具不足もあってひもをくくり付けて引きずり運ぶ者もいる。

 あるいは好みの石材を物色してうろつく近隣開拓者とおぼしき者もいた。


「よし出発だ、アイツらに家を作ってやるぞ!」

「けどいくつ建てりゃいいんだよ隊長!」

「……いいから文句言ってないで、運べ」


 ニブルヘルの構成員は団体であることもあって無駄口が絶えず、彼らが動脈のようにア・ジール各地へと建築石材を運んでくれていた。

 農場出身のダークエルフは働き者だ。己の土地が割り振られるとそこに急場ごしらえの家を建て、荒れ地を耕し、土地へと繋がる水路工事に自ら率先して加わった。

 家はまだ土蔵が多かったが、石材と石材の隙間を土で塗り固めた種類のものも増え始めている。


「あれ、あれって馬車ですね」

「そのようだな」

「あ……」


 サンドウィッチの3枚目に手を付けると、荷車ではなく馬車が集積所にやってきた。

 地下帝国内では珍しいものだ。

 もっぱら馬は地上の砦で運用しており、大柄な馬体という障壁もあって地下との行き来が困難なのだ。

 よってあの馬は、まだ子供のうちに地下へと運び育てたものらしい。


「どうしたフィン?」

「別に……。フィンちょっと散歩してこようかな……」


 フィンがソワソワとその馬車を見つめていた。

 ところが言葉とは裏腹に立ち上がろうとはしていない。

 馬車の荷台からはニブルヘルの兵たちがかけ下りて、中へと石材を積載し始めた。


「なるほど、そういうことか」

「フィンちゃんはあれにラーズくんが乗ってるの知ってたんですね。おーいこっちこっち、こっちですよー!」

「よ、呼ばなくていいよっママっ、あんなヤツッ!」


 そういうことだ、それを率いていたのだエルフィンシルのラーズ、そのラーズが俺たちに気づきやって来た。


「皆さんお疲れさまです。……えっと、フィン、さんも」

「あはは……ラーズくんと仲良くしようねフィンちゃん。気が合わないのはわかるけど……」


 ラーズがどうしても気に入らないそうだ。

 元から好意を持っていないのもある。それに今はちょっとした事情もそこに加わっていた。


「そう顔を合わせるたびにギスギスされては落ち着けん。すまんなラーズ」

「いえ……俺が悪くないとは限りませんし……」


 フィンは口を開かない。

 不機嫌にラーズを無視して昼食をがっついていた。

 実はだ……。深刻な住居不足が発生した以上、既存の住宅にもあぶれた者を迎え入れなければならなくなった。


 よってその都合で近しい面々がうちの家に押し掛けて、毎晩毎朝楽しいものだが狭苦しい生活が続いている。

 その面々の1人がラーズというわけだ。


「だってラーズがフィンの着替えのぞいたの!」

「の、のぞいてなんかいないよ! た、たまたま振り返ったらフィンが勝手に――フィンさんだってっ、そんな見られるような身体じゃないじゃないですか!」


 ラーズも若い、つい言い返してしまっていた。

 まあ言いたい気持ちはわかるが、関係の解決にはほど遠い判断だろう。

 フィンは無視をよりいっそう決め込み、けれどもお互い気になるのかチラチラと互いを盗み見合っていた。


「ほら……やっぱり気になるんですよ2人とも……」

「そうらしいな……」


 ルイゼが立ち上がって俺の耳元に感想を語った。

 そういうルイゼもルイゼで年齢以上にませている。


「あ、そうでした。アウサル様、ユラン様からの伝言です。明日明後日にゼファーが帰国する、よってそろそろあちらの工事にも手を付けろ――だそうです」

「工事? パパ、それって何の話……?」

「ボクも初耳です。今度は何をするつもりなんですか」


 邪神様は予定を早めろとのお達しだ。

 もちろんゼファーの帰国と繋がるのにもちゃんと意味がある。


「実はな、地下隧道をもう1つ掘ることになった」

「地下隧道って、外に繋がってるあれだよね?」

「アウサル様が作ったっていうあの……。うちのエルフィンシルの次は、一体どこに繋げるつもりなんですか?」


 といっても半分は賭け、もう半分は実験みたいなものだ。

 これがもし実現すれば大きな可能性が生まれる。成功するとは限らないが意味が大きい。


「東に伸びる白の地下隧道、南に伸びる獣の地下隧道。これとは別に、西に伸びる新たな道を追加する」

「西……? 西ってでも、あそこには……ええっ?!」


 ルイゼはもうすっかり古株だ、大まかな事情は把握している。

 だから成功するとは限らない賭けなのだ。


「有角種の閉じこもる結界の足下、最果ての地を目指す。次は有角種を味方に引き入れよう、そういう算段だ」

「あの歴史から消えた種族、ハルモニア様がその昔に従えていたという、あの……」


 フィンはまだ有角種とは会ったことがない。

 知らぬ話題に会話に加われずまた不機嫌にしていた。

 しかしユランのこの願いに従うとなると、今日のうちにもっともっと多くの石材と、予定していた洞窟作りを始めたい。


「フィン、予定変更だ、お前はラーズを手伝ってくれ」

「え……エエエエエエーッッ?!! ヤダよそんなのっ、やだ!」

「こ、こっちに押しつけられてもっ、あっいやっ……とにかく困りますよ!」


 洞穴作りに飛翔能力は要らない。

 むしろフィンの物を浮かせる力は石材の積載作業に向いていた。

 サンドウィッチの残りを口に押し込み、俺は己の持ち場に戻ることに決める。


「鍛冶場に連れていったらブロンゾさんが喜びそうですけど、フィンちゃんの仕事があるかと言ったらわかりませんね……。どうするフィンちゃん?」

「……ラーズと行く」

「えっ……こ、こっち来るの?!」


 それはもう不承不承とフィンがラーズとの同行を選んだ。

 身体は育ったがまだ生まれて間もないのだ、俺たちに甘えたい心境もあっただろう。

 けれど俺たち自慢の天使はラーズを選んだ。正しくは、己の役割がある方を望んだとも言えよう。


「勘違いされると困るから言っとくけど、フィンはラーズが嫌い。でも、嫌いなラーズにフィンの力を見せてあげたら……それはそれで気分良いから特別に手伝ってあげる」

「何だよそれっ! 俺が嫌いならルイゼさんに付いてけばいいじゃないか!」


 ただただこの2人は見ていてもどかしい。

 ともかく話はそういった方向でまとまり、ルイゼは地上の鍛冶場へ、フィンとラーズは馬車への積載を手伝いに移った。


 この誰にも搾取されない土地で、希望にあふれる入植者たちががんばってくれている。

 そうなれば石材が足りないだなんて事態は許されんのだ。


 地上サウスは今、都合の良い労働奴隷に飢えている。

 もし農場に戻れば史上最悪の労働環境が彼らを待っているだろう。

 彼ら脱走者もまた後には退けない状況になっている。


 俺たちを信じて彼らは地上を捨てた。

 その入植者たちの希望を失望に変える気などない。

 今日明日のうちに、当面の必要数だけ石材を用意してやるのだ。


 建物、水路、新しいありとあらゆる施設には石材がいる。

 住居不足という問題を解決し、狭苦しい生活に終止符を打つためにも。


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