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16-09 サウス南部荒野の戦い

 頭を潰されたエルキア王軍は追撃を後手後手にした。

 亡きクリムハルトの後任が経験不足の――まあ言ってしまえばコネ枠の新入りになった部分もかなり大きい。

 ダレスとジョッシュ率いる市民たちはサウス郊外に待機していた護衛部隊と無事に合流し、その後農園側を担当していた本隊との合流を果たした。


「どうにか上手くいったようですね。敵の追撃はどうにか追い払いましたが、じきに王軍本隊が現れますよ」

「ふむ、助手殿、その中に侯爵側の軍はあったか?」


 民と共に砂塵を上げて荒野を歩く。

 少しの間だけ指揮官同士で話し合う余裕が出来たので、俺たちは情報共有をすることにした。

 ああアベルハムは民と部隊の指揮があるので抜きだ、そこは後でエッダ経由で共有すればいい。


「だから私は、助手ではなくジョッシュです。まあ別に構いませんけどね……」

「スコルピオ侯爵軍らしき姿はもちろんあったぜ。だがよ、やつら王軍の姿を発見するなり俺らの追撃を止めちまった、まるで役割を譲るみたいにな」


 なるほどそれはある程度予期していた動きだ。

 王軍と侯爵軍の離間、これが今回の俺の任務だったからだ。


「こちらの離間工作が成功した、ということだろう。その様子だとスコルピオの耳にもう届いていたようだな。暗殺現場に、偽のセイクリットベルが残されていた、ということに」


 あの時、例の偽セイクリットベルと軽薄なカツアゲ男の階級章を暗殺現場に仕込んだ。

 ベルの現保有者はスコルピオということになっている。当然ながら王軍はスコルピオ侯爵に対する疑念を抱いたはずだ。

 スコルピオもベルを盗まれて焦り狂い青ざめていたところに、ダークエルフの脱獄騒動と、偽のセイクリットベルが王軍指令の手の中にあったことを知ることになった。

 ……そうなると両軍は今、協力出来る状況ではないのだ。


「当然疑念は私たちにも向けられているはずだがな。脱獄を幇助したのも我らニブルヘル、クリムハルト暗殺の動機も状況証拠も十分だ」

「ええ、ですが人は複数の可能性を考えるのですよ。特に王軍は、スコルピオ侯爵を離反させないために駐屯しているとも言えます。そこに生まれた疑心暗鬼と、グフェン様率いる暗部の流言工作、これをやられては向こうもたまらないでしょう」


 ジョッシュが言うともっともらしく聞こえる。

 エッダはニブルヘルの幹部だというのに素直に感心してうなづいていた。

 俺がスコップの力によるイカサマでヒーローを演じる道化なら、ジョッシュは正真正銘の知将型だ。


「旦那、新しい情報だ。どうやら侯爵軍は荒野南部に正規軍を展開させたようだ。だがそのままピクリとも動かねぇそうだ」

「それは妙ですね。アウサルさん、ここは貴方の意見を聞いてみたいところです。貴方がスコルピオ侯爵の本性を、最も知る者ですから」


 それを言うなら奴隷にされていたエッダの方が因縁が深そうだが、もちろん口に出す必要もない。

 はてさて、ヤツが何を考えているかか……。


「……ヤツは、最初から処刑に乗り気ではない。これはその亡き友ポコイコーナンの言葉だ。侯爵には王軍の殺戮に味方する理由がないそうだ。サウスという領地は、ダークエルフという奴隷がいるから成り立っている。……スコルピオは俺たちと敵対しているが、ダークエルフに滅びられては困るという妙な面で意見が一致しているのだ」


 フェンリエッダがその美貌をしかめた。

 知っている、彼女にとってヤツはデリケートな問題だ。いや彼女だけではない、ダークエルフにとって侯爵家は不倶戴天の敵だ。


 ちなみにこのフグタイテンという異界の言葉だが、フグという魚類と、タイという魚類が敵対関係にあることから作られた言葉だと俺は考えている。

 他の例では竜虎、という言葉がこれにあたるようだ。


「ん、んん~? つまりそれよぉ、侯爵は戦う気がねぇってことじゃねぇか?」

「ご名答ですダレス様、そこまで考えられるとはご立派になられましたね。後はお1人で朝起きられるようになられれば一人前ですよ」


「うるせぇ! 人をおちょくってられる状況じゃねぇだろっジョッシュッ」

「朝くらい1人で起きろ。これはスコルピオのクズなりの王軍への牽制かもな。だけど状況が変われば狼のように襲ってくるぞ、それが私の知るあの男だ」

「そうだな。まあ今は離間の成功を喜ぼう、結果的に王軍の追撃もヤツを警戒して鈍るのだからな」


 その先は残りの状況確認や護衛部隊の配置の話になった。

 王軍の総数は精鋭2000。一方のこちら側は全軍を動員してやっと1800、まともにぶつかり合えば勝つことは出来るかもしれないが笑えなくなるほどの被害が出る。

 さらには民を守りながらとなると、劣勢はまず避けられなかった。



 ・



 ニブルヘル砦からグフェンが予定を早めて出撃したとの報告が入った。

 侯爵軍は以前包囲を1度解除したが、最近になってまたそれを再開した。

 どうやら本国側からの強い要請があったようだ。

 侯爵軍駐屯地が迷いの森の前に敷設され、今日まで俺たちの地上ルートでの出入りを見張ってきた。


 その駐屯地にグフェン率いる、ヒーロー・ラーズ含む軍団300が攻め込んだ。

 しかし侯爵側はここでもまともに戦わず撤退していったそうだ。

 これは朗報だ、もうじき被害ほぼ0の援軍がここにやって来る。


「旦那っ穴掘りに夢中になり過ぎんなよっ、さすがによそ見されちゃ守り抜けねぇ!」

「わかっている。だが引っかかってくれる間抜けがいるから、ヘイアンキョーは止められん」


 だがついに王軍本体が俺たちの背中を突いた。

 しかもさらにたちが悪いことに、やつらは俺たち軍隊とは積極的に戦おうとしなかった。

 予期していたことだ、やつらの目的は勝利ではない、ダークエルフの殺戮だ……種族そのものを絶やすことが目的だった……。


「助けてくれぇっ、こっちに来たぁぁっ!! やっ、ウギャァッ!!」

「た、助けて……早く助けて兵隊さん!!」


 王軍は民間人を狙った。

 俺たちがせっかく守り救い出した、罪のないダークエルフたちに剣が振り下ろされているのだ。

 列を守っていた民は走り逃げるために大きく散開した。

 そのダークエルフの民へと敵の騎馬遊撃部隊が襲い、一歩遅れてエッダとジョッシュが追い払うというやられっぱなしが続いている。


「お、おいっ、大丈夫かッ、また落とし穴か……くぅっ、我々神聖なる神の軍勢に、何という冒涜だ……!」

「隊長、俺たちばっかり前とかずるいですよ! うわぁぁぁっ?!!」


 俺とダレスは最後尾だ。

 ここが最も敵が多い。どうやら遊撃部隊の指揮官は本体とは連携せず単独で動いているようだ。


 だから俺は王軍本隊側を相手に穴を掘っている。

 ダレスらに護衛されながら落とし穴を掘っては走り、掘っては走り、追撃者を深い陥落に落として足止めしまくった。


 敵遊撃部隊の騎馬が引っかかれば大当たりだ、将棋倒しになって騎馬小隊が半壊してくれる。


「もう少し、もう少しだみんな! あと少しで我々の領土、ニブルヘルの迷いの森にたどり着けるぞ!」

「本国はつくづく救いようがないですね……。ですがこのツケ、どう考えたって高利貸しも真っ青のの高利になりますよ。殺戮は、殺戮でしかありません!」


 エッダとジョッシュの叫びが聞こえたような気がした。

 今は誰もが必死だ、仲間を1人でも多くこの殺戮者から守らなければならなかった。

 ダークエルフたちは傷を負った者に肩を貸し、動けなくなった者を背負い、あるいはどうにもならずに見捨てることにもなった。

 これもわかっていたことだ、こうなるのは最初から決まっていた。それでも逃げなければ民たちは殺されてしまう。


「お、おおっ、みんな見ろっ、グフェン様が来てくれたぞーっ!!」

「え……だけど、あ、あれは……?!」


 そのとき大きな歓声がわいた。

 いや少し淡泊な表現になっているな、場違いにも希望に満ちた大歓声が上がったのだ。

 同時に後方の王軍が一時停止した。

 彼らにしても予期せぬことが起きていたらしい。


「やったぜ旦那ッ、アレを見ろっ!!」

「はぁっはぁっ……ダレス、アンタまで何をそんな驚いて……」


 敵の遊撃部隊がグフェン率いる増援と激突した。

 いやよく見ると左翼右翼とにグフェンは軍を分けていた。

 ……さらに訂正だ、それも少し違った。

 というよりもだ、俺たちの想定よりもその増援は、遥かに、多かった(・・・・)のだ。


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