16-08 スコップ1つで暴く、腐り切った偽りの教え 2/2
熱く熱狂的な歓声が上がる。
やれやれ使徒の仕事というのは大変だな、こんな似合わぬ演技までしなければならないのだから。
「ふざけるな怪物ごときがッッ!! おお神よ、我に力を与えたたまえっ、このっこのっ、死ねぇぇぇーっっ!!」
ついに神父が逆上した。
装飾過剰なナイフを腹から取り出して、相打ち覚悟で俺に突っ込んでこようとした。
こんなスコップ1本ではナイフには勝てない、悪魔さえ討てば形勢逆転とでもこの爺さんは考えたらしい。
「あっうあああっっ?!!」
だが俺の隣にはフェンリエッダがいた。
神速の細剣が神父の手首を斬り落とし、ヤツを敗北者として足下へとうずくまらせた。
「手、手がッ……い、痛いっ、あっあああああっっ?!!」
「最後は力ずくか。見ろっこれがコイツの本性だ! ……エセ神父よ、命だけは許してやる、さっさと私たちの前から去れ!」
フェンリエッダは高潔だ。
本当はここで処刑してしまいたいだろうに、プライドの方を取った。しかしその判断はまずいな……。
「お、おいっ、何をするつもりだアウサルっ?!」
「さてな……」
俺はエッダと老神父の間に入り、その隣に穴を掘った。
「入れ」
「え……。い……イヤだっ、何をっ、貴様私を殺すつもりかっ?! そんなこと……や、止めてくれ……命だけは助けてくれっ! あ、ああ、ああああ謝るっ、もう教会とも距離を取るっ、だからこんな、こんなこと止めてくれぇぇっっ!!」
こういった手合いは生かしておくとまずい。
見逃して反省する者などそうそういない、必ず悪を繰り返す。
「止めろアウサル! 私はそこまでしろとは言っていない!」
「戦争でもないのに、俺は今日4人の命を奪った。いいや死へと追いつめたという意味では、5人だな。……6人目はアンタだ、アンタを生かしておけば、この恨みを背負って同じ狂気を繰り返す……。狂信者は狂信者だ、アンタの正義という欲望が、また多くの者の人生を狂わせる。よって、ここで見逃すことは出来ない!」
エッダの他に誰も反論しない。
洗脳から解かれたダークエルフの民たちは介入を望まなかった。ならばこれが答えだ。
フェンリエッダを抜く全ての者が、彼の死を望んでいる。
「フェンリエッダ、アンタは彼らを導け。もうアベルハムは撤退を始めている、急がないと孤立するはめになって、人がもっと死ぬぞ」
「……そうだな、私たちは急がなければならないんだった……。わかった、アウサル、ソイツはお前の判断に任せる。同胞たちよ、楽園はこっちだ! まずは水路輝くニブルヘル砦にご招待しよう!」
彼女に導かれて農園から誰1人いなくなった。俺と神父の2人だけを残して。
痛みと恐怖にうずくまる神父を俺は静かに見下ろしている。わかっている、もう殺すと決めている。
「頼む、見逃してくれ、許してくれ、死にたくない……! 頼む、頼む、頼む……私はただ、ただ教えを守っていただけなんだ……!」
スコップのスロットからマテリアルを入れ替えた。
それからスコップの腹の部分を不意打ちで神父の腕に押しつける。
「いっいぎゃっっ?!! あああああ熱ッッ、あああああああああーっっ?!!」
それはフレアマテリアルだ。
熱を持ったスコップに悪党が断末魔にも等しい悲鳴を上げた。
「うっうぁ……ぁぁぁぁ……?! わ、私を……私をどうするつもりだ……ッ、うぅぅっ……」
「……何を勘違いしている。それで傷はふさがったはずだ、出血死から免れたのだアンタは」
俺の言葉に彼は驚き焼けたその腕を見た。
流血が止まっている。絶望的な状況ながらも神父の口元が小さく笑った。
「だがアンタは多くのダークエルフを死へと導こうとした。アンタたちが広めた悪意の教えのせいで、明日処刑されるダークエルフたちが大量に出ることになる……。アンタを始末するか、それとも生かすか俺も迷っている、だから賭けよう」
彼に銀貨を見せた。
まあ珍しいやつなのでお守り代わりだ。
「ここに異界の錆びない銀で作られたコインがある。裏が出たらアンタをそこに埋める。表が出たら……どこにでも行け、ただしこの国に止まるならば俺がアンタを殺しに行く」
「あっああ?!」
覚悟を待ってなどいられない、コインを弾いてすぐにキャッチした。手のひらをやつの前で広げれば、良かったな表だ。
「あ、ああああ……は、はぁっ、はぁぁぁっ……」
「ついてたな、表だ。だが俺が見逃したとバレるとまずい、急いで国外に出てくれ。もう2度とサウスに、いやフィンブル王国に近付くな」
しかし俺はなぜ見逃そうと考えたのだろう。
これ以上殺すのが苦痛になったのだろうか……?
まあいい、俺も本隊に合流しなければならない、早くエッダを追おう。
「……待ってくれ」
「何だ、アンタにはもう用はないぞ」
「これは……これは、私を信じてくれた、貴方への、せめてもの、礼です……。エルキア王国は……現国王は……とある連中を取り巻きに、引き入れました……。私はその取り巻きの1人から今回の、ええ、認めましょう……。歪んだ教えを広めるよう命じられたのです……。その、取り巻きは……」
ところがいきなりおかしなことを言い出した。
そういえば急いでいるあまり、尋問といったことをしていなかったな。
「3つ目を持つ者と、2つの口を持つ者……それから、天使……天使様がそこにおられました……。サマエル様の使い、天使様が、私にそうしろと命じるのです……。そんなの、信じる他に、ないではないですか……」
驚いた、顔のパーツの多い者たちに天使だそうだ。
ユランに伝えたら何かわかるだろうか。
「……となるとアンタ。本国側には行かない方がいいかもしれんな。わからんが、俺の知っている本の世界だとな、失敗した手ゴマは始末されるのがお決まりだ。暗躍する悪党からすれば、そこから素性をたどられてはたまらんからな」
悪党を救ってやる義理などない、ヤツと別れてフェンリエッダを追った。