2-4 お宝を根こそぎ持ち帰った結果
2-4 お宝を根こそぎ持ち帰った結果
で、残る問題はあの少女だった。
ニブルヘルのアジトに戻るなり、俺たちは会議室――つまり例の円卓に集まることになった。
といっても頭数は4名、アウサルにエッダ、グフェン。ラジールのやつは興味無いとか言って寝た。
「エルフの皆さん、助けてくれて……どうもありがとうござい、ます……。特に――特にアウサル様、貴方には……ボク、感謝し切れません……!」
なら残る1人は誰かと言えば、あの少女当人だ。
一眠りしてパンと豆をがっつくと元気を取り戻したそうで、礼儀正しくもややオドオドと感謝を述べていた。
「慕われているなアウサル殿……フッ」
「グフェン、笑っている場合じゃない、ヒューマンをエルフの隠れ里に入れてしまったのだぞ!」
グフェンの前なら頑固なフェンリエッダも御しやすい。
そう思っていたのだが真面目なものだ。
……わざわざそうやって悪役を買わなくとも良いのに。
「で、アンタ名前は?」
「え……な、名前ですか……?」
もう俺を警戒しているようにも見えなかった。
だが少女は言葉を濁す。
「……ルイ、……ルイゼです」
「そうか。で、アンタなんであんな場所に居たんだ?」
それから一番肝心な質問をぶつける。
人を宝物庫に閉じ込めるとか、どう考えたって普通じゃない。
隣に黄金を保管していたような場所だ、あの宝石をくすねられる可能性だってあったはずだ。
「それは……。奴隷として……侯爵に売られるところだったからです……」
「あの侯爵が喜びそうな趣味だ。恐らくポコイコーナンは侯爵に己の財力をアピールしつつ、この幼い少女を貢ぎ物として渡そうとしたのだろう。……そういう男たちだ」
意外な流れだがフェンリエッダがルイゼをフォローしていた。
スコルピオ侯爵の趣味には精通しているそうなので、彼女が言うとそういうものなのかなとも思える。
「フェンリエッダがそう言うならそうなのだろう。だが問題は、ふぁぁ……んむ……眠いな。問題は、このルイゼ嬢をどうするかだな……。いっそ目隠しして町に戻すか」
「ダメだっ! それでもしこの場所の情報が少しでも漏れたらどうするっ!」
ルイゼがどこまで秘密を守ってくれるのか保証はどこにもない。
グフェンの投げやりな提案は、エッダの正論の前に否定された。
……朝方近いとはいえまた起こされたのだ、その巨体に2度寝したいと書いてあった。
そうして2人のやりとりはそのままの平行線を描く。
「なあアンタ、なら出身はどこだ?」
「え……」
「出身だよ。あの町の人間には見えない、アンタどこから来た?」
ならこっちはこっちでやるしかない。
少女ルイゼに問いかけた。
こうなると身よりの有る無しも要素の1つになってくる。
「……王都です」
「ほう、王都とは驚いた。侯爵はヒューマンの、それなりの身分にある女奴隷が欲しかったのかな」
「クッ、あのクズめ……!」
するとグフェンが興味深げに食いつく。
もう1人の方は何だかんだ少女ルイゼに感情移入を始めていた。
「何があったんだ?」
「それは……」
また言いよどむ。
目線を落として考え込んで、それからまた俺を見つめて、蛇眼が恐ろしくなったのかそらした。
「小さな家なんですけど……実家でお家騒動があって……。それで逃げてきたんですボク……」
「何だアンタ貴族様か」
素朴なエプロンドレスは身分をごまかすために選んだのだろう。
だが人さらいからすれば、そのルイゼの端々から現れる気品が格好の獲物に映ったと。
「っっ……そ、そうです……。でも、でも……追っ手はどうにかなったんだけど……人さらいに捕まって……それで、あの倉庫に閉じ込められて……。そこにアウサル様たちが現れた……」
……本当のようにも聞こえるし、嘘のようにも聞こえる。
彼女は言いよどみ過ぎだ。
しかしそれもおどおどとした性格のせいかもしれない、わからない。
「アンタかわいいもんな、さらうヤツの気持ちもわかるってもんだ。遅かれ早かれああなってだろうよ」
「ぇ……ぼ、ボク……そんな……そんなこと言われたことないから……はぅ……」
いや話の主軸はそこではないのだが……少女ルイゼはモジモジと小さく縮んで恥じらった。
まあ、これはこれで、ラブコメという本のようで面白いかもしれん。
「誤解するな、普段はこんなこと言わない。ただ思ったことを口にしただけだ」
「おいアウサル、何を口説いている……!」
「ハハハッ、アウサル殿の気持ちもわかるがね。それでルイゼくん、貴女はどうしたい?」
何となく本の真似事してみた。
するとフェンリエッダが不快そうに俺を見る。
はたから見ても感情がこもっていないのがわかっただろうに。
「ボクは……」
「おいグフェン、捕虜に処遇を聞くやつがあるか!」
「捕虜ではない、彼女は客人だよエッダ」
いきなりどうしたいと聞かれても困るだろう。
ルイゼが心細げに悩みだし、小さなその唇を自ら押さえ込んだ。
……行くあてが無いのはきっと本当なのだろう。
「アウサル様と……アウサル様のお手伝いがしたいです……。ボク、どうせ行くところないですから……助けてくれたアウサル様のお手伝いがしたいです!」
「おいおいアンタ、ここがレジスタンスの拠点なの理解してるよな……?」
「わ、わかってます! それでもかまわないですっ、ボクっ、アウサル様のお手伝いをします!」
また面倒な話の流れになった。
驚くよりも困惑の感情が先をゆく。
フェンリエッダの目が怖い、睨まれている。
「アウサル! ソイツはいつか裏切るかもしれない! 立場が変われば……人は人を裏切るものだ!」
「思いもしないことになったな……フフフッ、長生きはするものだ。ふぁぁ……ぁぁ、眠い……」
半分アンタのせいだろグフェン……。
これでよくこのレジスタンスがまとまってきたもんだ。
「あー……なら本人の意思を尊重するってことで、コイツの行動には俺が責任を持つ。……なぜなら俺たちは同じヒューマンだからな」
「あ、アウサル様……!」
拾われた犬っころみたいな視線が俺を見ている……気がする。
だが目は合わせないことにした。
変な下心があるとは思われたくない、同じヒューマンを、俺というヒューマンが助けるだけだ。俺はヒューマンだ。
「……いや、やはり問題があるな」
「おいおいグフェン、アンタな……アンタの軽口のせいでこうなったんだろ……」
ひっかき回しといて何言ってんだアンタ。
「そう言うなアウサル殿。よしこうしよう、ルイゼくんは今からアウサルの召使いだ。彼の命令に君は絶対服従、逆らうことは許されない。……それで良いかな?」
その銀髪青肌のダークエルフは、極めて冷静にわりと容赦のない要求を始めた。
「アンタさ……、そんなの良いわけないだろ」
「ボクはそれで構いません!」
何でだよ……。
おどおど口調のはずのルイゼが甲高い声で自己主張した。
驚いてその顔を見つめれば、ああ……本気だコイツ……。
「無条件で代わりに責任を持つなどフェアではない、そんな関係はいずれ破綻するだろう。違うかなアウサル殿」
「ああ、それは間違ってないよ……」
「なら決まりだ。ルイゼくんは今後、アウサル殿を主人として身を尽くすように。……彼はうちの英雄となる男だ、それがきっと貴女の助けとなるだろう」
グフェンも年寄りだ、幼い者に弱いのだろう。
やさしい微笑みを浮かべてルイゼを遠回しに励ましていた。
……で、眠いらしく勝手に円卓を去ってゆく。いやマジで寝床に帰っていった……。
「意外に勝手な男だな……。美味しいところを持って行かれた気分だ」
「はは……仕方ない、グフェンがそう決めた以上は仕方ない。ルイゼ、君を歓迎しよう。辛かっただろうけど、私が君の力になる、何だって言ってくれ」
おいおいフェンリエッダ、乗り換え早いじゃないか。
って目で見たらまた睨まれた。
「ぁ……フェンリエッダさん……」
いきなりやさしい態度を取られてルイゼも驚く。
いやけれど1番の否定派があっさり折れて、味方に立ってくれたことに喜び涙目で安堵した。
「エッダで構わない。そこのアウサルをよろしく頼む。……変人だから気をつけろ」
「ッッ……はいっ! えと、えと、あ、ああ、ありがとうございます、エッダさんっ……!」
……後でルイゼに教えてやろう。
そこの黒くて金ぴかのエルフ様は、不器用でクソ真面目だが善良で良いヤツなのだと。