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16-02 ダークエルフ解放作戦

 時は5時間ほど前にさかのぼる。

 計画が固まり、首領グフェンとフェンリエッダ、俺だけで最後のおさらいを行った。


「何度も考えあぐねいたが、やはり他になさそうだな」

「ああ、俺たちがエルキア本国と正面から事を構えるにはあまりに早い。ここも大きく成長してくれたが、まだフレイニアもダ・カーハも復興し切っていない」


 グフェンの言葉に賛同した。

 既に繰り返した内容だが、最終確認もかねて俺もそれを口にする。


「エルフィンシルの戦力は期待出来るとアウサルは言うが、役目を考えれば劣勢を嫌うだろうな。距離もここから1番遠い、精鋭をこの局面で消費するなど間違っていると私も思う」


 向こうの動きがあまりに早過ぎた、国外からの援軍は期待出来そうもない。

 今は最強の将ラジールもいない。俺たちニブルヘルだけでやらなければならなかった。


「うむ。奴隷農園、駐屯地収容所、この全てからダークエルフを消す。王軍との直接対決はせずに、全ての民をこの地下世界に逃がす。……では計画の最終確認をしよう。まずアウサル殿が全ての地点への短い地下道を掘る」


 幸い向こうも各個撃破を恐れてか、小さな農園から大きな農園へとダークエルフたちを護送していた。

 なぜかわからないが処刑台でほふるという形式にこだわっているようだった。


「だが国内各所に農園は広がっている、数も多い。使った穴をアウサル殿が1つ1つ塞いで回る時間はないだろう。この先、手の内を読まれることにもなるだろうが……仲間の命には代えられない、やるしかない」


 もう決まった話だ、口をはさむことなくグフェンの言葉に従った。

 作戦に穴があれば進言するがそうでないなら必要ない。


「我々がその地下道を使って同胞を逃がし、1度これを地上へと集合させる。そこから迷いの森へと誘導し、内部と外から侯爵が残した軍を追い払う。民は1度ニブルヘル砦に運び、そこからア・ジールへと保護する」


 グフェンが言葉を止めた。

 決めかねる1つの問題があったからだ。彼はためらい、その最終決定を口にした。


「ここへ直通でつながる通路は絶対に使わない。ここがもし発覚すれば、我々はアウサル殿が我が身を捨てて実現した策略、存在するはずのない地下帝国を、台無しにすることになる……。地下世界を知ったエルキアがここに攻めてくる、そうなればこうして戦い続けることも困難になるだろう……。我々は、ここア・ジールだけは何としても隠し通す……仲間の命を捨ててでも」


 救おうと思えばもっと多くの者を最小限のリスクで救える。

 だがそれをやるとこの先の状況が詰む。

 だから迷いの森の奥、地上のどこかに俺たちの隠し拠点があるとやつらに思い込ませるしかなかった。


「グフェン、つらいなら私が代わる。少し休んでくれ」

「ふふ……エッダに心配されるとは俺も老いたものだな、大丈夫だ、この程度のこと今日まで幾度となくあった、それと変わらん……。フィンブル王国が陥ちたあの時と比べればなにも……」


 グフェンが珍しくもエッダの後ろ髪を撫でた。

 そのやさしい微笑みがどうにも痛々しかったが、当のエッダが子供みたいに素直な顔をするので俺も少しなごむことが出来た。


「一方、アウサル殿は例の内通者(・・・)と接触、その真意を確かめ、問題がなければスコルピオの動きを封じる道具にする。そしてその後同時に、エルキア王軍駐屯地に忍び込み――スコルピオとエルキアの協調を断ち切る」


 グフェンが申し訳なさそうな顔で俺をうかがった。

 今から山ほどの穴を掘って、ポコイコーナンの人柄を知る俺がヤツに接触して、工作をけしかけて、それから――俺に人様に顔向け出来ない汚れ仕事をさせるというのだから。


 だが俺はもう振り切れている。

 ユランと出会ったあの日、侯爵の手下ジグロを埋めたあの時から、俺は普通じゃなくなった。


「エッダとアベルハムは救援部隊を率い、農園のダークエルフをニブルヘル砦まで護送する役割。ジョッシュとダレス殿はサウス市内王軍駐屯地を担当、脱獄後は民を守りながらエッダと合流する。俺はニブルヘル砦内部から侯爵の残した兵を追い払い、挟み撃ちにする」


 グフェンは己の配役に不満を呈した。

 仲間を守るために危険を冒したがった。だがグフェンはここの王者、グフェン無しでア・ジールは成り立たない。

 出れば要らぬ標的にされ、戦禍を広げるのが目に見えていた。


「しくじれば大きな被害が出る。エッダ、お前はやさし過ぎるから言っておくよ、ある程度の割り切りは覚悟しろ……。それがその他多くの命を救うことになる……。何か意見はあるか……?」


 少し考えて首を振った。

 エッダも同様だ、言葉に出せば軽薄になる、俺たちはあえて沈黙を守った。


「では時間が無い、決行だ」

「任せてくれグフェン、私が貴方に代わり少しでも多くの同胞を救って見せる」

「なかなかハードだがどうにかしてみせよう。グフェン、アンタは絶対に前に出るなよ、心配だ」


 グフェンはそれでもフェンリエッダの真っ直ぐ過ぎる気性が、今回の作戦に不適応なのではないかと不安げだった。

 俺の言葉に彼は笑う。それからやはり申し訳ないと表情を暗くした。


「アウサル殿……貴殿の役割は極めて重要だ……。危険な仕事だが、すまんが必ず成功させてくれ……それ1つで我々の未来が変わる……。すまん、今だけは見苦しくも頼らせてくれ……こんな汚れ仕事を押し付けて、本当にすまない……」


 そうだ、俺の最後の段取りは汚れ仕事になっている。

 向こうが殺戮という手段を選んだのだ。こちらだってもう方法を選んでなどいられなかった。

 ダークエルフたちを守るために、俺は自らの手を染める。それがどうしても必要だったからだ。


「それは別にかまわない。俺は悪党に情け容赦をするつもりなどない。当然ながら迷いもない。……必ず成功させてこよう」


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