2-3 宝物庫になま物
ドンピシャの大当たりだった。
フェンリエッダ率いる荷馬車が現れると、すぐに地下宝物庫の床をぶち抜き大泥棒を始めた。
一角に黄金の延べ棒20数本が並べられ、珍しい壷やら骨董やらに囲まれていた。
さらには大きな宝石箱がいくつもいくつも並び、ダイヤにルビー、サファイア、エメラルド、ベリルなどなどが七色の輝きを放っていたのだ。
刀剣やら全身鎧、肥満趣味の裸婦像やら何でもござれだ。
これだけの財宝が根こそぎ奪われたとなれば、そのショックは果てしない。
少なく見積もって1月2月は悪夢にうなされることだろう。
「ポコイコーナンめ、まさかこんなものまで……。クッ、どうするアウサル……」
既に荷馬車隊による強奪が始まっていた。
しかしここの床をぶち抜いた時点で、1つの予定外が俺たちの前に現れていたのだ。
「どうもこうも無い、元より俺たちは根こそぎ奪い取る予定だっただろう」
「だが……だがこれは問題があるぞ……?」
つまりこういうことだ。
倉庫にしまわれたのは物ばかりではなく、者まで混じっていたのだ。
……年端もいかないヒューマンの少女が監禁されていた。
「っ……っっ~……!」
布がその口を塞いでいる。
口だけじゃない、手足も縛られていた。
念のため言うが俺たちがやったんじゃない。
「連れ帰ればアジトが割れるかもしれない……」
懸念事項はソレだった。
こんなよくわからない者のためにそんなリスクを冒したくない。
……というのがフェンリエッダの正論だ。
「何だまだやってたのかっ! そんなもの出たとこ勝負でいいではないか! それより2人とも泥棒を手伝え、泥棒をっ、楽しいぞぉ~!」
「ラジールに賛成だ。どちらにしろ連れ帰るしかない、いっそグフェンの知恵を借りよう」
「……っ!」
その少女というのがまた綺麗な顔立ちをしていた。
服装は地味なエプロンドレスを着込んでいたが、どことなく利発そうでここに監禁されてる経緯が気になった。
「お前たちは無責任だ……」
「じゃあ殺すか? そうはいかないだろ、顔を見られた以上は選択肢など無い」
やはり賢い。いや逆に考えれば当然か。
少女は俺たちに恐怖を覚えていた。
なぜなら彼女からすればダークエルフの盗賊団に遭遇したも同然の状況だったからだ。
俺の言葉に震え上がって、俺の擁護にかわいらしくも安堵した。
「あのクズ商人め……! だが、だがアウサル……!」
「じゃあこうしよう。ここに異界のコインがある、錆びない不思議な銀だ。これを飛ばして裏が出たら殺す、表が出たらお宝として持ち帰る……よし始めるぞ」
勝手にコインを爪弾いて手のひらで受け止めた。
結果は表だ。
「よし連れて行こう」
「アウサル……お前、裏が出たらどうする気だったんだ……。冷や冷やしたよ……」
フェンリエッダはシビアだが善良だ。
助ける気なかったんじゃないのかと心の中でツッコミつつ、言い出しっぺの自分が少女の縄を斬った。
……すまんがスコップで。
「っ……! っっ~~!」
本の中の英雄はこんなとき笑いかけていた。
だがアウサルの蛇眼と白い手を目撃して、少女は感謝より怯えの顔を浮かべる。
「アウサル、お前は手伝わなくていい。ソイツを任せた」
「……そりゃ得したな、悪いがそうさせてもらおう。お嬢さん、悪いが一緒に来てくれ。手荒なことはさせない」
飲まず食わずだったのかもしれない。
弱った足取りの彼女に肩を貸して、俺は取り急ぎ外の荷馬車を目指した。
……外までやってくると気が落ち着いたのか、お宝の少女はすぐに眠りへと落ちていった。
「アウサルさん、本当に全部奪うんですか……? あの黄金重過ぎますよっ、持つにしたって二人係になるっ、これじゃどれだけ時間がかかるか……」
監視もかねて荷馬車でゆっくりしていると、荷馬車隊の1人が俺にグチった。
こんな大がかりな泥棒なんてしたことないんだろう、焦っているようだ。
「ダメだ全て奪え」
「えぇぇ……?!」
「想像してみろ、全てを奪われたポコイコーナンの顔を。……もしかしたらショック死してくれるかもしれんぞ」
若いダークエルフだ。
俺の言葉を飲み込み、それからかみ砕くと、疲れ顔にニヤケた笑みが浮かぶ。
「そいつはいいっ!」
「だろ。そうそう気づかれることはない、大胆にいけ」
やがて2台の荷馬車いっぱいに財宝が詰め込まれ、俺たちは悪徳商人ポコイコーナンの宝物庫を空にしてやった。
重さのあまり馬車の足はスローだったが、何とか財宝の全てをアジトに持ち帰ることに成功するのだった。
……どいつもこいつも泥まみれで、それはもう酷い姿だったがな。
投稿先また間違えてました……
定時より1時間遅くなったことをおわびいたします……。