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15-02 半月ぶりの帰国、天使ティルフィンとの再会 1/2


15-02 半月ぶりの帰国、天使ティルフィンとの再会 1/2


 政務所とうちは近所と呼べなくもないご近所さんだ。

 傷だらけの少年のラーズを連れて俺は自宅に戻った。

 ここも大きくなって人の往来が増えてきた、そろそろ玄関に鍵というものを用意しなければならないのかもしれない。


「ここがアウサルさんの家ですか。何だか不思議な建材ですね」

「ああ、だが快適で過ごしやすい、それになかなかに頑丈だ。ラーズはそこに座っていてくれ」


 しかし困った。客のもてなしなどほとんどしたことがない。

 思えば何もかも家のことをルイゼに任せきりにしてきていた。

 誰かがいればと奥を見たが、パフェ姫どころか眠れる子竜ユランすらいないとくる。


 さあどうするアウサル、ラーズという客をどうもてなす。

 ……何をすれば正解となるのか、それがまずわからん。

 そうだ、ルイゼは飲み物と軽食を出していたな……よしこれだ。


「待たせたな、これでも食って休んでくれ」

「あ、どうもありがとうございます」


 水瓶から水をくんで出した。

 ただコップが見当たらなかったのでそこは皿で代用した。

 それと旅の間に残った手持ちの干し肉を出しておいた。


「ふぅぅ……生き返ります。ここは水も美味しいですね」

「ああ、そこは強く同意したい。俺の故郷は水の確保もなかなか難しい土地でな」


「苦労されていたんですね」

「ああ、招待出来ないのが残念だ。昼は灼熱、夜は冬のように凍える世界だ。虫1匹どころか草すら生えん、自殺に使う者もいて少し困っている」


 ラーズは文句一ついわず皿から水をすすり、塩辛い干し肉を美味そうに食べた。

 彼をこの国の食材でもてなしたい。今俺は己の不器用さが憎い。麦のかゆなど出しても味気ないだろうしな……。


「へー……。え……ええっ、それってどんな故郷なんですか!?」

「白き死の荒野と呼ばれている。来る者の命を奪う世界だが、かつてそこにユランの王朝があったそうだ。あらゆる種族が争わず平和に暮らす、地上の楽園がな」


 山奥に引きこもって生きてきたのだ、呪われた地と、そこに住まうアウサルを知らなくとも当然だった。

 歴代のアウサルはユランの楽園を掘り続けてきた。そこに何か意味があったのか。


「あ、それはハルモニア様から昔聞いたことがあります。ユランの作った千年王国、本当に存在したんですね……」

「俺たちからすれば幻のような存在だがな。……そうだった、住居の手配は明日になるそうだ。だから今日はうちで休んでいってくれ」


 しかしそうなるとラーズに伝えておかなければならないことがあった。

 特にフィンだ。ラーズは真面目な少年なので妙な影響はないと思うが、いかんせんどちらも年頃だ。


「うちには女の子が2人ほどいる。……いやそう緊張するな、どちらも良い子だ。特にルイゼはラーズと同じ10歳、と言うとむしろさらに緊張させてしまうか?」

「う……お、女の子がいるんですね……あはは……」


「何だ、女は苦手か?」

「そ……そんなことはないですけど……。いや……でも、得意ってわけでもなかったかも……。ぅ……」


 ラーズよ、それは苦手だってことだ。

 ちなみに俺は慣れたぞ、ラジールという個性にぶちあたって悩むのを止めたともいう。女だから何だというのだ、ヤツはヤツだ。女とか男とか気にするバカらしさを俺は知った。


「心配するな、ルイゼは誰にでも分け隔て無くやさしい。フィンの方は……あっちはわからんな。どう育っているのやら」


 そこで少し迷った。フィンのことをどうラーズに説明したものだろうか。

 そうして言葉を選んでいるとうちの玄関が鳴った。

 しかし足音がどうも足りない。トン……トン……トンと間隔の長すぎる足音が響くと、俺たちの前に天使が帰って来ていた。


「ぇ……天使……?」


 天使フィンだ。

 しばらく見ないうちにとんでもない成長をとげていた。

 身長はもうルイゼとそう変わらない。その大きくなったフィンと俺は目線を重ねて見つめ合っていた。


「……フィンか? まあそんな綺麗な羽を持った住民などお前の他にいないか」

「えっええっ、うわぁぁーっ?!!」


 ラーズがイスから転げ落ちた。

 皿をひっくり返して水をかぶっていた。


「あ、お帰りパパ」


 天使フィンはそのまま俺たちの横を素通りして奥に消えた。

 ……いや、待て、応対が淡泊過ぎやしないだろうか?

 なぜだかわからないが深い落胆の感情が胸を苦しめるぞ……。


 あの子の成長が楽しみで国に帰ってきたというのに、一体なぜだ……。

 まさか、俺は、フィンに嫌われてしまったのか……?


「て、天使ッッ、天使でしたよ今のッッ?!! な、何でこんなところにっっ、だってあれってっ、サマエルの軍勢でしょッッ?!!」

「違う、あの子は俺が拾ったんだ。まだ卵だったそれをユランが温めて、ああして大きく育ったのだ、敵ではない。……フィン、良ければこのラーズに、挨拶をしてやってはどうだろうか?」


 奥に向けて声を上げると、少し遅れて天使フィンが戻ってきた。

 何とトレイの上にアイスティーを2つと、ブドウの乾果が乗っているではないか。

 だが態度は素っ気なく笑顔がない、無造作にテーブルへと茶と乾果が差し出された。


「パパ、汗くさい」

「……すまん、ここまで歩き通しだったからな」


 臭い、だろうか?

 服を嗅いでみたところ汗と土ぼこりの匂いが身体に染み着いている。まあ臭いかもしれない。


「その子がラーズ?」

「そ……そっちだって子供じゃないかっ」


 ラーズも男の子だ。同年代に見える女の子にずけずけと言われ、思わず反論していた。


「なんかダサい……この子なに? パパの隠し子?」

「そんなわけないだろう……預かりものだ。今日はうちに泊まっていく」

「……よろしく」


 ラーズが握手を差し出して譲歩した。

 ところがだ、何となくわかっていたがフィンはラーズを無視した。


「せっかくパパが帰って来たのに、お邪魔虫まで増えるなんて聞いてない。ユランママもエッダママも、ルイゼママも楽しみにしてたのに……そんな子、グフェンのところに押しつけちゃえばいいよ」


 眼中に無い。ラーズは握手を引っ込めてフィンのそんな態度に困惑している。

 何というか大きくなったものだ……。

 思春期、というものだろうか? これはこれで妙な時期に帰ってきてしまったな……。


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