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15-01 ラーズ少年が見た夢の新天地


前章のあらすじ


 封印の国エルフィンシル向かうことになった。

 アウサル、鍛冶ハンマーのブロンゾ、ダレスは白の地下隧道を経由して中継地点ニル・フレイニアを訪れる。

 そこでラジールと合流し、フレイニア国内を南方へと抜けた。

 丘を越え、山を越え、森林地帯を越えると大地を切り裂く断崖絶壁が現れる。

 この世界は踏破困難な地形を無数に有しており、それが劣勢に立たされた亜種族たちを今日まで守ってきた。


 その危険極まりない谷を下り、そして上ってゆくとブロンゾが亡霊を見たと言い出す。

 その亡霊の名は調停神ハルモニア、エルフィンシルへと訪れたアウサルらの要求を一度は拒み、彼らに試練を課した。


 封印の国はアビスを封印するために存在する。

 試練とはその封印の儀式に加わり、ザ・ヒーロー・ラーズと共にアビスの魔物を打ち倒すこと。だが期待のラーズはまだ10歳の少年だった。


 封印の儀式はアウサルらの武勇により順調に進む。だが予定外にもアビスの貴族黒伯爵が現れてしまった。

 黒伯爵は語る、かつて自分たちは創造主サマエルに裏切られた。

 力を貸してやろう、ヒューマンを奴隷に変えてやろう。だからここから我々を解き放て。


 アウサルらが怪しい要求をのむわけもなく、黒伯爵はスコップにより己の肉体をえぐられ滅びた。

 アビスという牢獄の管理者ハルモニアはいたく感動し、ア・ジール地下帝国への参入を宣言するのだった。


 かつて天界はユランの裏切りにより廃墟と化した。

 その裏切りの竜ユランは、ハルモニアにとってただ1人の英雄だ。



―――――――――――――――

 特別編 雷鳥の家紋を持つ男

―――――――――――――――


15-01 ラーズ少年が見た夢の新天地


 それからしばらくのことは割愛する。

 俺はラーズとともに本拠ア・ジールに帰ってきた。


「凄い……本当に地底に町がある……ここが、ア・ジール! うわぁぁ、なんて不思議なところなんだ……」


 洞窟からその奥に見える世界に彼は驚愕した、10という若さが彼の足を夢中で走らせた。

 光輝く地下世界と、白の地下隧道周辺に珊瑚のように張り付く商店街やバザー。それらをラーズの丸くなった瞳がキョロキョロと見回していた。

 俺も少しだけ驚いた、ここは帰ってくるたびに町並みが立派に成長してゆくのだ。


「そうか、ラーズはエルフィンシルから出たことがないんだったな。俺も生まれは田舎でな、その気持ちは何となくわかるぞ」

「そうなんですか? はい、エルフィンシルは山から出るだけでもう大変ですから。だけど……本当に凄い……。俺っ、無理して来たかいがありました! ここをアウサルさんが作ったんですね!」


 それはよくある思い込みだ。

 言われたのは初めてではなかった、まだ完全に怪我が治っていないというのに少年は少年らしくもはしゃぐ。

 ハルモニア似の少年が明るい笑顔を浮かべると、何となく否定するのも無粋な気がした。


「まあ、おおむねそんなところだ」

「あっあれは……アウサルさん……あれ見て下さい、あの人……っ、人……ですよね?」


 ラーズの指を追うとそこに犬型の獣人の姿があった。

 外では物珍しい存在だが、獣の地下隧道の成立によりすっかり見慣れた存在に変わってきている。


「ああ、獣人だ。ア・ジールは獣人の国ダ・カーハにも繋がっているからな」

「それもアウサルさんが造ったんですよね、す、凄いです! まさに奇跡の力です! 追いつめられた種族と種族を1つに結び直す力! あっあれは何ですか?!」


 あちらではハルモニアの手前もある。大人ぶっていたのかもしれない。

 意外な無邪気さに俺は微笑みを浮かべていた。

 俺がこうして笑う日が来るだなんて、つくづく滑稽なものだ。


「オレンジだ。ここは麦と果樹が豊富でな、土壌も驚くほど豊かだ、子供の背丈ほどのカブが取れたこともある」

「本当に奇跡みたいな国ですね。地底なのに太陽があって、みんながみんな笑顔を浮かべている、ア・ジールは凄い国ですねアウサルさん!!」


「さすがにそこまで誉め倒されるとむずかゆいぞ。しかし事実本当に、奇跡のような世界だな……」

「すみません、だけどこれは凄い、凄い世界だと思うんです! 来て良かった、生きてるうちにこんな光景を見られるなんて……」


 生きているうちだなんて、子供のくせに辛気くさい言葉を使う。いやそう思ったが考えをすぐにあらためた。

 ラーズはエルフィンシルの人間、それも戦うべくして育てられた子だ。

 いつかは己が屍を無惨にさらすことになると、彼なりの覚悟がもうあるのだろう。


「ラーズ、だが少し落ち着け。異界にこんな言葉がある、おのぼりさん」

「はい、それはどういう意味ですか?」


「都会に出てきた田舎者を指す言葉だ。挙動ですぐにわかることから、悪い意味で使われることが多いらしい」

「だけどアウサルさん、ここはそれだけ驚く価値のある世界です。こんな綺麗な世界を見たの俺初めてです、来て良かった……ハルモニア様には感謝です!」


 正直に言おう、ここの住民としてラーズの感動するさまが少しばかし、良い気分だった。

 だからついつい俺も饒舌に、ア・ジールのことを語りながら高台政務所への道を歩いていった。



 ・



 ところで少し話が飛ぶ。

 共にエルフィンシルに向かった他の連中の動向だ。

 ダレスとブロンゾはもう一緒に帰国している。ただしそこに豪傑女ラジールは加わらなかった。


 本人は戻りたがったが、俺たちが元々の彼女の仕事を邪魔してしまった形なのでそこは仕方ない。

 ……次に来るときはパルフェヴィア姫の妹君、バロルバロアを連れてくると言ってた。

 それが妙なことを招かねばいいがな……少しだけ不安だ。姉はもちろん喜ぶだろうが……。


「ここが政務所だ。……やはり何度見てもただの民家だな。しかしこんななりだが、ここア・ジールで1番偉い男がここにいる」

「グフェン様ですね、お話はハルモニア様からうかがっています。敗北したフィンブル王国残党を取り仕切り、神話の時代から今も戦い続ける不屈の戦士だと」


 グフェンもまた俺たちの誇りだ、外国人にあたるラーズから言われると嬉しいものだ。

 グフェンがいるからこの国は成り立っている。それは俺の手柄じゃない、俺はただ穴を掘っていただけだった。

 俺はラーズを誘い、ただの民家としか思えない住居の扉を開いた。


「あっアウサルさんっ、お帰りなさい! あれ、その少年は……」

「ただいまアベルハム。この子はラーズ、エルフィンシルがよこした客将だ。グフェンはいるか?」

「は、初めまして、ラーズと申します!」


「初めましてラーズくん。俺はアベルハム、アベルって呼んでくれ。……グフェン様なら奥にいるよ、ついて来てくれ」


 アベルハムもここの仕事にすっかり慣れたようだ。

 面倒な段取りを省いて俺たちをグフェンの政務室へと導いてくれた。

 しかし主がちゃんと政務所にいるとは珍しい日もあったものだ。


「おおアウサル殿、帰ったか、おかえり。話はここから聞こえていたよ、その子がラーズだね」

「は、はいっ、俺っあっ、いやっ、私の名前はラーズです! よろしくお願いしますっ!」


 まだ10歳なのだ、無理もない。

 ラーズの肩を叩き、俺が代わりに代弁してやることにした。


「彼はラーズ、調停神ハルモニアのお気に入りだ。まだ10だがおいおいは優秀な戦士に育つ。ハルモニアは彼に武者修行をさせたいようだ」

「ひぇっ?! あのっ、そんな持ち上げられると逆に、困るんですけどアウサルさんっ?!」


 だが要点は押さえておかなければならない。

 グフェンがラーズ少年を興味深げに眺めて、それから俺に視線を移した。


「これは朗報が期待出来そうだ。アウサル殿、帰国早々で悪いが報告を頼む」

「ああ、そうだったな。……エルフィンシル発、至ニル・フレイニア王都への地下道が完成した。封印の国エルフィンシルも我々ア・ジール地下帝国に加わるそうだ」


 ユラン宛の書簡をハルモニアから預かっている。

 ユランが同意すればとの条件付きだが、そこは省いておいた。

 彼女が憧れの英雄ユランに悪い条件を提示するとは思えなかったからだ。


「おお、ハルモニア様とその軍勢が味方してくれるか。それは頼もしい、素晴らしい成果だアウサル殿。まあ、ダレス殿から聞いてはいたのだな」

「今日まで命をかけてアビスを封じ続けてきた連中だ。数は多くないがラジールが惚れ込むほどの精鋭がそろっていた」


「ふふ……まさかそれを本当に味方につけてしまうとはな。アウサル殿、実のところ俺は彼らがこちらに加わってくれるとは思っていなかった。アウサル殿がトンネルだけでも繋げてくれたらそれで十分だとな」

「……わ、我々エルフィンシルの民もエルキア王国の暴走には苦慮しています! え、えっと、その……どうかハルモニア様を信頼して下さい!」


 ラーズとしてはこれだけは言わなければならないと判断したのだろう。

 若いが一応使者でもある。言葉を上手く使いきれないところが老人グフェンの庇護心を刺激したようだった。


「そうだった、ラーズはザ・ヒーローだとハルモニアが言っていた」

「きょ、恐縮です……っ」


 するとグフェンの顔色が変わる。

 ラーズを真剣に見つめ、何かを確認していた。


「ザ・ヒーローか。その昔はずいぶん煮え湯を飲まされたものだ。これこそサマエルのえこひいきの最上級、それをまさか味方にしてしまう日が来るとはな……。ハルモニア様も、ただアビスの封印を守り続けていただけではないようだ」

「そのハルモニアはラーズを将来のアビス封印の要にしたいようだ。ラーズを前線に出せと無茶なことを言っていた、勇者は強運持ちなのでそうそう死なないと」


 滅茶苦茶な話だったがグフェンは疑問も反論も示さなかった。

 大昔にその目で見てきたのだから俺より遙かに事情を知っているのだ。


「グフェン様! ラジール様が戻られるまでアウサルさんのお手伝いをさせて下さい!」

「おお、それは名案だな。ぜひ彼から学ぶといい、その奇想天外な戦術と発想力を」

「それは過大評価だ。俺は今日まで全て、スコップ頼りの力押ししかしてきていない。これは謙遜抜きの事実だ」


 ともあれ話はついた。

 疲れているからもう帰るとグフェンに本音を述べて、俺はラーズを連れて自宅に戻ることにした。

 いや本当の本音は、一時も早く天使フィンの顔を見たかったからだ。


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