第1章 7話 「生きて」
騎士は目をカッと開きながら、首は異様な方向にねじれている。
息絶えていた…。
「死んでる…」
私が殺したんだ。
怖かった。震えが止まらない。とんでもない罪を犯してしまった。
怒りや憎しみはどこかに消え、ただあるのは、後悔と罪悪感と恐怖だけだった。
ぼろぼろと涙が頬を濡らしていく。
「ホープ………来てくれ……」
死んだ騎士を上から見下ろしていると、後ろから名前を呼ばれる。
「おじい…っ」
私は泣きながら、よろよろと歩く。それから血だらけで横たわっているおじいの側に座り込んだ。
もうどうすればいいのか分からなかった。おじいのことも、騎士を殺してしまったことも。
「…おじい……」
私は名前を呼びながら、両手で血が出ている脇腹を強く押さえる。
でも止まらない。どうにかしないと…。
「待ってて、すぐ助けを呼んでくるから」
そう言って立ち上がる。
「いや…、いいん……だ…、ふっ……それにどこに助けがあるって言うんだ……?側に……、いてくれ………」
途切れ途切れに言葉をつなぐ。
「でも…、でもっ!」
言葉を飲み込んだ。そして再び座った。
「嫌だよ…。おじいこそ、ずっと私の側にいて…」
涙で視界が霞み、おじいの顔がよく見えない。袖で涙を拭うが、どんどん涙は溢れてくる。
「……ホー…プ…、わし……は…おまえ…を………孫のように……思っていた……。家族のように…」
「わかってるよ。私もだよ…。………大好きだよ」
「……ホープ……」
そう小さく私を呼ぶと、おじいは右手で私の頭を2回優しく撫でた。
そのままおじいは胸の上に、私の頭を抱き寄せた。
私はおじいの胸に静かに顔をうずめる。おじいの胸は温かくて、とても安心できる。
「おじい。」
私が名前を呼ぶと、彼は大きく息を吸って言った。
「おまえと…一緒……にいれて……、幸せだった………。」
「うん…。知ってるよ。私もそうだもん。」
「ふふっ………。ありがとう……ホープ…。」
「ホープ……、幸せに……なりなさい…。生きて……幸せになりなさい……。」
そう言い終わると、おじいは静かに息を吐いた。そして私の頭を手で、優しく優しく撫でる。
その手に力が無くなった。
「…………だよ………、嫌だよ……っ!」
私はおじいの胸にすがり付く。
「私を一人にしないでっっ!!置いてかな
いでぇぇぇぇっっ!!!!」
何度も何度も何度も名前を呼んだ。でももう返事は返ってこない。
私の大好きだった人はもう二度と、私を抱きしめることはない。私の名を呼ぶこともない。
「……一人に……しないで………、…私の側にいて………。」
私の声だけが、暗い森に響いていた。