第4章19話「心優しき種族」
「さあ、そうと決まれば、この世界から出ましょう」
「そうね。でも出るって……一体どうやって?」
イルマが首をかしげて尋ねた。
彼女につられて私も首をかしげる。
「ええっと……」
(いつもどうやって目を覚ましてたっけ?……うーん、ここが夢の中なら起きられるのかな……)
そう思って、目を閉じ意識を集中させる。
(起きろ……起きろ……)
強く念じた後、パッと目を開けると、首をかしげたイルマが目に写った。
先程と何の変化もない。
「ダメみたいだ。どうしよう……。そうだ、ハーレンなら、何か助言をくれるかも。ハーレンが来るかは分からないけれど、呼んでみます」
「……ハーレン?それは誰なの?」
「ほら、おとぎ話の"大罪"に出てくる竜ですよ。人間から恐れられ、嫌われていたけど、本当は仲間想いの優しい一族……。あれ?なんだか人魚と竜って似てますね。とにかく、ハーレンを呼んでみます」
私は大きく息を吸い、胸に溜めた空気を思いっきり使って叫んだ。
「ハーレンっ!!どこかにいるっ!?……居たらきて!っ」
神聖なる空気をまとう湖と森に声が響く。きっと対岸まで届いただろう。
すると辺りの空気が一気に変わる。
それと同時に湖の中から、ものすごい勢いでハーレンが飛んでやってきた。
水しぶきが舞い、イルマと私の髪や服を濡らす。
「やっと僕を呼んでくれたね」
「きゃぁぁぁぁっ!!!!」
初めて対面する竜に驚き、イルマは、悲鳴をあげる。
ハーレンはイルマの叫び声に目を丸くしていた。
「あははっ、いやぁ、僕も怖がれるのには慣れてたけど、ずいぶん久しぶりだったから、ちょっぴり傷ついたよ」
ハーレンはやれやれといった様子で、肩をすぼめた。水に濡れた彼の鱗は、月夜に照らされ輝いていた。
「イルマさん、落ち着いて下さい。ハーレンは危害を加えてきたりしませんから」
「りゅ、竜がしゃべったわ!?」
「君はイルマ、といったね。君も竜の姿のときに話せるはずだよ。僕みたいにね」
「えっ?そ、そう……」
「良かった、ハーレンが来てくれて。……ところでハーレン、ずっと湖の中にいたの?」
「ううん、違うよ。でも湖から出てきた方がカッコいいかなってさ」
青い瞳の竜はのんびりと言った。
「カッコいいとかそういうこと気にするんだ……。あっ、それでね、ハーレン、私たち現実に戻りたいんだけど、何か方法を知ってる?」
「待って、ホープちゃん、この世界から戻ったとしても、私はまだ竜の姿かもしれないわ?私を元の姿に戻せる算段はあるの?私、またあなたに危害を加えるかも……」
「ええっと、そ、それは……」
そういえばそうだった。
現実の世界に戻ったとしても、この夢の世界と同じくイルマが人の姿であるとは限らない。
「あぁ、そのことなら僕に任せて。人の姿に変える方法を知ってる。それに君はもう大丈夫さ、竜の姿でも意識を保てるよ」
「本当!?」
イルマはキラキラした目で、ハーレンを見つめていた。
「やり方は……ホープが知ってる。ほら、思い出して……」
ハーレンが瞳を閉じて、意識を集中させている。すると、ピーンと閃いたように、頭の中に一気にイメージが押し寄せて、正しい答えが導き出された。
「な、なにこれ……。頭の中に急に呪文が……。ハーレンがやったの?」
「うん、そうだよ。ここはそうだなぁ、"夢の中"だからね。不思議なことも出来るもんだね」
まるで他人事のようにハーレンは笑いながら言った。
「現実に戻るのは簡単さ。僕が君たちの目を覚まさせてあげるから。さぁ、君たちの世界にお戻り……」
ハーレンは目を閉じて、自らの頬を私の首筋にそっと触れさせた。
私は反射的にハーレンの頭を撫でる。竜は気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「ありがとう、ハーレンさん。それと怖がってごめんなさいね」
イルマが丁寧にお辞儀をする。
「うん、どういたしまして。僕ができるのはここまでさ。ホープ、後の事は自分で頑張るんだよ」
「うん、やってみる」
「さあ、二人とも目を閉じて。この、穏やかで、凪のような静けさから……目を覚ますんだ。聞こえるだろう?外の人々の声が。ほら、目を開けてごらん……?」




