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精霊の湖  作者: 桜木ゆず
第4章 トレイユ城

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第4章17話「イルマ・ラダ・レスタ」

 


「父は6歳頃から奴隷だった。奴隷になる前の事はほとんど覚えていなかったみたい。微かに覚えているのは人魚だけの集落で生まれ育ち、幼い頃に集落が人魚狩りに遭ったこと。その時、大人達のほとんどは殺されたそうよ。生き残った父はその後すぐに奴隷にされた……」


 奴隷という単語にピクリと反応する。幼い頃に奴隷にされたという点も私と同じだった。



「人魚は下等種族で、獣と同じ。それに鱗は高く売れるから、手元に置いておきたいって人がいくらでもいるんですって。……全く、酷い話でしょう?」

 イルマのどこにもやりきれない気持ちは、ぎゅっと握った拳に現れていた。



「奴隷になった父は、西の国、ギギラに連れられ、炭鉱の酷い環境で働かされた。何年もそこで耐えたけど、一緒にいた奴隷の友人が落盤事故で亡くなった。そしてついに耐えられなくなった父は、16の頃にそこから脱走した。だけど行く宛も無くさまよい疲れ、お腹を空かせて倒れたの。その時に、助けたのが母」



「ギギラでは人魚と犯罪者は皆、奴隷にされる。でも母は元々奴隷制度を嫌ってたみたいで、父を家に匿った。奴隷を匿うことはギギラでは犯罪なの。だから村人からは白い目で見られ、家族からも反対されたらしいわ。いつか誰かに通告されるのではないかと母は恐れ、二人で村を出たみたい」



 やはりどこの国でも、奴隷制度に首をかしげ、手助けしてくれる人はいるのだ。

 私にとってそれはルーフェンだったが。



「その後、二人はギギラの国を転々としながら暮らしてたそうよ。父と母はいつしか夫婦となり、しばらくして私が産まれた。私が7歳になり、ある程度旅が出来るくらいの年齢になった段階で、ギギラを出たの。そして奴隷制度のない自由な国を求めて、このトレイユ国にやってきた……。だけどね、奴隷制度がなくとも、人魚に対する冷ややかな目は、母の故郷のギギラと同じだった。」



「父は腕のいい鍛冶職人で、剣や盾を作って街で売ってたわ。そして母は……魔法使いだった。魔法学校は貧しくて行けなかったらしいけど、独学で学んで、村の役に立ってた。魔法を上手に使い、薬を作ったり、井戸を掘ったり、時には害獣駆除のような危ない事もしてた。おかけで村人からは一目置かれ、人魚である父も私も安全に村に居ることが出来た」



「でも私が9歳の頃、母は流行り病で亡くなった。あの時の父はずいぶん塞ぎ込んでいたわ。それからは、私に苦労させまいと、父は鍛冶の仕事に打ち込んでいった。母が亡くなってから3年後のある日、父は、作った剣を街まで売りに行くから家を空けると言った。それは珍しいことじゃなかった。だから私はいつものように頷いて、何日も玄関先で父を待っていた……」



「だけどね、やっと父が家に帰ってきた時、父は……。父は死んでいたの……。村人が近くの川で死んでいた父を見つけてくれてね。人魚狩りに遭ったみたい。人魚の鱗は全て剥がされ、青い瞳はくりぬかれてた。とても酷い姿だったのを、今でも鮮明に覚えてる。」



「奴隷制度のないこの国で、人魚狩りに遭うなんて、父も思ってもなかったでしょうね。私はそうして一人になった。でも幸いなことに、父も母も私に幾らかのお金を残してくれてたの。だから私は魔法学校の門を叩いた。母と同じ魔法使いになろうと思ったから。学費や生活費が足りなくなったら、人魚の鱗を剥がして売って、お金にしたわ。その時の傷がこれ」


 彼女は服を捲り、お腹の辺りを少し見せた。鱗の形の盛り上がった肉が見えた。


「魔法学校では、この醜い鱗を隠し、完璧で優しい人間を装って、友人をたくさん作った。そして魔法の力が認められ、魔導師の位を授かり、城で働くようになった。そしてアルシア様と出会ったの。彼こそ完璧よ。人魚だと打ち明けても、彼の心は何一つ変わらず、私を見てくれた。」


「だけど、王は……、アルシア様との結婚は許さないと言った。そして、人魚だと人々にばらされたくなければ、息子と離れなさい、とね」


「人魚の私が王族の一員になって子どもを生む。そしてその子が……、人魚の子が王になれば、この国での人魚の扱いは間違いなく変わるはず。私はこの国の人魚に対する偏見や差別を無くしたいの。それができるのはおそらく私だけ。だから王を暗殺しようと思ったの」



「思い描く未来のためなら、多少の犠牲はやむを得ない。私の考えが正しいこととは思わないけれど、人魚達のためには必要なことなの。……だから王と、雪夜に招かれた客が私の前に立ち塞がるなら、私は容赦しない」



「これが私、イルマ・ラダ・レスタの過去で、これから目指す未来よ。どう?ホープちゃん、知りたいことは聞けたかしら?」



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